[JC07] 地域・社会との関係から捉える児童・青年の学校適応
Keywords:適応, 学校, 地域
企画趣旨
現在,学校現場では様々な問題が生じている。その問題を理解するためには,「学校という文脈における適応」を捉えるための視点を議論することが重要になる。このような問題意識に立ち,これまでに「学校段階」「適応理論間の対話」「教育実践」「時間」「空間」といった様々な視点から学校適応に関する諸問題について検討を行ってきた(大久保・半澤,2009;半澤・大久保,2010;大久保・半澤,2011,半澤・大久保,2012,大久保・半澤,2013)。これらの検討から見えてきたのは,児童・青年の学校適応を捉える上で,学校内における彼らの適応を議論することだけでは不十分であるという視点である。児童・青年の学校適応は,学校外・正課外といった,彼らを取り巻く地域や社会との関係においても規定されうるものであると考えられるだろう。
本シンポジウムではこのような観点に立ち,「地域・社会との関係から捉える児童・青年の学校適応」について検討していきたいと考えている。
学校外の活動と学校適応
岡田有司(高千穂大学)
学校では時間割があり子どもは同じ時間構造の中で過ごしているが,学校外の時間は子ども達が自由裁量で使える余地のある時間であり,その過ごし方は様々である。こうした学校外の文脈における活動は子ども達に発達の多様性をもたらし,そのことは学校生活の在り方にも影響を及ぼしていると考えられる。
国内では学校外の活動に焦点をあてた心理学研究はあまりなされていないが,国外においては青少年の反社会的問題の抑制といった問題関心や,近年のポジティブ・ユース・デベロップメントといった研究関心を背景に,学校外の過ごし方に関する研究が蓄積されている。そして,Zarrett & Mahoney(2011)は学校外の活動を大きく構成的な活動(constructive activities)と構成的でない活動(unconstructive activities)に区分しており,構成的な活動は様々なコンピテンスを高めるとともに,発達課題の達成においても有益であると指摘している。
このことを踏まえると,学校外の文脈において構成的な活動にコミットすることは,学校生活にもポジティブな影響を与えると考えられる。しかし,上記のように国内ではこうした研究は少なく,学校外の活動がどのような側面から捉えられるのか,また,そうした活動が学校適応とどのような関係にあるのかという問題は明らかにされていない。そこで,本発表ではデータも交えながらこの問題について考えていきたい。
また,学校適応に影響を与える学校外の活動が示されれば,子どもをどのようにして有益な活動にコミットさせるべきかが問題になる。国外では子どもを積極的に構成的な活動に参加させようとする親の存在も指摘されているが(Lareau,2003),どのような参加の在り方が子どもにとって望ましいのかについても議論できればと考えている。
学校内・学校外の重要な他者との関係から捉える児童・青年の学校適応
中井大介(愛知教育大学)
児童・青年の学校適応を理解する際に,一つの重要な視点となり得るのが「対人関係」である。従来の研究でも,児童・青年にとって「援助資源」としての「重要な他者」の存在がストレスの緩衝となり,児童・青年の学校適応に影響を及ぼすことが指摘されている(酒井・菅原・眞榮城・菅原・北村,2002)。
中でも,学校空間の中で直接的に児童・青年の学校適応に影響を及ぼすと考えられるのが,友人関係,教師関係といった学校内の対人関係である。従来の研究でも,友人関係や教師関係といった学校内の対人関係が児童・青年の学校適応に影響を及ぼすことが指摘されている(中井・庄司,2008;中井,2012)。
一方で,友人関係,教師関係といった学校内の対人関係だけでなく,学校外の対人関係も児童・青年の学校適応を規定する可能性が指摘されている。例えば,中井(2013)は中学生の母親・父親に対する信頼感が学校適応感に影響を及ぼすことを明らかにしている。
この指摘を踏まえると,児童・青年の学校適応を捉える際,学校内の要因に加え学校外の要因も検討する必要があると考えられる。つまり児童・青年にとって家庭・地域・社会での対人関係は相互作用的な関係にあり,各空間での重要な他者との関係がその他の空間での適応にも影響を及ぼす可能性が推察される。
