5:15 PM - 7:30 PM
[PC-01] 育ちの中での多様な性のあり方を考える
~どの子にとっても安心できる居場所となるために~
※Zoomリンクはページ下部(ログイン後)に表示されます。
企画者:麦谷 綾子(日本女子大学)
【企画趣旨】
この3月、ネット上に掲載された以下の記事を目にしました。
「2歳ごろから「自分は女の子」いっちゃんが自分の居場所をつくるまで」(朝日新聞社 withnews)
この記事には、からだとこころの性別が異なる「いっちゃん」が、家族や保育園に支えられながら、自分らしくいられる居場所を懸命に作ってきた過程と、決して平坦ではなかったその道のりが記されています。
どの子にとっても安心できる居場所となるために、私たちはどのような意識を持ち、どのようにこどもと関わっていけばよいのでしょうか?このプレコングレスでは、登壇者に新聞記者、研究者、玩具開発者、当事者を迎えて、それぞれの立場から、こどもたちの性の多様性に関連した話題を提供いただきます。そのうえで、LGBTQを含めた発達の中での種々の多様性を当たり前のものとして受け止めていくことの重要性とともに、ありのままのその子を受け入れていくとはどういうことなのか、そこにどのような課題が存在するのかを、フロアと一緒に議論したいと思います。
【話題提供者1】
取材で見えた「思春期から」という思い込み
新谷 千布美(朝日新聞記者)
「性同一性障害」と診断された小学4年生の「いっちゃん」の経験を綴った記事「2歳ごろから『自分は女の子』 いっちゃんが自分の居場所をつくるまで」(2021年1月19日配信)を書きました。背景には、同じように幼くして身体の性に違和感を持つ滋賀県大津市の保育園児が受けた、アウティングといじめ行為についての取材があります(関連記事:2021年1月18日付朝日新聞朝刊滋賀版「『性に違和感』同意なくHPに 園児両親、削除求め提訴」、デジタル版など)。
最初に大津市の問題を上司へ相談したところ、「性的少数者の問題は思春期からじゃないの?」と言われました。別の機会ですでに「いっちゃん」と知り合っていた私は、上司を納得させるためにも、改めて「いっちゃん」とご家族に話を聞かなければならかったのです。
この「思春期からでは」という思い込みは、大津市の行政担当者たちも異口同音に口にしていました。お話を伺った大津市の園児や「いっちゃん」のご両親は、こうした社会からの無理解に一番つらい思いをされているように感じました。
専門家の方に取材すると「自覚するタイミングは幼児期から成人以降まで人それぞれ」。約1200人を診察した経験を持つ別の医師は「約6割は小学校入学前に自覚していた」とすら話していました。幼児期までの子どもの保育や教育に携わる方に、まずこのことを知っていただきたいと思っています。
【話題提供者2】
LGBTQかもしれない子ども
石丸 径一郎(お茶の水女子大学)
乳幼児期には、性別という概念の理解、自分がどちらの性別に属しているかという理解、男の子的・女の子的な遊びやおもちゃの好み、恋愛感情などが、渾然一体とした状態のまま発達していくと考えられます。トランスジェンダー当事者たちの子ども時代の話としてよくあるのは、トランス男性では、スカートを嫌がった、立小便を試みた、ままごとではお父さん役をしたなど、トランス女性では、タオルを長髪に見立てて頭につけた、ドレスを着たがった、ピンク色など女の子向けの持ち物を好んだなどです。いずれも、どんなあり方が自分らしいか、のびのびできるかを探る試行錯誤であり、また他の子どもたちの権利を侵害するような行為ではありません。身体の性別にふさわしい行動を強制するのは子どもにストレスを与えるし、一方完全にその逆の性別として扱うことは子どもの試行錯誤を過度に誘導してしまいます。男の子または女の子というレールの上を走らせるのではなく、子ども自身が自分らしい道を模索し見つけていくプロセスを受容的に見守ることが、望ましい周囲の大人のあり方ではないかと考えます。
【話題提供者3】
お人形遊びから考える子どもの性別とおもちゃの関係
土井 菜摘子(パイロットインキ株式会社)
おもちゃ業界では「男児玩具」「女児玩具」というように性別で商品を分けるというやり方が長年続いていましたが、昨今それを見直すような動きもでてきています。しかし、そういった従来の区分について何の疑問も抱かずにいた時間が長いことも確かで、現在でも深く議論され尽くされたかというとまだまだだと感じています。
