高宮賞授賞式・受賞者セッション
会 場:登録メールアドレスにオンラインによる開催通知連絡済
新宅純二郎会長より、受賞者の岩尾俊兵氏(明治学院大学)に表彰盾および副賞の贈呈が行われます。
その後、受賞者セッション(20分)が行われます。
【著書部門】
該当なし
【論文部門】
受賞者:岩尾 俊兵(明治学院大学)
論文名:「インクリメンタル・イノベーションと組織設計:
日本の自動車産業における改善活動の実態とコンピュータ・シミュレーション」
掲載誌:『組織科学』第52巻 第2号 (2018年12月20日発行)
受賞者セッション資料(PDFファイル・ダウンロード):
【審査講評】
組織学会高宮賞審査委員会委員長 淺羽 茂
2020年度組織学会高宮賞は、著書部門は該当作なし、論文部門には岩尾俊兵著、「インクリメンタル・イノベーションと組織設計:日本の自動車産業における改善活動の実態とコンピュータ・シミュレーション」、『組織科学』第52巻、第2号、2018年12月発行が選定された。岩尾俊兵さん、おめでとうございます。
岩尾論文は、日本の自動車産業における改善活動の比較事例分析を通じて、組織設計とインクリメンタル・イノベーションとの関係を分析した論文である。この論文を高く評価するポイントはいくつかある。まず、目のつけどころである。もちろんこれまでもインクリメンタル・イノベーションを組織的に蓄積することが経営に大きなインパクトをもたらすと主張する研究は存在したが、ラディカル・イノベーションに比べると競争上の意義、戦略的価値が低いとされてきたインクリメンタル・イノベーションに注目するという目の付け所が良いと評価された。次に、発見事実である。一口にインクリメンタル・イノベーションといっても規模の点で異なり、企業はどの規模のものを中心に扱うかについて意思決定する余地があり、それぞれの規模のインクリメンタル・イノベーションに適した組織形態、資源・権限の配分があることを明らかにした。具体的には、各社が取り組む改善活動の規模は、小規模中心、大規模中心、バランス型の3つがあり、それぞれ作業者中心型、本社技術者中心型、中間型の組織が採用されていることを発見した。3つめは、異なる方法の組み合わせによる研究という点である。本論文では、比較事例分析を補うものとして、作業者、技術者、工業技術員という3種類のエージェントが改善活動に取り組むというシンプルなモデルのコンピュータ・シミュレーションを実行し、事例分析で見られたような改善活動の規模と組織の型の関係が生まれることを確認している。
もちろん本論文にも改善すべき点がある。たとえば、本論文では、様々なインクリメンタル・イノベーションとそれに適した組織形態の組み合わせを見出しているが、なぜそのような異なるタイプの改善活動が生まれるのかについて議論されていない。また、実際企業では異なるタイプの改善活動を、時には組み合わせ、時には1つに集中し、高い成果を生み出すような「インクリメンタル・イノベーション戦略」をとっているのではないかと考えられるが、そのような問いに答える体系的な分析がなく、managerial implicationが導かれていない。このような意見が委員会では出された。
ただし、このように物足りない点はあるにせよ、先に挙げたように高く評価できるポイントも複数ある優れた研究であり、組織学会高宮賞に値するというのが、審査委員会の総意である。
今回の審査委員会では、著書7点、論文4点が審査された。選に漏れた著書、論文も優れた研究であり、審査委員会でも様々な角度から議論が行われた。とくに、著書の中には、面白い現象あるいは今日的な意義の大きな問題を取り上げたパイオニア的な研究もあった。
これは昨年の講評でも述べたが、そもそも研究の優秀さを評価する項目は、研究対象、問題、現象の面白さ、リサーチギャップを発見できるような丁寧な批判的レビュー、厳密なデータ分析、濃密な事例の記述、発見事実の意外性・面白さ、説明のわかりやすさ、理論的貢献、managerial implicationと様々である。審査委員によって、どれを重視するかも多少異なる。昨年以来、審査委員会では、著書であれば、そのすべてにおいて一定の水準を超え、かついくつかの評価項目で秀でていることが望ましいとしてきた。面白い現象、今日的意義の大きな問題を扱っている研究も、データの取り扱いや、リサーチクエスチョンと分析結果との整合性の点で、見過ごせない問題があるという評価になり、選に漏れた。
組織学会高宮賞によって、受賞者の岩尾氏はもちろんのこと、すべての学会員が、今後も優れた研究を生み出していくこと、その努力を継続することを奨励することになれば、素晴らしい。2020年度組織学会高宮賞を受賞された岩尾俊兵さんに祝福をし、講評を終える。