日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:青山 裕三浦 哲

14:15 〜 14:30

[SVC38-20] ストロンボリ火山の山頂小爆発に伴う傾斜変動の圧力源推定

*石川 歩1西村 太志1青山 裕2川口 亮平3藤田 英輔4三輪 学央4山田 大志4Ripepe Maurizio5Genco Riccardo5 (1.東北大学大学院理学研究科、2.北海道大学理学院、3.気象研究所、4.防災科学技術研究所、5.フィレンツェ大学)

キーワード:ストロンボリ式噴火、傾斜変動、有限要素法

イタリア国・ストロンボリ火山の山頂火口群におけるストロンボリ式噴火(小爆発)は,表面現象観察や空振・地震観測などに基づく多項目観測が実施され, 現在, 噴火現象が最もよく調べられている火山の一つである. しかしながら, 測地観測は火口から500m~1 kmほどにやや離れたフィレンツェ大学の傾斜計3点のみで, マグマダイナミクスの理解に最も重要な浅部マグマ溜まりによる火山性圧力源の位置は不明なままであった. そこで, 我々は, 2014年5月末に山頂火口極近傍に臨時傾斜観測点を3点追加し, 小爆発に伴う大量の傾斜変動記録を得た. 今回, 3次元静的有限要素法を用いて山体地形を考慮した傾斜変動を計算し, マグマが火口直下まで到達していた期間に発生した小爆発に伴う傾斜変動をもたらす標準的な圧力源の位置と大きさを推定する. また, 表面現象観測から推定された噴出量と本研究で推定した圧力変化量とを比較し, マグマ供給過程を議論する.
臨時観測点CPL, PZZ, RFRは火口近傍約500 m以内にあり, 傾斜計Applied Geomechanics 701-2Aを設置した. 定常観測点LFS, OHO、LSCはフィレンツェ大学が運用し, 傾斜計Pinnacle 5000Tが設置されている. このうちLSCは遠方で十分な信号が得られなかったので, 残りの5観測点で連続収録された7月1日から7月15日までの傾斜記録を解析対象とした. 山頂小爆発の傾斜信号を抽出するために傾斜データにフィルタ処理を施すと, Genco and Ripepe(2010)が報告したような小爆発に前後して火口方向が隆起沈降する現象が見られた. 一連の傾斜変動を, 小爆発発生に数百秒程度先行する緩やかな隆起現象(A), 小爆発直前・直後に数秒から数十秒程度で起こる短期的隆起(B)及び短期的沈降現象(C), その後の小規模な隆起(D)の4現象区分に分類した. 680個の傾斜変動イベントを抽出し, (A)-(C)について傾斜方向と傾斜変動量を調べた.
(A)-(C)の3現象区分ごとに, 傾斜方向と傾斜変動量それぞれの頻度分布の中央値で表現した傾斜ベクトルを観測量とした. 本研究では, 傾斜変動の理論計算に有限要素解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysics を使用した. ストロンボリ火山の数値標高データ(10 mメッシュ)を用いて計算領域を構成し, 山体内部に仮定した楕円体表面に一定圧力を与えた場合の傾斜変動を求めた. 楕円体の位置は、(1)山頂火口群直下付近, あるいは(2)山頂火口群から200 m程度北西にあるVLP震源位置付近(Chouet et al., 2003)に仮定した. 楕円体の大きさや形状を変化させながら傾斜ベクトルを計算し, 3現象区分の観測傾斜ベクトルを平均的に説明できる圧力源を探索した. その結果, (1)(2)の位置に球状圧力源などの単純な形状の圧力源や,(2)の位置にVLPの震源メカニズムを模した回転楕円体の圧力源を仮定した場合, 観測された傾斜ベクトルをうまく説明できない. 一方, (1)の山頂火口群直下の標高400 m(深さ約400 m)を中心とする幅300 mと150 m, 高さ600 mの楕円体をやや傾けた圧力源は、5観測点の傾斜方向をよく説明できることが分かった. また, 傾斜変動量から圧力変動量は1 kPa程度と求められた.
本研究で推定した圧力源は, 2007年山腹噴火に伴う溶岩流出の噴出量及びその時間変化の解析から推測される火口直下の浅部マグマ溜まり(Ripepe et al., 2015) の大きさや位置と概ね一致する. また, 小爆発に先行する緩やかな隆起(A)における圧力変化量と, 推定される火道半径及びマグマ密度をもとに, 一回の小爆発の際に火道内に供給されるマグマの量を計算したところ, 表面現象観測により推定された1回の小爆発による噴出量(~5 m3)と同程度と見積もられることが分かった.