そのため,児童・青年の学校適応を考える際は学校に加え家庭・地域・社会も含めて援助資源としての重要な他者との関係を包括的に捉えるといった,ミクロからメゾ,マクロへの視点の転換も考慮する必要があると考えられる。本発表では,この観点から「チーム援助」や「アンカーポイント」の概念を取り上げ,この視点の転換に伴って生じる課題などについても検討したい。
地域ボランティアが学校や地域を変える
大久保智生(香川大学)
近年,学校の荒れや学級崩壊などの問題行動の継続化が大きな社会問題となってきている。加藤・大久保(2004, 2009)が指摘しているように,学校が荒れた際には教師が指導のあり方を見直すことが必要である(大久保, 2009)。しかし,教師は日々の様々な問題に対処し続けていく中で疲弊していることからも,地域の教育力を活用することも視野に入れる必要がある。このような地域の教育力を活かす事業の1つとして学校支援地域本部事業が挙げられる。
学校支援地域本部事業とは,平成20年より始まった文部科学省の委託事業であり,学校が必要とする活動について地域住民をボランティアとして派遣する事業で,そのためにコーディネーターを中心とする組織を整備するものである。いわば地域に学校の応援団を作る試みであり,従来の学校支援ボランティア活動を発展させた組織的なもので,より効果的に学校支援を行うために設置されるものである(時岡・大久保・平田・福圓・江村, 2011)。
最近では,学校支援地域本部事業についての研究(例えば,岩崎・松永, 2011; 清國, 2011; 松永, 2010; 本迫, 2009; 中川・山崎・深尾, 2010; 荻野, 2010)が行われてきており,この事業によって学校と地域が活性化されることなどが明らかとなっている。しかし,荒れた学校において学校支援地域本部事業を行った場合,学校や地域がどのように変化していくのかについては明らかにされていない。学校の荒れの対策として,加藤・大久保(2009)は学校を地域住民の協力を得るために積極的に公開していくことを挙げているが,どのように地域に学校を公開していくのかについては言及していない。したがって,地域に学校を公開する事業として,学校支援地域本部事業を取り上げ,地域住民,特に地域ボランティアの学校への関わり方とその影響について多面的に検討していく。
現在,学校現場では様々な問題が生じている。その問題を理解するためには,「学校という文脈における適応」を捉えるための視点を議論することが重要になる。このような問題意識に立ち,これまでに「学校段階」「適応理論間の対話」「教育実践」「時間」「空間」といった様々な視点から学校適応に関する諸問題について検討を行ってきた(大久保・半澤,2009;半澤・大久保,2010;大久保・半澤,2011,半澤・大久保,2012,大久保・半澤,2013)。これらの検討から見えてきたのは,児童・青年の学校適応を捉える上で,学校内における彼らの適応を議論することだけでは不十分であるという視点である。児童・青年の学校適応は,学校外・正課外といった,彼らを取り巻く地域や社会との関係においても規定されうるものであると考えられるだろう。
本シンポジウムではこのような観点に立ち,「地域・社会との関係から捉える児童・青年の学校適応」について検討していきたいと考えている。
学校外の活動と学校適応
岡田有司(高千穂大学)
学校では時間割があり子どもは同じ時間構造の中で過ごしているが,学校外の時間は子ども達が自由裁量で使える余地のある時間であり,その過ごし方は様々である。こうした学校外の文脈における活動は子ども達に発達の多様性をもたらし,そのことは学校生活の在り方にも影響を及ぼしていると考えられる。
国内では学校外の活動に焦点をあてた心理学研究はあまりなされていないが,国外においては青少年の反社会的問題の抑制といった問題関心や,近年のポジティブ・ユース・デベロップメントといった研究関心を背景に,学校外の過ごし方に関する研究が蓄積されている。そして,Zarrett & Mahoney(2011)は学校外の活動を大きく構成的な活動(constructive activities)と構成的でない活動(unconstructive activities)に区分しており,構成的な活動は様々なコンピテンスを高めるとともに,発達課題の達成においても有益であると指摘している。
