JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD03] [EJ] 測地学一般

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 102 (国際会議場 1F)

コンビーナ:風間 卓仁(京都大学理学研究科)、松尾 功二(国土地理院)、座長:花田 英夫(国立天文台RISE月惑星探査検討室)、座長:松尾 功二(国土地理院)

14:00 〜 14:15

[SGD03-02] 高感度地殻歪観測を基にした地球の内部進化と自転効果の解明

*花田 英夫1大江 昌嗣2三浦 哲3 (1.国立天文台RISE月惑星探査検討室、2.奥州宇宙遊学館、3.東北大学理学研究科)

キーワード:自由コア章動、流体核共鳴、地殻歪み、光ファイバー干渉計

地球の内部には半径の約半分を占める流体核があり、独自の回転や対流運動を行っている。その運動は、流体核とマントルとの境界(CMB)の形、密度分布、温度分布、磁場、粘性等と関係しているといわれるが詳しいことはわかっていない。それを調べる一つの方法が、自由コア章動(FCN)という、流体核が引き起こす地球全体の回転運動を観測することである。これは、流体核の軸とマントルの軸がずれることによって起こる自由運動であり、その周期が地球に対して約1日と、潮汐の1日周期と非常に近いので、共鳴現象によって振幅が増大される。もし両者が一致すれば、とんでもなく大きな変動になると考えられる。

この流体核によって引き起こされる地軸の運動は、緯度観測所の木村榮が発見し世界を驚かせたZ項の原因としても知られていて、これまで、電波を用いた超長基線干渉計(VLBI)による観測データを解析し、宇宙空間に対する地球の自転軸の運動としてFCNの周期を求め、CMBの形がわずかに南北につぶれていることを発見した例はあるが、その振幅が小さいことから、FCNを自転軸が異なる流体核の突き上げによって起こるマントル上部の地表面の歪み変化として高精度に観測した例はほとんど無い。もし、地上でこのFCNの効果を観測すれば、CMBの形以外に、核の密度構造、CMBでの電磁気的、力学的な結合強度など、他の観測では困難な貴重なデータを得ることが可能であると理論的に予測される。

このFCNに近い潮汐の成分(分潮)は、現在ψとφ1である。しかし、これらはFCNの周期から少し離れていて、大きな振動にはなっていない。しかし、地球潮汐の周期は地球の自転速度が変れば変化するが、FCNの周期は、地球自転速度だけでなく流体核の力学的扁平率と自転速度の複合作用で変わる。従って、潮汐とFCNの角速度の差は、地質年代的に無視できない変化を示す。この変化を具体的に見るために、これまでの地球自転進化モデルの情報をもとに、年代的な変化を見積もってみた。
潮汐の角速度は地球自転速度だけを変え、太陽と月の軌道運動は不変とした。FCNの角速度では流体核の力学的扁平率が自転速度の2乗に比例して変わると仮定した。地質年代での自転速度の変化は、大江・安部(全地球史解読、2002年)の結果から12億年前までの値を用いた。

図はこの計算から得られた結果で、横軸は現在からの時間(1000万年単位)、縦軸は現在の平均太陽時1時間を基準とする角速度とし、潮汐成分のそれぞれ、K1、ψ1、φから自由コア章動N1の角速度を引いたものをプロットしている。図から、およそ2.8億年前にψとN1が重なり、およそ12,5億年前にφとN1が重なることが分かる。これらの時点で、大きな振動が起こると考えられる。ここで用いた地球自転速度の変化モデルは、大陸移動のような現象は含まれておらず、氷河の消長と同様、これらも地球自転に大きな影響を与えていたことが考えられるが、地球では潮汐の作用だけでもこれだけ自転周期が変わり、しかも、FCNの効果が大きな作用を持ち得た年代があったことは確かであろう。

最近、地球の氷河の消長による地質学的データから、自転速度変動が地球磁場の強度変化が強い相関関係を示すことが明らかになった(宮腰・浜野、2013)。シミュレーション解析によって地球自転の約2%の速度変動が、約20~30%の磁場強度変化を引き起こすというものである。ここで述べた流体核共鳴によって増幅されるFCNを観測すれば、その周期や振幅から、磁場変動に結びつく流体核の物理的な性質がさらに明らかになる可能性があり、人類の将来の環境にも大きく影響する、自転速度の減速、磁場の消失や反転の予測、その物理機構の解明にも貢献できると思われる。

現在、長基線の光ファイバー干渉計を利用して地殻歪みを高感度に計測することを計画している。