日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT22] UAVが拓く新しい世界

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 102 (1F)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、井上 公(防災科学技術研究所)、長谷川 均(国士舘大学文学部地理学教室)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

09:15 〜 09:30

[HTT22-02] 小型無人航空機・MUレーダー同時観測実験

*橋口 浩之1森 昂志1Kantha Lakshmi2Lawrence Dale2Mixa Tyler2Luce Hubert3Wilson Richard4津田 敏隆1矢吹 正教1 (1.京都大学生存圏研究所、2.University of Colorado Boulder, USA、3.Toulon University, MIO, France、4.LATMOS, France)

キーワード:MUレーダー、小型無人航空機、大気乱流

乱流混合は熱や物質の鉛直輸送に寄与する重要なプロセスであるが、そのスケールが極めて小さいことから観測が難しい現象の一つである。地上から上空に向けて電波を発射し、大気の乱れに散乱されて戻ってくる電波を受信することで、上空の風向風速等を高時間分解能で測定する大気レーダーは、大気乱流からの散乱エコーを観測すること、時間・空間的に連続観測可能である点で、大気乱流の観測装置として優位にあるが、従来空間分解能に限界があった。MUレーダーは滋賀県甲賀市信楽町に設置された、中心周波数46.5MHz、アンテナ直径103m、送信ピーク出力1MWの大気観測用大型レーダーであり、1984年から運用されているが、2004年に高機能化への大幅改修が行われ、レーダーイメージング(映像)観測が可能となった。その後、イメージング観測手法の開発・改良が重ねられ、現在ではレンジ分解能が飛躍的に向上した観測が可能となっている。MUレーダーは現在のところ乱流を最も正確に映像化でき、それらの発生・発達・形成メカニズムや、メソ~総観規模現象との関連を研究する上で最も強力な測器である。例えば、風速の変化が大きいところでは、ケルビン・ヘルムホルツ不安定により乱流が発生することが知られているが、雲底下で持続的に乱流が存在する様子がMUレーダー観測によりイメージ化されている。
近年、下層大気の観測手段として小型無人航空機(UAV)が注目されている。昨年6月に気象センサーを搭載した小型UAVとMUレーダーとの同時観測実験を初めて実施した。日米仏の国際共同研究により、コロラド大で開発されたUAVを用いて、MUレーダーとの同時観測実験(ShUREX(Shigaraki, UAV-Radar Experiment)キャンペーン)が行われた。UAVは、小型(両翼幅1m)、軽量(700g)、低コスト(約$1,000)、再利用可能、GPSによる自律飛行可能で、ラジオゾンデセンサーを流用した1Hzサンプリングの気温・湿度・気圧データに加えて、100 Hzの高速サンプリングの気温センサーによる乱流パラメータの高分解能データを取得可能である。UAVの離着陸は、信楽MU観測所から南西へ約1kmの利用休止中の牧草地を借用して行った。UAVは自ら滑走して離陸することはできないため、ゴムで引っ張って離陸させる方法(Bungee法)か、ヘリウムを詰めた気象気球で上空に持ち上げ適当な高度に達したところで切り離す方法(Balloon法)で行う。飛行方法は予め離陸前にプログラムしておくが、状況に応じて離陸後に飛行方法を変更することも可能であり、約1時間の連続飛行が可能である。
MUレーダーのレンジイメージングモードで得られたエコー強度の時間高度変化を図に示す。8時10~40分頃の下層の三角形状のエコーはUAVによるものである。高度4~5kmの雲底付近で強いエコー(乱流)が観測されている。現在、MUレーダーとUAVの観測データを詳細に解析しているところである。大気乱流は至るところに存在し、人間生活に及ぼす影響も小さくなく、航空機の安全運航のためにもその観測・予測は重要な課題である。次年度にも改良されたUAVを用いた第2回のキャンペーン観測を計画している。