日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI32] 地球掘削科学

2022年5月26日(木) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、コンビーナ:藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、コンビーナ:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、座長:針金 由美子(産業技術総合研究所)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)

16:15 〜 16:30

[MGI32-04] セグメント処理を行わないデジタルロックによる熱伝導率の推定:砂岩を用いた有効性の検証

*酒井 雄飛1石塚 師也1神谷 奈々1林 為人1 (1.京都大学大学院工学研究科)


キーワード:デジタルロック、セグメント処理無し、X線CT画像

地下深部の温度分布を把握することは、地下資源の形成や地震発生深度、地殻の変形現象などを理解するうえで重要であり、そのためにはマントルや地殻、表層堆積物の熱物性を知ることが必須である。現在、国際深海科学掘削計画をはじめとする世界中の掘削プロジェクトにおいて,膨大な数の掘削コアが取得・保管されており解析への活用が期待されているが、その熱物性を知る方法としてはコアを切り出して実測を行う方法しか存在しない。実測では正確な測定が可能であるものの数cmごとにコア試料を切り出す必要があり、長大かつ多数のコアを一挙に解析することは困難である。
そこで、岩石の物性分布をX線CT画像のデータを用いてコンピュータ上で再現できる「デジタルロック」による熱物性の推定手法の開発が期待されている。近年では多くの掘削プロジェクトにおいてコアのX線CT画像が撮影されることが通例となっており,画像データを入手することは容易である。従来のデジタルロックに関する研究では、比抵抗や弾性波速度など物理探査で頻繁に用いられる物性の推定手法を検討する研究は多く存在するが、熱物性については正確な推定手法が開発されていないうえに適用できる岩種も限定的である。そこで本研究では、一般の岩種に適用可能で正確な熱伝導率の推定手法の開発を目指し、砂岩のコア試料を用いてセグメント処理を行わない手法で熱伝導率を推定した。その結果、ホットディスク法による実測値との比較から、本手法の有効性が示唆された。
本研究の内容はセグメント処理を行わないデジタルロックの作成、および数値計算による熱伝導率の推定の二つに大分される。前者では、まずコア試料のX線CT画像のCT値を用いて3次元のボクセル配列を作成し、そこから切り出した検査領域内で、CT値と密度の関連付けの指標となる「疑似ターゲット」と呼ばれるボクセル群を決定した。次に、それをもとに連続関数を作成し全てのCT値を密度に変換し、また密度から空隙率への変換を行って各ボクセルに空隙率を与え、さらに密度と空隙率から各ボクセルに熱伝導率と比熱を与えた。この際、熱伝導率の与え方について、4つの異なる熱伝導の混合モデル(算術平均・調和平均・幾何平均・二乗平方根平均)を比較するため4通りのデジタルロックを作成した。
作成された4通りのデジタルロックに対し、層理面に平行な二つの端面に温度固定境界を、また全ての側面に温度勾配が0となる断熱境界を仮定し、熱伝導の有限差分シミュレーションを行い定常状態における温度勾配から検査領域全体の熱伝導率を算出した。一方実測では、コア試料を用いてホットディスク法により層理面で熱伝導率を測定した。なお、シミュレーションおよび実測はそれぞれ乾燥状態と水飽和状態で行い結果の比較を行った。
比較の結果、乾燥および水飽和のそれぞれの状態において、幾何平均混合モデルを用いた推定値が4つの推定値の中で最も実測値に近いものであった。これは、混合モデルで仮定されている岩石構造の差異によると考察できる。デジタルロックでは、画像の解像度の問題からボクセルの一辺の長さよりも小さな構造は一つのCT値で代表せざるを得ない。そのため、ボクセル内で層構造を仮定する算術平均や調和平均よりも、鉱物や空隙がランダムに分布する構造を仮定する幾何平均が正確な近似を与えると考えられる。