第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学15

2014年5月31日(土) 14:50 〜 15:40 ポスター会場 (基礎)

座長:越智亮(星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1096] 運動器疾患のない高齢男性患者の歩幅と下肢筋力の関係

大森圭貢1, 笠原酉介1, 森尾裕志2, 立石真純1, 小野順也1, 岩崎さやか1, 近藤千雅1, 松嶋真哉1, 鈴木智裕1, 笹益雄1, 飯島節3 (1.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 2.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 3.国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局)

キーワード:歩幅, 下肢筋力, 高齢男性

【はじめに,目的】歩幅は加齢に従って減少するとともに,日常生活動作能力低下との関連や,転倒の予見因子となることが報告されている。このため歩行速度と同様に臨床で評価すべき歩行能力指標と考えられる。歩幅と並ぶ歩行能力の指標である歩行速度は下肢筋力と密接な関連があり,高齢患者における両者の関係は線形に比べて非線形のモデルにより適合することが報告されている。一方,高齢者の歩幅と下肢筋力の関係が線形,あるいは非線形に適合するかの検討はほとんどされていない。歩幅と下肢筋力の関係が非線形であった場合,わずかな筋力の変化が歩幅に大きく影響する筋力水準や,反対に筋力の変化が歩幅にあまり影響しない筋力水準が存在すると推察される。これらの筋力水準は,歩行能力の低下のみならず,日常生活動作能力低下や転倒予防を考える上で参考になる可能性が高い。本研究の目的は,歩幅と下肢筋力の関係が線形に適合するのか非線形に適合するのかを検討し,歩幅が著しく減少する筋力水準について高齢男性患者を対象に明らかにすることである。
【方法】研究デザインは横断研究である。対象者は,65歳以上の男性患者176名である。対象者の取り込み基準は,脳血管障害・運動器疾患・認知症がない,呼吸器や循環器の問題によって10mの歩行に制限がない,測定によって得られたデータの取り扱いの可能性について十分な理解と同意を口頭で得た者とした。これら取り込み基準を満たした対象者の下肢筋力および10m最大歩行速度測定時のデータを診療録から後方視的に調査した。下肢筋力は,等尺性膝伸展筋力を指標とした。等尺性膝伸展筋力はアニマ社製徒手筋力測定器μTasMT-1あるいはμTasF-1を用い,腰掛け座位で下腿を下垂した膝屈曲90度位で測定した値を採用した。測定はできるだけ強く3秒間膝を伸展するように教示し,左右のそれぞれ2回の測定のうち大きい値を採用し,左右の平均の体重比(kgf/kg)を求めた。歩幅は10m最大歩行速度測定時に計測した歩数(歩)をもとに算出した。まず10mを計測した歩数(歩)で除した値を算出(cm)した。次に身長の歩幅への影響を除外するために,得られた値を身長(cm)で除した値を算出し,歩幅(cm)とした。なお10m最大歩行速度の測定は2回行い,所要時間の短い測定での歩数を採用した。分析は歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係を線形と非線形モデル(対数モデル)に適合させた際のR2値を求め,適合度を比較した。歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係が非線形モデルにより適合した場合には,等尺性膝伸展筋力を筋力値の低い水準から区分けし,区分けした筋力未満をy=ax+b,以上をy=cx+dの式に当てはめ,両式の残差平方和の和が最小値となる筋力水準を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】10m最大歩行速度および等尺性膝伸展筋力の測定に際しては,測定によって得られたデータの使用の可能性について口頭で説明した。また説明に対して十分な理解と同意を口頭で得た者のデータを採用した。
【結果】対象者の平均年齢は76.3歳,平均身長161.7cm,平均Body Mass Indexは20.6kg/m2であった。対象者の診断は呼吸器疾患124名,心大血管疾患46名,その他6名であった。歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係は,筋力が高くなるに従い歩幅は大きく,一方,筋力が低くなるに従い歩幅は小さかった。両者の線形および対数モデルのR2値は,順に0.28,0.32であり,線形モデルに比べて対数モデルで高値であった。様々な筋力値で区分し,その筋力値未満をy=ax+b,以上をy=cx+dの式に当てはめた場合の両式の残差平方和の和は,等尺性膝伸展筋力0.40kgf/kg未満と以上で区分けした際が0.13であり,他の筋力値で区分した時に比べて最も小さかった。なお,0.40kgf/kg未満の式はy=0.97x+0.04(R2=0.85),0.40kgf/kg以上の式はy=0.22x+0.31(R2=0.36)であった。
【考察】高齢男性患者の歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係は,線形モデルに比べて対数モデルにより適合したことから,歩幅と下肢筋力の関係は非線形関係に近いと考えられた。等尺性膝伸展筋力が0.40kgf/kg未満と以上によって区分した場合,2つの式の残差平方の和が最小値となった。また回帰係数は筋力値0.40kgf/kg以上の式が0.22であったのに対し,未満の式のそれは0.97であった。これらのことから,等尺性膝伸展筋力がおおよそ0.40kgf/kgを下回った場合には筋力の低下によって歩幅の減少は著しくなると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】歩幅と下肢筋力の関係が非線形関係に適合し,また歩幅は一定の下肢筋力水準を下回ると著しく制限される危険性を示した研究である。移動手段として歩行を捉え,その障害の予防,改善を考える際の目安となる筋力水準を示した点で有用である。