JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD47] 将来の衛星地球観測

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、金子 有紀(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

[MSD47-10] 植生ライダー

*浅井 和弘1平田 泰雅2鷹尾 元2本多 嘉明3梶原 康司3粟屋 善雄4須崎 純一5遠藤 貴宏6杉本 伸夫7西澤 智明7水谷 耕平8石井 昌憲8木村 俊義9今井 正9澤田 義人9林 真智9境澤 大亮9三橋 怜9トルン グェン9 (1.東北工業大学、2.森林総合研究所、3.千葉大学、4.岐阜大学、5.京都大学、6.リモート・センシング技術センター、7.国立環境研究所、8.情報通信研究機構、9.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:ライダー、樹冠高、森林構造、森林バイオマス、L-バンドSAR、イメージャ

衛星搭載植生ライダーMOLI (Multi-footprint Observation Lidar and Imager)ミッションの目的は、日本初の宇宙用ライダーの技術実証と炭素循環や気候変動メカニズムにとって重要な役割を演じる地上部森林バイオマス(AGB: Above Ground Biomass)の評価に必要な林冠高/三次元森林構造情報の高精度取得、 更にL-band SAR (ALOS-2/PALSAR-2 等)データや GCOM-C/SGLIなどのパッシブ分光データとの融合解析を通した高密度な熱帯林域でのAGB算出精度の飛躍的向上に寄与する事である。MOLIで得られる成果は、将来の実用衛星への指針となり得る。
ここで提案する MOLライダーは、① 衛星搭載ライダーから発射された送信パルスレーザ光が地上を 25mφ(フットプリント)照射し、フットプリントからの反射光がライダー受信部に戻ってくるまでの往復時間から高精度な地表面情報(DSM、DEM(DTM)、植生分布、アルベド@レーザー波長など)が得られるレーザー高度計(Laser altimeter)として動作する、②地表面傾斜に起因する林冠高計測での誤差低減を目的に、二分割した送信レーザ光を地表面上で一対のフットプリントとして照射し、レーザショット毎、地上にalong-track方向に連続的に出現する多数のフットプリント対の中から、近接した3フットプリントに対する衛星-地上間の往復時間の差より地盤面傾斜角度および方位角を自己決定できる機能を有している、③同時搭載の高解像度イメージャ(先進光学衛星のバンド幅に合わせた Green、 Red、 NIR の3バンド、 swath 幅 1000 m、 地上解像度 5 m)は、林冠のサイズ、 高さ、 および圃場データに関する情報を提供する、等々の優れた計測技術を持った光アクティブセンサーである。
これらの特徴により、 MOLI ミッションの林冠高の計測精度は、 地表面傾斜角<30 度において、林冠高計測誤差±3m以内(<15m の森林)または<±20%以内(>15m の森林)、AGB 観測精度についてはAGB観測誤差±25t/ha 以内(<100t/ha の森林)または±25%以内(>100t/ha の森林)と高精度に設定することが出来る。 と同時にMOLIライダーの受信光強度は、L-band SAR (ALOS-2/PALSAR-2 等)が苦手とするAGB>150t/hの南米アマゾン川流域、アフリカ・コンゴ地域、東南アジア地域にある高密度な熱帯林でも飽和せず、より精度を上げて林冠高計測が達成できる。ただし、MOLIライダーの短所は、光センシングのために当然のことながら観測が天候に大きく影響される。
一方、L-band SAR (ALOS-2/PALSAR-2 等)は全天候観測が可能でありリアルタイムでの変化の抽出にも優れ、とくに近年、斜め観測によるデータの歪みの補正方法が改善されて以来、 山岳地での森林解析精度も上がり大いに期待されている。 しかしその半面、前述したように高密度な熱帯雨林からの受信後方散乱信号が飽和してしまう欠点があり、正確なAGB観測は難しい。またその他、 国内の閉鎖した成熟林では使えず、また湿地林やマングローブ林では水面による2回反射のためにバイオマス推定値が過大に評価されるなどの問題点がある。以上を踏まえ、 光波領域の MOLI ライダーと電波領域のL-band SARが有する各々の長所を有効に利用してそれぞれのセンサーの短所を補完することにより、高密度な熱帯雨林域でのAGB観測精度を高めることが可能となることを強調しておきたい。
次に、実利用の観点からMOLIのメリットを考察してみる。現地調査は森林管理(台帳作成)にとって大事な作業であるが、熱帯林域では幾多の困難に出くわす。我々の試算によれば、MOLIの実現によりAGB現地調査回数・調査費用を1/2 (ρ2 = 0.5の場合、ρ ̂^2:地上調査からMOLI推定値への回帰の決定係数)~1/5 (ρ2 = 0.8)、最大1/10 (ρ2 = 0.9)と劇的に削減の可能性がある。これにより、(1)REDD+(熱帯林の減少と劣化対策により気候変動を抑制するための国際的メカニズム)において MOLI はバイオマスの変化量を詳細に推定することができることから,温暖化政策の観点や外交政策上として意義の高い国際的な政策支援が可能となる、(2)JJ-FAST(JICA-JAXA による森林の違法伐採防止向けの早期警戒システム)とライダーセンサーの導入により,より正確な違法伐採の検知が可能となる、(3)民間の企業活動を加えた監視モニタリングの手段としても使用可能となる。
最後に、本ミッション提案の将来展望についても触れてみる。まずは、MOLIの実用性が確認されたなら農水省、環境省、JICAなどとの連携を通してMOLI後継機として、本格的且つ継続的な植生観測ミッションへ展開して国際貢献に役立てたい。また我が国初の宇宙ライダー技術の確立は、風ベクトルの全球3次元観測をめざすドップラーライダーや精密DEMを実現するスキャンニングライダーへの応用発展への足掛