そのような中で、私が商品開発を行っている抱き人形の「メルちゃんシリーズ」では男の子のお人形が存在していますが当初は「女の子が遊ぶ男の子の見た目のお人形」として登場し、その後「男の子向けのお人形」というコンセプトでリニューアルしていました。しかし、2017~2019年と慶應義塾大学皆川教授と共同で「お人形遊びが子どもの心の発達にどう関わるか」という実験調査を行ったところ、男女関わらずお人形を使ったごっこ遊びが心や言葉の発達に効果的だということや、子どもの性別及び遊ぶ玩具によって母親の行動が無意識的に変化しているということが分かってきました。これらの調査を経て、現在は「女の子も男の子も楽しいお人形遊び」として、お人形で遊ぶのは男女に関わらないしお人形自体にもいろいろな子がいる、という構成に商品を見直しています。
おもちゃというのは子どもたちが生活の疑似体験をしたり心身ともに成長していく上で必要な道具だと考えていますが、それを提供する側のメーカーである私たち、またそれを選んで購入する保護者や保育園・幼稚園のような子どもの発達の場に携わる大人が、子どもの性別に合わせてモノを分けてしまって子どもたちの可能性を狭めてしまっていないか?という疑問と、企業の中で商品開発をしていく上での課題、また業界の現状をお伝えしたいと思います。
【話題提供者4】
誰にとっても必要な「心の安全基地」
當山 敦己(ここいろhiroshima)
ここいろhiroshimaは、からだやこころの性で悩む子どもとその保護者のためのコミュニティスペースを運営しており、これまで多くの子どもやその保護者と出逢ってきました。「その人らしく安心して居られる場所」は、子どもだけでなく大人にとっても重要なことだということが活動を続けていく中で大きな気づきになりました。
私自身は女性として生まれ、現在は男性として生きている三十路直前のトランスジェンダーですが、両親に本当の自分を打ち明けられたのは28歳の時でした。自分にとって【心の安全基地】が出来た時にはじめて、人は安心して自分らしい生き方に進んでいけるのではないかと思います。
このセッションでは、私自身のライフストーリーとここいろhiroshimaの活動を通して見えてきたことを軸に、「どの人にとっても安心して居られる場所」をつくるために必要なことについて、皆さんと共に考えていきたいと思います。
企画者:麦谷 綾子(日本女子大学)
【企画趣旨】
この3月、ネット上に掲載された以下の記事を目にしました。
「2歳ごろから「自分は女の子」いっちゃんが自分の居場所をつくるまで」(朝日新聞社 withnews)
この記事には、からだとこころの性別が異なる「いっちゃん」が、家族や保育園に支えられながら、自分らしくいられる居場所を懸命に作ってきた過程と、決して平坦ではなかったその道のりが記されています。
どの子にとっても安心できる居場所となるために、私たちはどのような意識を持ち、どのようにこどもと関わっていけばよいのでしょうか?このプレコングレスでは、登壇者に新聞記者、研究者、玩具開発者、当事者を迎えて、それぞれの立場から、こどもたちの性の多様性に関連した話題を提供いただきます。そのうえで、LGBTQを含めた発達の中での種々の多様性を当たり前のものとして受け止めていくことの重要性とともに、ありのままのその子を受け入れていくとはどういうことなのか、そこにどのような課題が存在するのかを、フロアと一緒に議論したいと思います。
【話題提供者1】
取材で見えた「思春期から」という思い込み
新谷 千布美(朝日新聞記者)
「性同一性障害」と診断された小学4年生の「いっちゃん」の経験を綴った記事「2歳ごろから『自分は女の子』 いっちゃんが自分の居場所をつくるまで」(2021年1月19日配信)を書きました。背景には、同じように幼くして身体の性に違和感を持つ滋賀県大津市の保育園児が受けた、アウティングといじめ行為についての取材があります(関連記事:2021年1月18日付朝日新聞朝刊滋賀版「『性に違和感』同意なくHPに 園児両親、削除求め提訴」、デジタル版など)。
最初に大津市の問題を上司へ相談したところ、「性的少数者の問題は思春期からじゃないの?」と言われました。別の機会ですでに「いっちゃん」と知り合っていた私は、上司を納得させるためにも、改めて「いっちゃん」とご家族に話を聞かなければならかったのです。
この「思春期からでは」という思い込みは、大津市の行政担当者たちも異口同音に口にしていました。お話を伺った大津市の園児や「いっちゃん」のご両親は、こうした社会からの無理解に一番つらい思いをされているように感じました。
