JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

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[U-04] [EJ] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールB (国際会議場 2F)

コンビーナ:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、川畑 大作(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門)、吉田 英嗣(明治大学文学部)、座長:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)

10:50 〜 11:15

[U04-01] 日本版改良藤田スケールの策定における気象学と風工学の連携

★招待講演

*田中 恵信1田村 幸雄2,3新野 宏4伊藤 優5奥田 泰雄6喜々津 仁密7小林 文明8坂田 弘安9鈴木 覚10小司 禎教11前田 潤滋12 (1.気象庁、2.東京工芸大学、3.北京交通大学、4.東京大学、5.株式会社日本設計、6.建築研究所、7.国土技術政策総合研究所、8.防衛大学校、9.東京工業大学、10.森林総合研究所、11.気象庁気象研究所、12.九州大学)

キーワード:竜巻、風災害、災害調査、風工学、学際協力

竜巻等の突風は極めて局地的な現象であるため通常の気象観測網で捕らえることは困難である。このような局地的現象を解明するためには,突風がもたらした被害の痕跡を調べることで現象の種類や強さを推定する必要がある。気象庁では,被害の状況から現象の種類や強さ等を科学的に明らかにする(以下,「評定」と呼ぶ。)ために,気象庁機動調査班(JMA-MOT)を現地に派遣して調査を実施している。突風の強さの評定は,従来は「藤田スケール」により行われてきた。
 藤田スケールは,シカゴ大学の藤田哲也教授が1971年に提唱したもので,地上の建築物等の被害の状況からF0~F5の6段階の階級で簡便に突風の強さを評定することができるため,米国をはじめ世界中で広く利用されてきた。しかし,被害状況と突風の強さ(風速)の対応が十分に検証されていないこと,被害指標(DI)の数が限定されていること等から,その評定精度の限界が課題となり,米国では,同国内で広く分布する28のDIとその被害度(DOD)に基づいて風速を推定する「改良藤田スケール」が2006年に策定され,2007年から米国気象局で利用されている。
 わが国では,2012年5月に茨城県つくば市等に甚大な被害をもたらした竜巻災害を受け,気象庁としても,政府としても竜巻等突風災害への様々な対策が検討された。その一環として,米国における改良藤田スケールの策定方法を参考にしながら,最新の風工学の知見に基づき,日本の建築物等に広く見られるDIに基づく日本版改良藤田スケールを作成することとなった。そして,気象庁では,風工学,建築学,森林学と気象学の専門家からなる「竜巻等突風の強さの評定に関する検討会」(会長:田村幸雄東京工芸大学名誉教授)の検討結果に基づいて,2015年12月に「日本版改良藤田スケールに関するガイドライン」を策定し,公開した。
 日本版改良藤田スケールの特徴は(1)日本の建築物等に対応したDI及び DODの導入,(2)DI・DODに対応した風速(5m/s単位)の設定,(3)風速値を3秒平均値に統一,(4)藤田スケールとの統計的な継続性を考慮した階級(JEF0~JEF5の6段階)の対応,であり,従来の藤田スケールに比べより精度の高い風速の評定が可能となると同時に過去の突風事例との比較も容易となった。
 ガイドライン策定の検討にあたっては,文部科学省の共同利用・共同研究拠点に認定されている「風工学研究拠点」の特定課題研究「日本版竜巻スケールおよびその評価手法に関する研究」(研究代表者:奥田泰雄建築研究所構造研究グループ長)に参画している多くの研究者の知見が活用されている。本研究課題において風工学と気象学の両者の緊密な連携のもと研究を進めてこられたことにより初めて目的を達成することができた。そして,JMA-MOTの気象庁職員が現場で調査を行うことを考慮しつつ,工学の専門的な知識が無くとも風速の評定ができるよう,DIやDODを作成することができた。
 気象庁では,2016年4月からJMA-MOTの突風現地調査に日本版改良藤田スケールの利用を開始し,2016年12月末までに44事例の竜巻等突風の評定を行った。評定結果は,気象庁ホームページの「竜巻等の突風データベース」で公表されている。現在DIは30種類があるが,利用開始以降の現地調査において評定作業を進めてきた中で,更に新規に追加すべきDIやDODが浮き彫りになってきた。これらの課題に対して,今後も日本版改良藤田スケールをより使いやすいものにしていくべく,引き続き風工学と気象学が連携して研究を実施中である。