日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS23_2PO1] 月の科学と探査

2014年5月2日(金) 16:15 〜 17:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、本田 親寿(会津大学)、西野 真木(名古屋大学太陽地球環境研究所)、長岡 央(早稲田大学先進理工学部)

16:30 〜 17:30

[PPS23-P11] 月の線状重力異常の形成過程と熱進化

*澤田 なつ季1諸田 智克1石原 吉明2平松 良浩3 (1.名古屋大学環境研究科地球環境科学専攻、2.宇宙航空研究開発機構、3.金沢大学自然科学研究科)

キーワード:マグマ貫入イベント, 熱膨張, リッジ, FeO濃度, 月面地形データ

1. はじめに
重力分布による月内部の密度構造の解明は月の初期進化過程を理解するための一つの手段である。Andrew-Hanna et al. (2013) はGRAILの重力データを解析し、大規模な線状の重力異常を複数発見した。彼らはこの線状の重力異常の成因を月の初期における全球規模の膨張とマグマの貫入によるものと推定している。そのような大規模なマグマ貫入イベントは重力データ以外にもその痕跡を残すことが期待される。本研究の目的は、地形データとFeO濃度分布を用いて線状重力異常に対応する地形的特徴の存在とマグマ貫入由来の痕跡を調査し、月の線状重力異常の形成過程を検討することである。

2. 解析データと手法
 対象箇所はAndrew-Hanna et al. (2013)で同定された20の線状重力異常である。使用するデータはLOLAの1/1024°の月面地形グリッドデータとClementinaの10pix/°の月面FeO濃度分布図である。地形データの解析では、線状重力異常を中心に300km以内の領域を切り出し、フィルター処理により小規模なクレーターによる地形の起伏を除去する。線状重力異常に対して垂直な側線毎に線状重力異常上の標高を基準として相対評価した平均標高・標準偏差・平均勾配を計算し、地形断面図を作成した。「線状重力異常付近」を±50km以内の領域とし、「周辺領域」を100km以上離れた領域と設定した。作成した地形断面図を用いて、「線状重力異常付近」と「周辺領域」の地形との比較により、線状重力異常領域の地形学的形態分類、谷地形、山地形、未区分地形の分類、を行った。FeO濃度分布の解析では、FeO濃度分布を用いて「線状重力異常付近」の平均FeO濃度と標準偏差を計算した。

3. 結果
 地形データの解析から、線状重力異常の分布は谷地形とよく対応することが明らかになった。このことから、線状重力異常域は月形成初期における引張応力場による地溝的領域に形成されたと推測される。
FeO濃度分布を解析した結果、高地に存在する「線状重力異常付近」の平均FeO濃度は6.72±1.62[wt%]となり、月の高地試料(<6[wt%])と比較して高いことが明らかとなった。これはクレーター掘削による貫入岩の露出の可能性を示唆する。

4. 考察と結論
上記の観測事実とHead and Wilson (1992)の熱史から線状重力異常の原因である線状構造の形成過程について以下の仮説を提唱する。月の初期は熱膨張過程のため引張な応力状態であった。~4.0Gaに引張応力場により亀裂が生じた後に、マグマが貫入したことで線状構造が作られたと考えられる。4.0~3.0Gaに海を形成したマグマ活動によって線状構造が隠された。その後の月全球の冷却に伴う圧縮応力場、または衝突盆地固有の圧縮応力場により、3.8~3.0Gaに海でリッジが形成された。リッジを形成する際に線状構造付近で生じた亀裂を利用したと推測される。