専門家の方に取材すると「自覚するタイミングは幼児期から成人以降まで人それぞれ」。約1200人を診察した経験を持つ別の医師は「約6割は小学校入学前に自覚していた」とすら話していました。幼児期までの子どもの保育や教育に携わる方に、まずこのことを知っていただきたいと思っています。
【話題提供者2】
LGBTQかもしれない子ども
石丸 径一郎(お茶の水女子大学)
乳幼児期には、性別という概念の理解、自分がどちらの性別に属しているかという理解、男の子的・女の子的な遊びやおもちゃの好み、恋愛感情などが、渾然一体とした状態のまま発達していくと考えられます。トランスジェンダー当事者たちの子ども時代の話としてよくあるのは、トランス男性では、スカートを嫌がった、立小便を試みた、ままごとではお父さん役をしたなど、トランス女性では、タオルを長髪に見立てて頭につけた、ドレスを着たがった、ピンク色など女の子向けの持ち物を好んだなどです。いずれも、どんなあり方が自分らしいか、のびのびできるかを探る試行錯誤であり、また他の子どもたちの権利を侵害するような行為ではありません。身体の性別にふさわしい行動を強制するのは子どもにストレスを与えるし、一方完全にその逆の性別として扱うことは子どもの試行錯誤を過度に誘導してしまいます。男の子または女の子というレールの上を走らせるのではなく、子ども自身が自分らしい道を模索し見つけていくプロセスを受容的に見守ることが、望ましい周囲の大人のあり方ではないかと考えます。
【話題提供者3】
お人形遊びから考える子どもの性別とおもちゃの関係
土井 菜摘子(パイロットインキ株式会社)
おもちゃ業界では「男児玩具」「女児玩具」というように性別で商品を分けるというやり方が長年続いていましたが、昨今それを見直すような動きもでてきています。しかし、そういった従来の区分について何の疑問も抱かずにいた時間が長いことも確かで、現在でも深く議論され尽くされたかというとまだまだだと感じています。
そのような中で、私が商品開発を行っている抱き人形の「メルちゃんシリーズ」では男の子のお人形が存在していますが当初は「女の子が遊ぶ男の子の見た目のお人形」として登場し、その後「男の子向けのお人形」というコンセプトでリニューアルしていました。しかし、2017~2019年と慶應義塾大学皆川教授と共同で「お人形遊びが子どもの心の発達にどう関わるか」という実験調査を行ったところ、男女関わらずお人形を使ったごっこ遊びが心や言葉の発達に効果的だということや、子どもの性別及び遊ぶ玩具によって母親の行動が無意識的に変化しているということが分かってきました。これらの調査を経て、現在は「女の子も男の子も楽しいお人形遊び」として、お人形で遊ぶのは男女に関わらないしお人形自体にもいろいろな子がいる、という構成に商品を見直しています。
おもちゃというのは子どもたちが生活の疑似体験をしたり心身ともに成長していく上で必要な道具だと考えていますが、それを提供する側のメーカーである私たち、またそれを選んで購入する保護者や保育園・幼稚園のような子どもの発達の場に携わる大人が、子どもの性別に合わせてモノを分けてしまって子どもたちの可能性を狭めてしまっていないか?という疑問と、企業の中で商品開発をしていく上での課題、また業界の現状をお伝えしたいと思います。
【話題提供者4】
誰にとっても必要な「心の安全基地」
當山 敦己(ここいろhiroshima)
ここいろhiroshimaは、からだやこころの性で悩む子どもとその保護者のためのコミュニティスペースを運営しており、これまで多くの子どもやその保護者と出逢ってきました。「その人らしく安心して居られる場所」は、子どもだけでなく大人にとっても重要なことだということが活動を続けていく中で大きな気づきになりました。
私自身は女性として生まれ、現在は男性として生きている三十路直前のトランスジェンダーですが、両親に本当の自分を打ち明けられたのは28歳の時でした。自分にとって【心の安全基地】が出来た時にはじめて、人は安心して自分らしい生き方に進んでいけるのではないかと思います。
このセッションでは、私自身のライフストーリーとここいろhiroshimaの活動を通して見えてきたことを軸に、「どの人にとっても安心して居られる場所」をつくるために必要なことについて、皆さんと共に考えていきたいと思います。
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