このことを踏まえると,学校外の文脈において構成的な活動にコミットすることは,学校生活にもポジティブな影響を与えると考えられる。しかし,上記のように国内ではこうした研究は少なく,学校外の活動がどのような側面から捉えられるのか,また,そうした活動が学校適応とどのような関係にあるのかという問題は明らかにされていない。そこで,本発表ではデータも交えながらこの問題について考えていきたい。
また,学校適応に影響を与える学校外の活動が示されれば,子どもをどのようにして有益な活動にコミットさせるべきかが問題になる。国外では子どもを積極的に構成的な活動に参加させようとする親の存在も指摘されているが(Lareau,2003),どのような参加の在り方が子どもにとって望ましいのかについても議論できればと考えている。
学校内・学校外の重要な他者との関係から捉える児童・青年の学校適応
中井大介(愛知教育大学)
児童・青年の学校適応を理解する際に,一つの重要な視点となり得るのが「対人関係」である。従来の研究でも,児童・青年にとって「援助資源」としての「重要な他者」の存在がストレスの緩衝となり,児童・青年の学校適応に影響を及ぼすことが指摘されている(酒井・菅原・眞榮城・菅原・北村,2002)。
中でも,学校空間の中で直接的に児童・青年の学校適応に影響を及ぼすと考えられるのが,友人関係,教師関係といった学校内の対人関係である。従来の研究でも,友人関係や教師関係といった学校内の対人関係が児童・青年の学校適応に影響を及ぼすことが指摘されている(中井・庄司,2008;中井,2012)。
一方で,友人関係,教師関係といった学校内の対人関係だけでなく,学校外の対人関係も児童・青年の学校適応を規定する可能性が指摘されている。例えば,中井(2013)は中学生の母親・父親に対する信頼感が学校適応感に影響を及ぼすことを明らかにしている。
この指摘を踏まえると,児童・青年の学校適応を捉える際,学校内の要因に加え学校外の要因も検討する必要があると考えられる。つまり児童・青年にとって家庭・地域・社会での対人関係は相互作用的な関係にあり,各空間での重要な他者との関係がその他の空間での適応にも影響を及ぼす可能性が推察される。
そのため,児童・青年の学校適応を考える際は学校に加え家庭・地域・社会も含めて援助資源としての重要な他者との関係を包括的に捉えるといった,ミクロからメゾ,マクロへの視点の転換も考慮する必要があると考えられる。本発表では,この観点から「チーム援助」や「アンカーポイント」の概念を取り上げ,この視点の転換に伴って生じる課題などについても検討したい。
地域ボランティアが学校や地域を変える
大久保智生(香川大学)
近年,学校の荒れや学級崩壊などの問題行動の継続化が大きな社会問題となってきている。加藤・大久保(2004, 2009)が指摘しているように,学校が荒れた際には教師が指導のあり方を見直すことが必要である(大久保, 2009)。しかし,教師は日々の様々な問題に対処し続けていく中で疲弊していることからも,地域の教育力を活用することも視野に入れる必要がある。このような地域の教育力を活かす事業の1つとして学校支援地域本部事業が挙げられる。
学校支援地域本部事業とは,平成20年より始まった文部科学省の委託事業であり,学校が必要とする活動について地域住民をボランティアとして派遣する事業で,そのためにコーディネーターを中心とする組織を整備するものである。いわば地域に学校の応援団を作る試みであり,従来の学校支援ボランティア活動を発展させた組織的なもので,より効果的に学校支援を行うために設置されるものである(時岡・大久保・平田・福圓・江村, 2011)。
最近では,学校支援地域本部事業についての研究(例えば,岩崎・松永, 2011; 清國, 2011; 松永, 2010; 本迫, 2009; 中川・山崎・深尾, 2010; 荻野, 2010)が行われてきており,この事業によって学校と地域が活性化されることなどが明らかとなっている。しかし,荒れた学校において学校支援地域本部事業を行った場合,学校や地域がどのように変化していくのかについては明らかにされていない。学校の荒れの対策として,加藤・大久保(2009)は学校を地域住民の協力を得るために積極的に公開していくことを挙げているが,どのように地域に学校を公開していくのかについては言及していない。したがって,地域に学校を公開する事業として,学校支援地域本部事業を取り上げ,地域住民,特に地域ボランティアの学校への関わり方とその影響について多面的に検討していく。