JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 地球惑星科学のアウトリーチ

コンビーナ:小森 次郎(帝京平成大学)、植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

[G04-08] 科学的知識伝達におけるナラティヴ・アプローチの有用性および防災教育との関連

*長田 翔1佐々木 瞳2岩堀 卓弥3大木 聖子3 (1.慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科、2.慶應義塾大学総合政策学部、3.慶應義塾大学環境情報学部)

キーワード:防災、教育、サイエンス・コミュニケーション、ナラティヴ・アプローチ

1. はじめに
 近年積極的に推進されてきている地震防災教育においては、災害のリスクや備えに関するものが多くみられる。一方で、サイエンスの側面から、地震を発生させる本質たる地球について認識を深めることは、地球や地震現象に関する理解や興味関心、ひいては災害への心構えなどにも影響を与えうるであろう。またその内容が学習指導要領から外れていても、対象者の発達段階に応じた言葉選びや物語性をもたせた伝達方法によって、理解が可能になると考えられる。
 そこで筆者らは、防災教育を継続的に実践している埼玉県川越市の小中学校2校において、地球内部構造を題材とした理科教室を開催し、その実践が参加者および保護者にどのように影響したのかについて、ナラティヴ・アプローチの観点から分析した。本発表ではその結果を報告するとともに、より良い科学的知識の伝達方法を考察し、防災教育を新たな視点で捉え直す。

2. 理科教室の概要と研究方法
 理科教室は、2019 年度の埼玉県川越市の安全教育モデル校に指定されているA小学校およびB中学校で実施した。本発表ではA小学校での実践にフォーカスして報告する。理科教室のテーマは「地球の中をのぞいてみよう」とし、夏休みの一日限定のイベントとして、参加希望の児童を対象に開催した。
 授業は主に①科学的知識を論理実証モードでなく物語モードで伝達すること、②防災分野との接続を図ること、という2点に注目して設計した。論理実証モード・物語モードとは、人が思考するときの異なる2つの様式であり、具体的事象に対して一般的な法則を探求することを目的とする論理実証モードに対し、物語モードは経験的な出来事に意味と秩序を与えることを目的とする(Bruner, 1986)。やまだ(2000)は、物語モードのほうが情報処理や判断に適する利点があることを指摘している。
 まず①については、地球の内部構造から地震の発生までの⼀連の流れによる理解を目指した。科学的知識の理解をより深めるため、地球型の粘土模型を作成する工作体験を組み込んだほか、参加者へのプレゼントとして、上部マントルの構成鉱物であるカンラン石を用意した。②については筆者のうちの一名が,自身の具体的な被災体験エピソードを語ることで、科学的事象と日常生活における参加者自身との接続点を見出し、地球と自分との関わりを捉え直す機会を提示することも目的とした。
 分析・考察には、参加した児童と保護者に実施したアンケート調査の記述を用いた。アンケートは、イベント開催前である6月、イベント直後の8月、12月(参加した児童の保護者のみを対象にした実施)の3回実施した。これらより得られた記述をもとに、授業設計で留意した前述①②の2点が達成できているかを,「理解」と「解釈」の有り様に注目して考察した。

3. 結果と展望
 科学的知識を物語モードで伝達することで、例えば「カンラン石」という学習指導要領外の科学的事物を指す語句を、「宝石」として、参加者自身の了解可能な世界へと運び、理解を促進させることができたことがわかった。また参加者自身が置き換えた「理解可能な言葉」がアンケートの記述として表れていた。このことから、物語モードによる科学的知識の伝達は、対象者にとって学習範囲外の事象や概念さえも、理解の手続きを可能にすることが示された。
 また、保護者による次のような記述からは、理科や地学分野への興味関心、さらに防災分野への関心が発生した児童がいたことも伺えた:「雲の形や星、太陽の光、地球や月についてよく話すようになりました」、「頑張る授業といえば、国語・算数・体育でしたが、そのなかに『理科』という新たなコンテンツがうまれました」、「地球のことについて前よりは興味が持てる様になった様です。天気のことや災害のことについてもよく聞かれます。」、「ただただ怖がっていた地震について、受け⼊れる様になりました。必ず起きてしまうからと、防災について、以前より向き合えるようになりました。キラキラした瞳をして帰って来た姿を見て、地球、自然、自分のかかわりを空想ではなく、ちゃんと教えてもいいんだと気づくことができました。」これらより、年度の初めから防災学習を進めてきた参加者にとって、防災分野を異なる角度から捉える機会となり、多様な解釈の記述が見られたともいえるであろう。
 本研究では、理科教育の分野においても、科学的現象によって現実が構成されている側面があるということを、ナラティヴ・アプローチを用いて示せる可能性が見出された。本発表ではさらに、理科教育と防災教育との関連も考察して報告する。

⽂献
1) Bruner, J. (1986). Actual minds, possible worlds. Cambridge, MA: Harvard University Press.
2) やまだようこ (2000). ⼈生を物語る—生成のライフストーリー. ミネルヴァ書房.