JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境の利用・変化・管理:社会科学と地球科学の接点

コンビーナ:佐々木 達(宮城教育大学)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、古市 剛久(宮城教育大学)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)

[HGG01-02] 北海道胆振東部地震により多数の斜面崩壊が発生した小流域からの土砂流出とその下流環境への影響

*古市 剛久1,2水垣 滋3小山内 信智4布川 雅典3 (1.宮城教育大学、2.サンシャインコースト大学、3.土木研究所寒地土木研究所、4.政策研究大学院大学)

キーワード:北海道胆振東部地震、斜面崩壊、埋積、土砂流出、生態環境

2018年9月6日の早朝,北海道胆振地方中東部の地下約 35 kmを震源とするM6.7の内陸直下地震が発生した.その地震の揺れによって,東西約 20 km,南北約 20 kmの範囲に拡がる地域で多数の表層崩壊が発生した.この地震性斜面崩壊イベント(以下,「2018年イベント」)の際立った特徴は,崩壊密度が非常に高いこと,崩壊土砂の主体が降下性火山砕屑物(テフラ)にほぼ限定できること,大量の崩壊土砂で谷底が面的に埋積されたことである.斜面脚部あるいは谷底面に堆積した大量の土砂は降雨イベントや融雪出水によって経年的に流域から流出すると考えられるが,土砂流出の期間や流域地形変化との関係には未解明な部分が多く,また流出し運搬された土砂が下流から沿岸域の環境に影響を与える可能性も指摘されている.本報告では2018年イベントの特徴が典型的にみられる厚真川支流の東和川流域において実施中の土砂流出観測から得られた初年度データを分析すると共に,下流から沿岸部の生態環境への影響を検討する.

東和川流域は厚真川流域の中流部左岸に位置し,東西方向に伸びる北支流と南支流からなる.流域の最高標高は 234 m,最低標高は 25 m,比高は 209 m,面積は 4.9 km2,平均傾斜は21.3⁰(標準偏差11.2⁰)である.南支流中流部から下流部,及び北支流は新第三系振老層,南支流上流部は新第三系軽舞層を基盤とする.振老層は砂岩泥岩互層,砂岩,礫岩から構成され,軽舞層は珪藻質で硬質のシルト岩・頁岩を主とし,砂岩・礫岩も挟むとされる.これまでの報告によれば東和川流域での崩壊面積率はイベント地域内の他流域と比べても最も高く,表層崩壊は248箇所に上る.崩壊地の合計面積は 1.1 km2,崩壊面積率は0.23である.斜面崩壊に伴って斜面下方へ移動した大量の土砂は東和川谷底面を上流から下流へほぼ連続的に埋積した.

南支流埋塞部下流端付近に水位計と濁度計を設置し,2019年4月~12月に得られたデータの概要は以下の通りである.雨量計(アメダス厚真)は観測点から直線距離で約 4 km離れている.
(1) 一定の降雨・水位上昇・濁度上昇の少なくとも一つが認められたイベントは22回記録された.降雨による水位上昇はほぼ全ての降雨イベントで認められる一方,水位上昇に伴う濁度上昇が認められないイベントや,水位上昇がなくとも濁度上昇が認められるイベントがある.
(2) 6月初めから下旬にかけて渇水期があり,その間の3回の降雨流出イベントでは 40000 度(カオリン濁度)を超える極めて高濃度の濁水流出が記録された.
(3) 25000 度を超える高濁度が8月に2回記録され,そのうちの1つのイベントで年間最高水位と最大土砂流出が記録された.
(4) 25000 度を超える高濁度は10月にも1回記録されているが,その際の総雨量は僅か 6 mmである.
(5) 12月にも総雨量 16.5 mmの降雨で 5000 度を超える濁水流出が記録された.
(6) 降雨のピークから1時間以内に濁度のピークが見られることが多い.
(7) 総雨量 50 mmを超えるような大雨があると,1200 FTU(ホルマジン濁度)を超える濁度の土砂運搬が数時間以上続くイベントになる.
(8) 降雨流出イベントの後,水位がイベント前のレベルに戻るまでには小さなイベントでも数日,大きなイベントでは1週間以上を要する.

東和川からは降雨流出イベント時の高濁度流出だけでなく平水時でも一定の濁度をもった水が流出している.こうした濁水は河川下流部から沿岸部にかけての水中の光環境を変化させるだけでなく,多量の細粒土砂が運搬され堆積することで河川地形や河床堆積物の粒径などを変化させ,生態環境にも影響すると予想される.


謝辞
寒地土木研究所の藤浪武史氏,村上泰啓博士,伊波友生氏,秋田寛己博士には現地観測に協力頂いた.本研究はJSPS科研費 JP18H03819,及び北海道河川財団研究助成「北海道胆振東部地震における厚真川流域の土砂災害に関する分野横断型調査研究」(代表:今日出人)の助成を受けた.