日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23_2AM2] 津波堆積物

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 415 (4F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)、座長:西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)

11:45 〜 12:00

[MIS23-11] 三陸海岸における古津波堆積物の認定とその年代:岩手県山田町小谷鳥トレンチ調査

*石村 大輔1宮内 崇裕1阿部 恒平2早瀬 亮介3小原 圭一3 (1.千葉大・理、2.応用地質株式会社、3.株式会社加速器分析研究所)

キーワード:津波堆積物, 三陸海岸, 2011年東北地方太平洋沖地震, 歴史津波, 869年貞観津波

三陸海岸における歴史津波は,1611年慶長三陸津波,1896年明治三陸津波,1933年昭和三陸津波,1960年チリ地震津波などが広く知られている.しかし,三陸海岸特有の地形・堆積環境と人工改変の影響のため歴史記録にある大津波の痕跡は,津波石などを除き,津波堆積物として記録されていないことが多い.そのため,2011年以前は三陸海岸における古津波堆積物調査は仙台平野や石巻平野ほど進んでおらず,古津波堆積物に基づく三陸海岸の津波リスクの評価は十分ではなかった.2011年東北地方太平洋沖地震後,この地震の1つ前のイベントとして869年貞観津波が注目され,従来調査適地とは判断されていなかった三陸海岸における確度・精度の高い古津波履歴情報と歴史津波の実体解明の必要性が高まった.本発表では,平成24・25年度文部科学省委託研究「東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測」(受託者代表: 東京大学地震研究所)によって実施された臨海部のトレンチで見出されたイベント堆積物を津波堆積物と認定し,その年代について発表する.調査地は,岩手県山田町小谷鳥の完新世低地である.本地点では,1611年慶長三陸津波(今村,1934),1896年明治三陸津波(卯花・太田,1988),1933年昭和三陸津波(東大地震研究所,1934)がトレンチ地点まで到達していると考えられる.1960年チリ地震津波の記録は,小谷鳥の西側の船越では記録されている(岩手県,1969)ものの,小谷鳥に侵入したという記載はなく,現地の聞き取りでも同様の結果であった.2011年の津波の遡上高は約30 m(原口・岩松,2011)である.本研究では,標高約3 mの地点で長さ12 m,深さ2 m,幅3 mのトレンチを掘削した.トレンチ壁面では,泥炭層もしくは有機質シルト層中に水平に堆積した細礫・粗粒砂層が11層(2011年津波堆積物含む)と削り込みを伴うチャネル状の砂礫層が2層認められた.本研究では水平に堆積する細礫・粗粒砂層をイベント堆積物として,上位からE1-E11と名付けた(E1は2011年津波堆積物).放射性炭素年代測定は,(株)加速器分析研究所,(株)地球科学研究所に委託し,一部は(株)加速器分析研究所との共同研究にて行った.火山灰分析は,粒子組成と火山ガラスの屈折率測定を行い,火山ガラスの主成分分析を(株)古澤地質に委託した.津波堆積物の認定に関しては,2011年津波堆積物をリファレンスとした.2011年津波堆積物は,小谷鳥海岸の礫浜の堆積物を起源とし,円磨度の高い礫を多く含む.一方で小谷鳥に流れ込む河川の堆積物は,淘汰が悪く角礫主体であるため,山側から供給されたものと海側から供給されたものは識別可能である.また,トレンチサイトは海岸から300 mほど離れており,現地の聞き取りでも高潮による海側からの堆積物供給はないという結果(少なくとも最近数十年間)であった.そこで,現成の海浜堆積物,河川堆積物と各イベント堆積物に含まれる礫の円磨度(6段階に区分)を比較した結果,E1-E11のすべてが海浜起源の礫を含むことが推定された.したがって,トレンチ内での観察結果と円磨度の結果から,本研究ではこれら11層のイベント堆積物をすべて津波堆積物と判断した.放射性炭素年代測定の結果,トレンチ壁面では,約4000年前から現在まで連続的に地層が堆積していることが明らかとなった.得られた年代値からE2,E3,E4は,それぞれ1896年明治三陸津波,1611年慶長三陸津波,869年貞観津波に対比可能な津波堆積物である.また十和田a(To-a)テフラ(AD915:町田・新井,2003)が降灰したと予想されるE4前後の火山灰分析を行ったところ,E4後に火山ガラス含有率が増加した.E4前後の火山ガラスの屈折率を測定した結果,E4後の堆積物中にはTo-aと同じ屈折率1.505-1.510の火山ガラスが含まれるのに対して,E4前の堆積物中にはそれ以外の屈折率を示す火山ガラスが多く見られた.E4後の火山ガラスの主成分分析も行った結果,To-aの火山ガラスの値と一致した.したがって,E3/E4間にTo-aが降灰したと考えられ,前述の歴史津波の対比と矛盾せず,三陸海岸の陸上において初めて869年貞観津波に対応する津波堆積物が見出されたことになる.謝辞:千葉大学の金田平太郎氏,河野太陽氏,東北大学の岡田真介氏,大畑雅彦氏,寺地将史氏には,現地掘削調査を手伝っていただいた.掘削調査地の土地所有者の方には,快く掘削を許可していただいた.平川一臣氏,今泉俊文氏,池田安隆氏,吉田修二氏,越後智雄氏,岡田真介氏には現地で議論していただいた.上記の方々には,この場を借りて御礼申し上げます.