日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT23] 地球史解読:冥王代から現代まで

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 104 (1F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、座長:越田 渓子(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

12:30 〜 12:33

[BPT23-P01] イスア地域のイトサック片麻岩の地質年代の再検討

ポスター講演3分口頭発表枠

*佐藤 直紀1山本 伸次2坂田 周平3平田 岳史3小宮 剛2 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学大学院総合文化研究科、3.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:前期太古代, イスア表成岩帯, カソードルミネッセンス

地球は生命が生息し、またプレートテクトニクスに伴う火成活動や地震活動が起きている、活動的な天体である。それらの生命の起源やプレートテクトニクスの開始は、一般に初期太古代や冥王代にまで遡るとされている。しかし、太古代の地質体は極めて稀で、カナダ・アカスタ片麻岩体、西グリーンランドイトサック片麻岩体、カナダ・ラブラドル・サグレック岩体やヌブアギツック帯に限られる。特に、イトサック片麻岩体のイスア表成岩帯からは約38億年前のプレートテクトニクスの地質学的証拠や生命の痕跡が報告されており、その詳細な年代決定は極めて重要である。
最近のイスア地域の花崗岩質片麻岩体中のジルコンのU-Pb年代の研究によれば、イスア表成岩帯より北部の地域は約3700 Ma、一方、南部は約3800 Maの年代をもつとされている。Nutman et al. (2009)は、この年代の相違を南北の片麻岩ブロック(テレーン)が別々に生成し、それらが衝突・合体したということで説明し、その境界はイスア表成岩帯中にあり、チャート層がその縫合帯であるとした。特に、いくつかの先行研究では北部において3700 Ma以前の大陸地殻や物質は存在せず、南側とは別のテレーンであることが強調されたが、 表成岩中には最も古いもので3950 Maに達する片麻岩よりも古い年代を示すジルコンが見つかっていることや、リサイクルの影響を考慮していないと言った点から、その年代分布について再考の余地がある。また、現在の沈み込み帯では片麻岩の原岩である花崗岩が数億年にわたり間欠的に生成しており、古生代の付加体中に中生代前期、中期、新生代前期、新生代末期の花崗岩が極めて狭い範囲で貫入している地質体が随所に見られ、花崗岩の年代分布の違いは必ずしも異なるテレーンを必要としない。
本研究では、カソードルミネッセンス(CL)観察で片麻岩中から分離したジルコンを火成起源、変成起源と残存鉱物起源に分類し、それらのジルコンのU-Pb年代を局所ICP-MSによって決定した。
イスア北部から片麻岩3個、南部から片麻岩2個を採取し、ジルコンを分離した。北部の試料のうち2試料は表成岩との境界部、1試料は片麻岩体中央部から採取した。南部の試料はともに表成岩との境界部から採取した。南部の試料のうちの1試料はジルコンを殆ど含んでいなかった。分離されたジルコンは東京工業大学のカソードルミネッセンス(CL)像解析を用いてジルコンの内部組織を観察し、京都大学のLA-ICP-MSを用いてU-Pb年代を測定した。CL観察では、oscillatory zoningが残存しているものや、中心部と周縁部で明確に構造が異なるものが北部と南部のジルコンに共通して見られたが、北部のジルコンは南部のジルコンに比べて全体的に像が暗くなる傾向があった。北部の境界部と中心部の試料のジルコンのPb-Pb年代は明瞭な違いは見られず、ともに約3660~3750Ma(年代分布のピークは約3720Ma、最古の年代は3759±56Ma)となり、concordia図上では約0Maと約3710Maを結ぶdiscordia上にプロットされた。一方、南部の試料は約3750~3800MaのPb-Pb年代をもち (年代分布のピークは約3770Ma)、concordia図上では、約0Maと約3785Maを結ぶdiscordia上にプロットされた。しかし、これらのdiscordiaが変成年代を示唆しているとは考えにくい。また、北部と南部の両方の試料において、ジルコン内部の中央部と周辺部とで、Pb-Pb年代に明瞭な違いは見られなかった。また、ジルコンのUやThの濃度とCL発光には明瞭な相関がみられ、暗い部分ほどUやThに富むという傾向が見られた。この特徴はメタミクト化によると考えられる。
以上の結果をまとめると、北部と南部の片麻岩の年代は先行研究と一致するものの、先行研究では重視されなかったジルコン内部の中央部と周縁部で年代差が見られないと言った特徴やジルコンの化学組成との相関と年代やCL像との相関が明らかになった。今後、PbロスによるジルコンのU-Pb年代の若返りの問題やこれらの花崗岩先駆物質の起源物質の推定を行う。