日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 変動帯ダイナミクス

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、重松 紀生(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、加藤 愛太郎(名古屋大学大学院環境学研究科)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、池田 安隆(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

17:15 〜 18:30

[SCG63-P21] 三重県松阪市・中央構造線粟野・田引露頭における断層ガウジの局所的な化学変化

山田 悠太1稲生 千咲2、*大谷 具幸1亀田 純2重松 紀生3小嶋 智1 (1.岐阜大学、2.北海道大学、3.産業技術総合研究所)

キーワード:局所的な化学変化、断層ガウジ、中央構造線

中央構造線は国内有数の大規模な構造線であるとともに、長期にわたる活動履歴を有しており、規模の大きな破砕帯を伴っている。活動履歴の長さから、過去に断層破砕帯が地下の様々な深度に位置していたときの特徴が保存されていると期待される。本研究では、地殻内の断層で生じる化学変化を検討することを目的に、三重県松阪市の粟野・田引露頭を対象として、断層破砕帯における化学組成や鉱物組成を蛍光X線分析及び粉末X線回折分析により検討を行った。粉末X線回折分析では、標準試料としてアルミナを20 wt%混合し、RockJock(Eberl, 2003)を用いて鉱物組成分析を行った。
調査対象とした粟野・田引露頭では、標高差約35mほどの斜面に走向方向に約80mにわたり中央構造線が露出している。中央構造線の南側(下盤側)に三波川変成岩、北側(上盤側)に和泉層群相当の堆積岩、及び領家帯の畑井トーナル岩が分布している。三波川変成岩は中央構造線から20 mほどにわたりさまざまな程度の破砕を被っており、この内部には右横ずれを示す非対称構造が発達している(重松ほか, 2015)。露頭西側では、岩相境界及びその下盤数 mの地点に東西走向で北傾斜のすべり面が発達し、後者はより明瞭であることから主すべり面であると考えられる。上側のすべり面は、露頭東端では和泉層群相当の堆積岩中内部に位置し、露頭西端では和泉層群相当の堆積岩と三波川変成岩の岩相境界に一致している。主すべり面の内部は、黒色鱗片状ガウジ、灰色ガウジ、黒色無構造ガウジからなり、運動方向は複雑に変化する。灰色ガウジは連続的に分布し、直線的な境界を有することから、最新すべり面であると考えられる。
蛍光X線分析の結果より、灰色ガウジではCaO, MgO, Fe2O3, Ignition Lossが増加し、SiO2が減少する。また、主すべり面を挟んだ両側でNa2O, Al2O3, CaO, MnO, MgO, Fe2O3が異なる傾向を示す。なお主すべり面以外では、化学組成の顕著な変動は原岩が異なると考えられるフラグメントを除けば認められない。RockJockの結果より、主すべり面の上盤側と主すべり面及び下盤側で粘土鉱物の含有量が大きく異なっている。また、主すべり面ではスメクタイト、ドロマイトが周囲に比べて極端に多くなっている。なお主すべり面以外では、鉱物組成の顕著な変動は原岩が異なると考えられるフラグメントを除けば認められない。
主すべり面におけるCaO, MgO, Fe2O3, Ignition Lossの増加とSiO2の減少は炭酸塩鉱物の形成とそれに伴うSiO2の相対的な減少で説明できる可能性がある。そこで、主すべり面近傍の試料を主すべり面の断層ガウジの原岩とみなして、そこに炭酸塩鉱物として新たにCa, Mg, Feが増加するときのSiの相対的な減少に関して検討を行った。原岩へのCa, Mg, Feの増加はそれぞれ異なる3つの独立した変数として表現し、それらの変数を用いてSiの減少を求める。次に、変数で表される化学組成の変化が主すべり面の断層ガウジの値に近づくように最小二乗法により各変数の値を求めた。その結果、下盤側の試料を原岩とすれば最小二乗法の残差がきわめて小さくなることから、主すべり面の断層ガウジは下盤側の断層ガウジを原岩として炭酸塩鉱物が形成されることによって化学組成の変化を説明できることがわかった。下盤側の断層ガウジを原岩とする点は、主すべり面と下盤側で粘土鉱物の含有量が類似している点と調和的である。
この露頭では断層破砕帯の幅が大きいにもかかわらず、化学組成及び鉱物組成の変化は主すべり面のみに集中している。これは主すべり面のみで顕著な水-岩石反応を生じたことを示唆している。Oohashi et al. (2015) はスメクタイトの割合が30 %程度を越えると摩擦係数が大きく低下することを報告している。よって、主すべり面はスメクタイトが形成される深度では水-岩石反応の結果により強度が周囲に比べてきわめて小さかったと考えられる。

Eberl (2003) USGS Open-File Rep., 2003-78.
Oohashi et al. (2015) Jour. Geophys. Res., 120, 1572–1586.
重松ほか (2015) 日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集, SCG57-21.