日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG30] 太陽系小天体研究の新展開

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)

18:15 〜 19:30

[PCG30-P06] 数値計算と統計解析によるフォボスの線状構造の形成過程

*菊地 紘1宮本 英昭1 (1.東京大学総合研究博物館)

キーワード:フォボス, 溝構造

火星の衛星であるフォボスとダイモスの起源は,主につぎの2つの説が提唱されている.まずひとつは,主に小惑星の分光観測と類似していることから,小天体が火星軌道で捕獲されたのではないか(捕獲説)とするものである.もうひとつは,フォボスもダイモスも順行したほぼ真円軌道を持つことから,火星軌道において集積した(集積説)というものである.
前者ではダイモスの形成が困難なことと,両衛星の三軸比や密度が類似していることから,現在のところ後者の集積説が優勢な状況である.たとえばガス円盤により合体衝突して成長した胚が衛星となり,ほとんどは火星に衝突してしまったが,残ることができた衛星がフォボスとダイモスであるなどと考えられている[1].しかしながらクレーター年代学による推定によると,フォボスの表層は約43億年前に更新されている[2]とされる.フォボスが火星に衝突せずに現在の軌道上に存在するためには,形成時に同期軌道距離近く離れている必要があるが,Rosenblattらによると,そのような円盤の密度を想定するとダイモスサイズの衛星は形成することができないという問題がある.さらに,同期軌道上でダイモスが形成できる条件を考えると,フォボスと同程度の大きさの衛星が形成できるはずだが,表層年代より早い時間で火星に衝突してしまうという問題もある.すなわち,フォボスとダイモスの双方が同時に形成することは難しい[3].もっとも,フォボスが同期軌道上でダイモスサイズの胚が集積して形成されたと仮定すれば,フォボスとダイモスの双方が形成することができる可能性はあるが,これを定量的に示すには不確定要素が多く,条件が複雑なため,数値解析ではまだ示すことができていない.そのためフォボスがいったいどこで集積したかという点が両者の起源を考える上で重要な問題となっていると言える.
本研究は,フォボスに顕著にみられる筋状の構造を丹念に調査している.これらは31-38億年前[2]に何らかの衝突により形成された[4]と考えられてきたが,一方で内部構造に由来しているとする考え方も根強く残っていた。私たちはこうした溝構造が,一連のものは全て同一平面上に存在することを明らかにしてきたが、今回さらに主成分分析を通じてその空間分布を調査した。その結果、衝突現象を引き起こした物質はフォボスの進行方向と垂直な方向から衝突している傾向があることがわかった.さらにN体計算をもちいて衝突物質の力学とフォボスの軌道との関係を検証した結果,本研究で明らかにされたフォボス上の筋状構造の統計的な分布だけでなく,不規則に並ぶピットチェーンやグルーブなど類似した地形も含めた形態的な特徴をうまく再現できた.さらに,こうしたフォボスの溝構造が形成されるためには,フォボスが火星から少なくとも19500 km以上離れていることが必要であるということがわかった.これは溝構造が形成されたときフォボスが同期軌道上付近に存在していたことを示唆しており,フォボスとダイモスの起源として集積説を支持する.

Reference
[1] Craddock, A, R., (2011) Icarus, 211, 1150-1161
[2] Schmedemann, N., et al., (2014) Planetary and Space Science, 102, 152-163
[3] Rosenblatt, P., Charnoz, S., (2012) Icarus, 221, 806-815
[4] Murray, J, M., Heggie, D, C., (2014) Planetary and Space Science, 102, 119-143