第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節4

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 ポスター会場 (運動器)

座長:高橋友明(JA長野厚生連安曇総合病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0184] 全人工股関節術後早期患者の跛行と前額面における骨盤および股関節の動作角度の検討

吉田宏史, 中嶋裕子, 金並将志, 魚部宏美, 坪内健一, 定松修一 (松山赤十字病院リハビリテーション科)

キーワード:全人工股関節置換術, 跛行, 歩行解析

【はじめに,目的】
全人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty,以下THA)術後では術側立脚相において,非術側骨盤下制が減少し体幹が術側へ傾くデュシェンヌ現象が特徴的な歩容として多く経験される。この傾向は,前額面上での歩容に影響を与えており,術側股関節内転角度との関連が注目されている。そこで今回,歩行中における前額面での股関節運動角度(以下,股内外転角度)を測定し,前額面での骨盤運動角度(以下,骨盤傾斜角度)および股関節内転関節可動域(以下,内転可動域),股関節外転筋力(以下,外転筋力),脚延長量との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,THA術後にデュシェンヌ跛行を呈した男性2名,女性28名(年齢67.1±9.4歳),健常者男性5名,女性5名(年齢32.7±3.8歳)であった。THA患者は,片側変形性股関節症に対して初回THAを施行し股関節以外に疾患を有さないものとした。評価は,術前日(以下,術前)と術後35日(以下,5週)に実施した。歩行中の股内外転角度,骨盤傾斜角度の測定には,3軸加速度・3軸角速度計内蔵動作角度計(Microstone社製MVP-RF8,MVP-DA2-S,以下,センサ)を使用した。センサ位置は,股関節では大転子直上と大腿骨外側上顆,骨盤では第3腰椎部と上前腸骨棘とした。歩行環境は裸足,快適速度とした。運動角度の算出には,運動角度解析ウェアからCSVファイルに変換されたデータをグラフ化し,再現性のある波形と判断できたものを使用した。外転筋力の測定には,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製ミュータスF-1)を使用し,体重で除して標準化した。脚延長量は,X線像を基に涙痕間線を基準とした小転子までの垂線の距離を求めた。内転可動域は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定した方法を用いた。算出された運動角度は,術前・5週間,患者・健常者間で比較した。また,股内外転角度と骨盤傾斜角度,脚延長量,外転筋力との相関を求めた。さらに,内転可動域は正常歩行で認められる内転5°を基準に5°未満の低値群と5°以上の高値群に分け,両群で股内外転角度を比較した。統計解析は,正規性の検定を行った上で,2群の比較には対応のあるもしくは対応のないt検定を,2群の関係にはpearsonの相関係数を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の定める規定に従い,書面及び口頭にて参加者へ研究の趣旨を十分説明し,同意への署名を得た上で実施した。
【結果】
THA患者の股内外転角度は健側・術側の順に術前は,10.3±5.2°・8.1±3.7°,5週は10.7±4.2°7.9±3.2°,骨盤傾斜角度は,同様の順で6.7±2.6°・7.0±2.5°,4.9±2.2°・5.0±2.1°,健常者は,股内外転角度15.0±4.4°骨盤傾斜角度6.5±2.9°であった。股内外転角度は術前および5週とも両側においてTHA患者が健常者より有意に小さく,骨盤傾斜角度は術前では差が無く,5週では両側とも健常者より有意に小さかった(P<0.01)。股内外転角度は,非術側(p=0.01)術側(p<0.01)とも術前より5週が小さかった。股内外転角度,骨盤傾斜角度の関係では,術前では有意な関係はなく,5週では術側股関節と非術側骨盤(r=0.72,p<0.01),非術側股関節と術側骨盤(r=0.69,p<0.01)で有意な正相関が認められた。内転可動域は5週術側股関節が術前術側(p<0.01),術前非術側(p<0.01),5週非術側(p<0.01)よりも有意に小さかった。5週の術側股内外転角度は脚延長量と負相関を示し(r=-0.53,p<0.01),外転筋力と正相関を示した(r=0.40,p=0.04)。内転可動域によって分けた2群の比較では,高値群で股内外転角度が有意に大きかった(p=0.04)。
【考察】
今回の対象はデュシェンヌ跛行を呈しており,非術側骨盤傾斜角度が術前や健常者より低値を示した事は,術側立脚相での非術側骨盤下制の減少を反映している可能性があり,非術側骨盤傾斜角度の拡大の必要性が考えられた。また,非術側骨盤傾斜角度に関して,術側股内外転角度と相関が見られたことから,非術側骨盤傾斜角度拡大のためには,術側股内外転角度の拡大が重要であると考える。術側股内外転角度に着目する上で,関連する因子として脚延長量や外転筋力,内転可動域が示された。脚延長は軟部組織の静止張力増加による可動域制限が関与したと考えられる。外転筋力低下では重心線と骨頭を近づけるために,また内転可動域制限では立脚側へ骨盤外側移動の減少を相殺するために,体幹術側側屈とそれに伴う非術側挙上が生じると解釈することができ,これらの因子に関しても理学療法を実施する上で考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後早期の跛行の特徴が示せたことは,効果的な理学療法の展開に寄与すると考える。