日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE20] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用,地球工学)

2016年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 301B (3F)

コンビーナ:*徳永 朋祥(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)

16:30 〜 16:45

[HRE20-16] CO2を注入した温泉水中での炭酸塩現場反応実験

*徂徠 正夫1佐々木 宗健1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)

キーワード:CO2地中貯留、炭酸水素塩泉、溶解速度、反応キネティクス、炭酸塩鉱物

CO2地中貯留において、圧入したCO2の長期的な挙動を予測するためには、地化学プロセスを考慮に入れた数値シミュレーションが不可欠である。このような地化学プロセスのうち、炭酸塩鉱物の成長と溶解は、それぞれ貯留安全性の増加と漏洩リスクの両面から最も重要である。しかしながら、CO2地中貯留条件下での炭酸塩鉱物のキネティクスに関しては不明な点が多く、地化学シミュレーションの信頼性を向上させるためにもその不確定性を軽減することが課題となっている。
これまで、CO2地中貯留のナチュラル・アナログとみなせる炭酸水素塩泉において、炭酸塩鉱物の反応実験を行ってきた。特に、炭酸塩鉱物の反応速度および生成相に及ぼすCO2あるいはMgイオンの効果に関して、温泉水にこれらの物質を人為的に添加することで、極端な組成条件にまで拡張した検証を行っている。前回の実験では大気圧下でCO2を注入したが、温泉水へのCO2の溶解度が大きくないためにpHが十分に低下せず、実際のCO2圧入井近傍で予想される炭酸塩鉱物の溶解には至らなかった。そこで、大気圧よりも高い圧力でのCO2の注入が可能なステンレス製配管内に試料を設置することで、温泉水のさらなるpHの低下(CO2の溶解度の増加)を目指した。
実験サイトとして、前回に引き続き、北海道斜里町のウトロ温泉を選定した。本サイトでは、源泉からの温泉水が貯水タンクに貯留された後、50 mの配管を伝って排水される。今回は貯水タンクより温泉水をポンプアップし、ステンレス製配管流路に通水させた後、既存の排水路に戻すシステムを構築した。配管内の1カ所で、温度、圧力およびpHを計測した。配管内に鉱物試験片ホルダーを直列に3個設置し、各ホルダーに、カルサイト、アラゴナイト(共にCaCO3)、ドロマイト(CaMg(CO3)2)およびマグネサイト(MgCO3)のへき開片を1個づつ固定した。これらの試験片を温泉水の流動条件下で最長24時間浸漬させ、所定時間ごとに1個づつ回収した。温泉水そのままに加えて、約0.3 MPaのCO2注入条件下で塩化マグネシウムを添加しない場合(Mg/Ca = 0.5)と添加した場合(Mg/Ca = 3)、それぞれについて反応を行った。
回収した試料について、位相シフト干渉計およびレーザー顕微鏡を用いて、基準面と反応面の高さ変化をナノ~ミクロンレベルで測定することにより反応速度を算出した。今回の実験では、CO2注入によりカルサイトおよびアラゴナイトが溶解した。両者の溶解速度はほぼ同一であったが、マグネシウムを混入させた場合に異なる挙動を示した。すなわち、カルサイトの溶解速度は半減する一方で、アラゴナイトの溶解速度はわずかに増加した。ドロマイトとマグネサイトについては明瞭な変化は観察されなかった。これらの結果は、CO2圧入井近傍の地層水組成および炭酸塩鉱物の種類に依存して炭酸塩の溶解速度が決まり、炭酸塩に対して一律の反応キネティクスを適用することができないことを示唆している。