日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS32_30PM2] 地球掘削科学

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 416 (4F)

コンビーナ:*斎藤 実篤(独立行政法人海洋研究開発機構)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、廣野 哲朗(大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻)、梅津 慶太(独立行政法人海洋研究開発機構)、座長:斎藤 実篤(独立行政法人海洋研究開発機構)、廣野 哲朗(大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻)

17:15 〜 17:30

[MIS32-25] ICDPのジオハザードプログラムとしての津波堆積物の研究

*藤原 治1 (1.産総研 活断層・地震研究センター)

キーワード:津波堆積物, ジオハザード, 陸上掘削

2004年スマトラ島沖地震(Mw 9.1~9.3)や2011年東北沖地震(Mw 9.0)の例に見るように,プレート間巨大地震に伴う巨大津波は広域かつ巨大な災害を引き起こす.これは人間社会にだけでなく,大規模な侵食や堆積によって海岸の地形発達や生物相にも大きな影響を与える.こうした巨大津波はその痕跡を地質記録の中にとどめている,つまり津波堆積物である.地質学的なタイムスケールで見ると,巨大津波はプレート境界の地震以外にも様々な原因で発生する(巨大火山噴火,海底地すべり,さらには巨大隕石の衝突).ガスハイドレートの崩壊も巨大津波を起こすかもしれない.したがって,巨大津波による災害リスクは,活動的プレート境界に限った話ではない.こうした巨大災害は人の一生と比べると稀な現象ではあるが,次に何時・何処で起きるかは分かっていない.将来の災害軽減に向けたより良いプランニングのために,津波堆積物の研究は大きく貢献する.さらに,この研究は,地球史を通じた巨大イベントによる地形・地層の発達のダイナミクスや,生物相の変遷についても理解を深めることに繋がる. 陸上科学掘削の枠組みにおいて,次のような研究の方向性が考えられるだろう.〇過去の巨大津波を知る 将来の見通しを立てるには,まず過去を詳しく理解する必要がある.2004年スマトラ島沖地震や2011年東北沖地震を含むM9クラスの巨大地震とそれに伴う津波は,20世紀には世界各地のプレート境界で5つ発生しており,必ずしも稀な地質現象ではない.さらにタイムスケールを広げると,海底地すべり,火山噴火,インパクト津波といった巨大イベントも繰り返し起こっている.これらは低頻度ではあるが,一旦おこると巨大災害となる.巨大津波はTrans Oceanなイベントであり,超広域の災害を引き起こす(1960年チリ津波,2004年インド洋大津波の例).遠地から巨大津波が押し寄せれば,標高の低い島嶼の国々では国全体が大被害を受けることになり,大きなリスクである.・地球史の中の巨大津波 津波による大規模・急速な浸食と堆積は,地形・地層の発達へのトリガーとなる.また,生物相の生物相の破壊と再生(Turnover)や,移動の原因ともなる.白亜紀末に起こった巨大隕石の衝突は地球の生物相を大きく変えたが,この際にも巨大津波が発生している.巨大津波の痕跡は,隕石衝突といった地球規模の巨大インパクトも記録している.・人類の歴史との関係 巨大津波は人類の生活史や文明の消長にも影響を与えてきた.災害による衰退と復興,集団移転などである.巨大津波による地形・生物相の変化も,間接的に人類の生活に影響を与えてきただろう.人類史と自然災害との関係はSeismo-archaeolyという新たな研究分野の開拓と発展にも通じる. 〇巨大津波のインベントリー構築のためのグローバルな連携 津波堆積物は,人の記憶や文字記録を越えた長期間にわたる巨大津波の履歴を提供する.津波堆積物の分布や時代については,データベースがNOAAなどの複数の機関で構築されつつある.しかし,1000年以上前まで遡るデータは非常に少ない.また,津波以外の堆積物のデータも混在していると思われる.地質学的時間スケールまで広げた津波堆積物のインベントリー(個々のデータの信頼性や特徴を付記した目録)を構築していく必要がある.・海溝周辺地域の津波の規模と履歴 環太平洋(日本,アラスカ,アメリカ西海岸,メキシコ,チリなど)の海岸低地で掘削調査を行い,地質学的時間スケールで起きる津波の規模と履歴を個別に明らかにする.・遠地津波の影響をうける島嶼地域の津波の規模と履歴  ハワイやタヒチなどで,過去の巨大津波履歴の編年を行う. 〇アウトリーチと若手研究者の育成 チリやインド洋大津波後のインド洋沿岸諸国では,日本やアメリカなどの研究者との連携によって,津波堆積物を使った地震・津波履歴の復元について,現地のYoung Scientistの育成が進んできた.津波のリスクが考えられるアジアやヨーロッパなどの国々へも,日本などの研究者がイニシアチブをとって,こうした取り組みを広げる必要がある.