第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

スポーツ3

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 第12会場 (5F 502)

座長:千葉慎一(昭和大学藤ヶ丘リハビリテーション病院リハビリテーション部)

運動器 口述

[0927] 投球動作時痛が肩関節に与える影響

海江田武1, 熊田仁2, 松田淳子3, 稲岡秀陽3 (1.医療法人同仁会(社団)西京病院, 2.藍野大学医療保健学部理学療法学科, 3.医療法人同仁会(社団)京都九条病院)

キーワード:投球障害, 肩関節, 関節可動域

【はじめに】
成長期野球選手の投球障害肩の発生は15,16歳にピークを迎え,肩関節の痛みと投球動作の変化に注意する必要がある。成長期野球選手の投球障害肩の発生要因には,投げすぎによる肩周囲組織の損傷などの外的要因,成長期特有の内的要因,技術的要因があり,それらについての研究は数多く行われている。しかし,実際の投球直後の身体変化についての調査を行った研究は少なく,投球が身体に及ぼす影響についての報告は散見できる程度である。また投球動作後の疲労部位や可動域の変化についての調査はあるが,投球動作時痛を有する選手を対象とした投球直後の身体変化についての調査は少ない。そこで今回,投球前後の機能評価を行い,投球動作時痛が投球直後の肩関節に及ぼす影響について検討した。
【対象と方法】
高等学校1校の日常のクラブ活動を行えている硬式野球部員51名のうち,投手17名を対象とした。選手たちには事前に疼痛に関するアンケートを行い,投球動作時の疼痛の有無,部位を調査し,身体のどこかに疼痛を有する8名を疼痛あり群,疼痛を有しない9名を疼痛なし群とした。課題の投球動作はウォーミングアップのキャッチボールを20球行わせ,その後ブルペンにて全力投球50球を実施させた。使用ボールは高校が使用する試合球とした。課題の前後で肩内外旋可動域,肩内外旋筋力,hyper external rotation test(以下,HERT)を測定した。測定内容としては,(1)肩内外旋可動域は背臥位で肩外転90度,肘屈曲90度の肢位(以下2nd)で,基本軸を床への垂直線,移動軸を尺骨とし,ゴニオメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。(2)肩内外旋筋力は端座位,上肢下垂位,肘屈曲90度の肢位で,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。なお(1)(2)については「投球前の測定値-投球後の測定値」を変化量として算出した。(3)2nd肢位を取りHERTを実施した。統計処理は,2群間で,関節可動域および筋力の変化量を比較するために,対応のないt検定を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究内容に対して各個人に十分な説明を行い,同意を得た上で実施した。
【結果】
肩外旋可動域は,疼痛あり群では投球前112.7±5.2°,投球後115.9±5.4°であり,変化量は3.2±2.8°であった。疼痛なし群では投球前113.6±6.7°,投球後113.1±6.3°であり,変化量は-0.5±3.2°であった。両群間の可動域の変化量は,疼痛あり群で有意な増加(p<0.05)を認めた。肩内旋可動域は,疼痛あり群では投球前28.8±9.0°,投球後31.8±9.8°であり,変化量は-3.0±4.4°であった。疼痛なし群では投球前27.7±10.7°,投球後30.6±12.4°であり,変化量は-2.9±6.0°であった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。外旋筋力は,疼痛あり群では投球前10.9±2.0Nm/kg,投球後10.0±1.7Nm/kgであり,変化量は1.0±0.9Nm/kgであった。疼痛なし群では,投球前10.4±1.7Nm/kg,投球後9.6±1.4Nm/kgであり,変化量は1.2±0.8Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。内旋筋力は,疼痛あり群では投球前13.9±3.3Nm/kg,投球後13.2±2.8Nm/kgであり,変化量は0.7±1.2Nm/kgであった。疼痛なし群では疼痛前13.2±2.7Nm/kg,投球後13.3±2.9Nm/kgであり,変化量は-0.2±1.9Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。HERTについては投球前,投球後ともに全例陰性であった。
【考察】
今回の調査では,課題前後の疼痛あり群の肩外旋可動域の変化量が疼痛なし群に比べ有意に増加した。投球動作は投球側の上肢を振るだけの運動でなく,下肢から体幹そして投球側上肢への運動連鎖である。そうした下肢・体幹のエネルギーを十分に使うことにより投球側上肢の負担は軽減するとの報告がある。疼痛あり群では,投球動作中の下肢から体幹,投球側上肢への運動連鎖が阻害され,十分なエネルギー伝達ができず,上肢への負担が大きくなり,その過剰な負担が肩関節外旋可動域の増加に繋がったものと考えられる。現在は疼痛あり群もHERTは陰性であるが,投球によるストレスが継続すれば,将来的に投球障害肩に進展する可能性も否めない。今後,より詳細に投球動作直後の身体機能の変化と選手個人がもつ身体特性の関係を調査し,投球障害肩発生のメカニズムを探っていきたい。
【理学療法研究としての意義】
成長期野球選手に対しての全身の身体評価は,安静時の身体機能を評価することが多く,投球直後の身体機能に対しては評価がまだ不十分である。投球動作が身体に及ぼす影響をより明確にしていくことで投球障害肩の予防の一助となると考える。