日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 太陽系物質進化

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山口 亮(国立極地研究所)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院、共同)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:藤谷 渉

15:30 〜 15:45

[PPS06-01] 始原的炭素質コンドライト MIL 090657マトリックスの微細3次元組織:多様な岩相とその水質変成・集積過程

*土山 明1杉本 美弥茉1松野 淳也1三宅 亮1中野 司2上杉 健太朗3竹内 亮久3松本 恵1中村・メッセンジャー 圭子4アーロン バートン4メッセンジャー スコット4 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.産業技術総合研究所、3.高輝度光科学研究センター・スプリング8、4.NASAジョンソン宇宙センター)

キーワード:始原的炭素質コンドライト、CRコンドライト、非晶質珪酸塩、放射光X線CT、集束イオンビーム、透過型電子顕微鏡

はじめに
 MIL 090657隕石(CR2.7)は水質変成をほとんど受けていない始原的な炭素質コンドライトの一つであり、マトリクス中の非晶質珪酸塩によって特徴づけられている [1]。我々の研究グループは、これまでに、ウルトラミクロトーム薄片のTEM観察析により、この隕石のマトリクスが、サブミクロンサイズの粒状珪酸塩からなる岩相1、彗星塵に特徴的に含まれるGEMS(glass with embedded metal and sulfide)に類似した非晶質珪酸塩からなる岩相2、層状珪酸塩をもつ岩相3からなることを見出した[2,3]。岩相2は岩相1とともに有機物に富み、太陽系の始原的な物質の一つであると考えられる。試料は~100μmサイズの隕石2粒子をレジンに埋め込みミクロトームしたものであるが、残った試料(potted butt)の切断面について、さらに、SEM観察をおこなった。その結果をもとに、FIBを用いてpotted butt 表面から~30μmサイズのハウス形の試料を切り出し、放射光X線CT(SR-XCT)により、岩相1,2に類似した岩相と新たな3つ岩相4,5,6を見出した[4]。しかしながら、これらの岩相はいずれも微細な組織をもち、TEM観察が必要である。本研究では、(1)岩相2のような最も始原的な岩相を探索する、(2)その他の岩相の特徴を明らかにし、これらの水質変成や集積過程について明らかにすることを目的として、新たな試料のSR-XCT撮影を行うとともに岩相のTEM観察をおこなった。
試料と手法
これまでのCT試料に加えて新たに1試料を作成するとともに、従来の試料も含めてSPring-8 BL47XUでSR-XCT撮影を行った。これにより、約100 nmの高空間分解能でのCT像の吸収・位相コントラストより、鉱物相・空隙・有機物や密度の推定をおこなった。さらに、CT試料などからFIBを用いて薄片試料を切り出し、TEM観察をおこなった。
結果と考察
 今回観察した岩相2に類似した岩相(岩相2’と呼ぶ)もミクロトーム試料の岩相2と同様に主として非晶質珪酸塩からなるが、有機物に乏しく、非晶質珪酸塩の電子線回折パターンや磁鉄鉱・炭酸塩鉱物の存在から、わずかに水質変成を受けていた。岩相2’では、岩相2のGEMS類似物質が水質変成を受け、Fe-Ni金属ナノ粒子が酸化されて消失し、非晶質珪酸塩部分は含水し、やがて一部に極めて結晶性の悪い層状珪酸塩が生成したと考えられる。このように、最も始原的な岩相2をpotted buttには見出せなかった。岩相5はMgOに富む結晶性の低い層状珪酸塩から主としてなり,炭酸塩、フランボイド状磁鉄鉱、Caリン酸塩を含む。また、岩相6はFeOに富む層状珪酸塩からなり、いずれも岩相2’よりも強い水質変成を受けていることがわかる。岩相4はTEM観察していないが、そのCT像は岩相5,6と同様の特徴を持ち、水質変成を受けていることがわかる。各岩相のマトリクスの化学組成は異なり、Fe/Mgは岩相5が最もが低く、岩相6が最も低い。
 岩相2’,5,6の境界はTEM像でもそれぞれ比較的明瞭な境界をもっており、3次元的にはこれら3つの岩相が接する3重線が存在し、連続的に積み重なったものではないことがわかる。岩相2’–5境界では、細長い岩相2’の破片が岩相5中に境界に沿って分布している様子が観察された。これは、両岩相の集積時に岩相2’が粒子流動したことを示唆しており、水質変成を受けた岩相5は比較的固結度が高く、水質変成をあまり受けていない岩相2’は固結度が低く流動性が高かったものと考えられる。一方、岩相1–2境界もTEM像で比較的明瞭な境界をもっており[2]、岩相1–4境界もCT像で1μm程度の分解能でもって区別できる。
 以上のように、少なくとも今回観察したサンプルでは、100μm程度の小さな領域内において、水質変成度や固結度の異なる複数の岩相が集積したことを示している。すなわち、MIL 090657の母天体は、かなり小さなスケールで不均一な構造を持っていたことがわかる。
 [1] Davidson et al. (2015) 46th LPSC, 1603. [2] Cao et al. (2016) 47th LPSC,2427. [3] Sugimoto et al. (2016), Goldschmidt Workshop on Experimental Cosmochemistry, 15. [4] Sugimoto et al. (2017) JpGU, PPS10-P09.