JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC52] [EE] Volatile cycles in the Earth - from Surface to Deep Interior

2017年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:羽生 毅(海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野)、David R Hilton(University of California San Diego)、角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)

10:00 〜 10:15

[SGC52-05] ピナツボ火山マントル捕獲岩中の塩水包有物に硫酸イオンがあった

*川本 竜彦1芳川 雅子1奥野 充2小林 哲夫3 (1.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設、2.福岡大学理学部地球圏科学科、3.鹿児島大学理学部)

キーワード:fluid inclusion, aqueous fluid, subduction zone, calc-alkali magma, oxygen fugacity, saline fluids

フィリピンの火山フロントにあるピナツボ火山から採取されたマントル捕獲岩中の流体包有物には、NaCl換算で5重量%の塩水と、炭酸塩鉱物、含水鉱物が存在することから、スラブ流体は二酸化炭素を含む塩水であると提案した (Kawamotoほか 2013 Proc Natl Acad Sci USA)。今回、新規導入したラマン顕微鏡を用いたマッピング装置を用いて、ピナツボのマントル捕獲岩の観察を行うと、それらに加えて硫酸イオンと硫酸塩鉱物が存在することに気づいた。これまで東北日本の背弧側の火山である一ノ目潟のマントル捕獲岩中には硫酸塩鉱物が報告され(Kumagaiほか、Contrib Mineral Petrol)ていた。一方、ピナツボの捕獲岩は830℃より低温を記録する前弧マントル由来で、一ノ目潟のように火山弧下のより高温のマントルに加わる流体とは異なると提案していた。今回の硫酸塩の発見により、その解釈は間違っていたと修正したい。また、ピナツボの捕獲岩のハロゲン元素のデータによると、流体包有物は海洋堆積物の間隙水を起源に持つ蛇紋岩の脱水分解により生成されたと考えられる(Kobayashi ほか 2017 Earth Planet Sci Lett)。蛇紋岩中には硫化物と硫酸塩鉱物の形で存在するらしい(Altほか 2012 Earth Planet Sci Lett)ので、硫化物が酸化されるならば硫酸イオンと硫酸塩が見出されたことと矛盾しない。Binder and Keppler (2011 Earth Planet Sci lett)の方法に従って予察的に求めた結果は、硫酸イオン濃度は水に対して約1重量パーセント(硫黄としては0.3%) であるが、この推定値は、Altほかの報告する蛇紋岩やその部分脱水分解生成物、さらに脱水流体中の硫黄濃度と大きく異ならない。また、芳川ほかはピナツボ捕獲岩中の角閃石は鉛に富むことを見出し、これは塩水の影響と提案していた (Yoshikawaほか 2016 Lithos)が、鉛は硫黄によって動き易い元素であるため、塩濃度に加えて硫酸イオンの影響もあるかもしれない。1つの硫酸イオンは8つの鉄の2価を3価に酸化する強力な酸化剤だから、硫酸塩や硫酸イオンはマントルウェッジを酸化する役目を果たしているだろう。沈み込み帯のマグマは中央海嶺玄武岩よりも酸化的と考えられている(Kelley and Cottrell 2009 Science)が、その原因のひとつにスラブ流体の硫酸イオンがあると提案する。このことはソレアイト岩系列に比べてカルクアルカリ岩系列のマグマの酸素雰囲気が高い原因 (Miyashiro 1974 Am J Sci) として、スラブ流体の硫酸塩と硫酸イオンが関与する可能性を示す。これまで高圧変成岩中(Frezzotti and Ferrando 2007 PERIODICO di MINERALOGIA)や蛇紋岩中に硫酸塩が見つかっていて、マグマ中にも硫黄は多く含有されていた(Le Voyer 2010 J Petrol) のだが、その間を結ぶマントルウェッジ流体に硫酸塩を発見した意義は大きいと考える。