日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] 鉱物の物理化学

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 301A (3F)

コンビーナ:*興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)、大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、座長:興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)

10:00 〜 10:15

[SMP42-05] Mg14Si5O24 anhydrous phase Bの低温熱容量と標準エントロピーの決定

*糀谷 浩1大澤 真希1寺田 早希1赤荻 正樹1 (1.学習院大学理学部化学科)

キーワード:アンハイドラスフェイズB、熱容量、エントロピー、熱力学的安定性、格子振動モデル計算

Mg14Si5O24 anhydrous phase B (Anh-B) は、マントル中においてオリビンや輝石のSiO2成分が流体相に選択的に溶解し、残渣がMgO成分に富むような場合に、5Mg2SiO4 forsterite (Fo) + 4MgO = Mg14Si5O24 (Anh-B) の反応により存在することが予想されている。Anh-Bの熱力学的安定性を検討するために必要となるエントロピーは、実験的に決定されていなかった。そこで、本研究では熱容量測定を行うことにより低温熱容量を決定し、標準エントロピーを求めた。また、得られた低温熱容量に基づく格子振動モデル計算から高温熱容量の推定も行った。
川井型マルチアンビル高圧発生装置を用いて、出発物質のMg2SiO4 Fo:MgO = 5:4 (モル比) 混合物を15 GPa, 2073-2273 Kで3時間保持した後、急冷回収することによりAnh-Bの高圧合成を行った。回収試料は、微小部X線回折測定およびSEM-EDSにより単相であることを確認した。低温熱容量は、熱緩和法を応用したカンタムデザイン社製PPMS装置を用いることにより、2-307 Kの温度範囲において約2 Kの温度間隔で測定された。試料ステージとの熱接触を良くするため、円柱状の試料の片側底面が平らになるようにラッピングフィルムで研磨した。熱量測定に用いた試料の重量は、合計10.988 mgであった。
低温熱容量は、各測定温度において約0.3%の測定精度で測定された。得られた300 K付近での熱容量は、我々の示差走査熱量測定による値と誤差範囲内で一致しており、測定結果が妥当であったことを示している。実測された熱容量(Cp)を用いて、0から298 Kまでの範囲においてCp/Tを積分することにより、格子振動寄与による298 Kでの標準エントロピーは544.17(1) J/mol.Kと決定された。この値は、Ottonello et al. (2010)の第一原理計算から求められた561.2 J/mol.Kよりは小さく、またGanguly and Frost (2006)により酸化物のエントロピーから推定された547.3 J/mol.Kと良い一致を示す。さらに、得られた低温熱容量を再現するようにキーファーモデルを用いて格子振動のフォノン状態密度をモデル化し、格子振動モデル計算を行うことにより、実測できない800 K以上の高温領域での熱容量を推定した。300-2000 Kの熱容量は、Cp(T)=6.624x102+2.123x104T-0.5-4.827x106T-2+2.221x109T-3-1.061x10-1T-3.643x105T-1と求められた。