日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL40] 「泥火山」の新しい研究展開に向けて

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*土岐 知弘(琉球大学理学部)、浅田 美穂(国立研究法人海洋研究開発機構)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、森田 澄人(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門)、辻 健(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)、喜岡 新(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、田中 和広(山口大学大学院理工学研究科)

17:15 〜 18:30

[SGL40-P03] 海水中のメタン濃度分布を利用した東シナ海における泥火山の分布調査

*土岐 知弘1知花 英貴1島袋 鉄平1山川 陽1 (1.琉球大学理学部)

キーワード:海水、メタン、東シナ海、泥火山

大気中のメタンは,二酸化炭素の約20倍の温暖化係数を持つ強力な温室効果ガスの一つである(IPCC,2007)。海洋の大陸棚や沿岸部は,大気中のメタンの供給源として知られている(Bange et al., 1994; Bange, 2006; Holmes et al., 2000)。東シナ海においても,夏の間に蓄積された大陸棚域における海水中のメタンが,冬の混合層の発達に伴って大気に放出されることが指摘されている(Tsurushima et al., 1996)。さらに,東シナ海では,大陸棚と大陸斜面において泥火山状あるいはポックマーク状の地形が報告されており(Yin et al.,2003),大陸斜面域において化学合成生物群集の存在が確認されている(Kuhara et al., 2014)。こういった比較的浅い海域におけるメタンの放出源の存在は,大気中のメタンへの影響も考えられることから,その分布を明らかにする必要がある。本研究では,東シナ海における大陸棚から黒潮流入域にかけて,海水中のメタン濃度を調べ,本海域における海底からのメタンの供給源の分布について明らかにすることを目的としている。
2011年から2015年にかけて,5~6月にかけて行われる長崎丸による乗船実習において,東シナ海の複数の地点において海水試料を採取した。海水試料は,ニスキン採水器を用いて採取し,船上において直ちにバイアル瓶に分取した後,飽和水銀溶液を添加して生物活動を固定した。バイアル瓶は密栓後,陸上に持ち帰ってメタンの濃度測定を行うまで,冷暗所において保管した。また,採水器にはCTDも搭載されており,採水と同時に,温度,圧力,電気伝導度なども記録した。
海水サンプル中のメタン濃度は,溶存ガス抽出装置でメタンを抽出し,水素炎イオン化型検出器を搭載したガスクロマトグラフ(島津 GC-2014A)を用いて測定した。標準ガスはメタン濃度が10 ppmに調整されているボンベを用いて,検量線を作成して濃度計算を行った。測定精度は8%以内であった。
CTDデータから,大陸棚混合水の影響を受けている海域と黒潮の流域とに分けることができ,それらの影響の大きさから,海域を大陸棚域,大陸斜面域,黒潮域の三つに分けて考えることとした。まず,大陸棚域の海水は,表層から深層にかけて全層を通して比較的高いメタンの濃度を示した。これらは,大陸からの有機物の豊富な水塊の流入や,堆積物からのメタンの供給の影響であると考えられる。次に,大陸斜面域においては,水深100~200 m付近においてメタン濃度が高い。一方,黒潮の流域では,表層海水において大気平衡前後の値を示し,水深600 m付近までは1~2 nmol/kg程度の値を示す。水深600 m以深ではメタン濃度は1 nmol/kgを下回り,検出限界付近まで減少する。大陸斜面域の水深100~200 m付近のメタン濃度の異常は,大陸棚混合水の影響も伴っており,大陸棚域に分布する高濃度メタンの漏出であると考えられる。
大陸斜面域には,水深数100 mにおいてもメタンの濃度異常が検出される地点もあった。こういった地点は,これまでのところ泥火山も含めた冷湧水や海底熱水系などの存在が報告されていない地点もあり,メタンの供給源としては特定できていない。テクトニックセッティングを考慮すれば,海底熱水系の存在は考えにくく,周囲に見つかっている泥火山や冷湧水といったメタンの供給源が妥当性は高い。海底下には,有機物の豊富な島尻層群あるいは八重山層群が分布していることが考えられ,背弧海盆のリフト活動に伴う正断層などが,海底下からのメタンの供給路になっている可能性が考えられる。そういった場所では,一定の条件が整えば泥火山が,時にはポックマークが,そして最もベーシックな現象としては,冷湧水が発現すると考えられる。これらの規模や普遍性,あるいは地域性によっては,大気中のメタンへの大きな供給源として働いている可能性が考えられる。このことから,今後,さらに海水中のメタン濃度分布の詳細や潜水調査を行い,海底におけるメタン湧出現象の詳細を明らかにする必要がある。