第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:高井逸史(大阪物療大学保健医療学部)

生活環境支援 ポスター

[0061] 地域在住高齢者における自己の身体機能認識について

坂本由美, 大橋ゆかり (茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:認識誤差, 地域在住高齢者, 歩行

【はじめに,目的】
個人による差は見られるものの,加齢に伴い身体機能は徐々に低下を来す。この加齢に伴う変化を高齢者が正しく認識していない場合,身体機能に応じたバランス戦略の選択に影響を及ぼし,事故のリスクを高める可能性がある。そこで本研究では,歩行速度の観点から他者と比較した自己の運動イメージと実際の身体機能との関係を見ることで,高齢者の身体機能認識を検討することを目的とした。
【方法】
対象者はA県B町で2012年に実施した高齢者体力測定および健康指導の参加者のうち,研究協力の同意が得られた64歳~86歳の地域在住高齢者60名(平均年齢75.1±5.4歳,男性22名,女性38名)とした。
身体機能の指標には握力,長座体前屈,開眼・閉眼片脚立ち,Functional Reach,10m普通・最大歩行速度,普通および最大歩行速度でのTimed Up and Go Test(以下,順にTUG-u,TUG-f),障害歩行路(Standardized Walking Obstacle Course:SWOC)における歩行所要時間(以下,SWOCスコア)を用いた。
身体機能認識の指標には,研究協力者にSWOC上を歩く他者のビデオ映像を見せて歩行速度の観点による自己イメージと比較させ,自分がいつも家の中を歩くスピードと比べた場合のビデオ映像モデルの歩行を「かなり遅い」から「かなり速い」までの7件法で回答させた。なお,ビデオ映像モデル(57歳,女性)のSWOCスコア(平均12.3 sec.)は2006年~2012年に高齢者体力測定および健康指導に参加した高齢者の初回参加時データ(女性96名を含む高齢者146名分,初回参加時平均年齢74.8±5.3歳)から求めた平均SWOCスコア(13.3±3.2 sec.)を参考とした。かなり遅い・遅い・やや遅いと回答した者を「過大評価群」,同じくらいと回答した者を「同等評価群」,やや速い・速い・かなり速いと回答した者を「過小評価群」に分類し,一元配置分散分析を用いて各群の身体機能について比較検討した(有意水準は5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した。高齢者体力測定および健康指導の全参加者に対して口頭と書面にて調査・研究の趣旨および内容を説明し,書面による同意を得た。
【結果】
過大評価群は16名(女性9名,男性7名,平均年齢75.2±5.0歳),同等評価群は35名(女性23名,男性12名,平均年齢76.0±5.3歳),過小評価群は9名(女性6名,男性3名,平均年齢71.4歳±4.9歳)であった。
3群間に有意な差が見られた身体機能は開眼片脚立ち(過大評価群36.9±34.6 sec.,同等評価群18.2±19.6 sec.,過小評価群28.3±20.1 sec.,F(2,57)=3.298,p=.044)・閉眼片脚立ち(過大評価群4.5±2.9 sec.,同等評価群3.2±2.6 sec.,過小評価群5.6±2.0 sec.,F(2,57)=3.50,p=0.37),10m普通歩行速度(過大評価群73.6±17.4 m/min,同等評価群77.8±11.5 m/min,過小評価群92.3±19.0 m/min,F(2,57)=5.04,p=.01),TUG-f(過大評価群7.7±1.9 sec.,同等評価群7.2±0.9 sec.,過小評価群6.0±1.1 sec., F(2,57)=5.01,p=.01),SWOCスコア(過大評価群13.2±3.5 sec.,同等評価群12.2±1.5 sec.,過小評価群8.9±1.7 sec., F(2,57)=8.27,p=.001)であり,筋力や柔軟性の指標に群間の相違は見られなかった。
【考察】
本研究結果から,歩行速度の観点において,自己の身体機能を正しく認識していない高齢者の存在が確認された。他者の歩行速度を自らに比べて判断した場合に,その判断と実機能とに乖離が見られたが,このことから例えば人混みで人にぶつからずに歩く,車の往来を縫うように歩く際にタイミングを見誤り事故に至る可能性が危惧される。また自らの機能を過大評価する高齢者は若い頃の身体運動イメージが強く残存している可能性があり,転倒や交通事故のリスクも高めると考えられる。逆に自らを過小評価する群は歩行やバランスに関する自己効力感が低く,将来的に必要以上の活動制限に結びつく可能性も考えられるため,高齢者に見られる身体機能の認識誤差については更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
加齢に伴う身体機能の変化を正しく認識できていない高齢者の存在が示唆された。加齢に伴い変化を来す身体機能に見合った行動ができるかどうかは日常生活上の大切な要素であるため,高齢者にみられる認識誤差は,高齢者の事故防止を考える上で,また高齢者の生活を支える上で,更なる検討が必要な大事な要因であると考える。