The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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罪に問われた障害のある青年に対するネットワーク型支援システムの構築と予防的アプローチ

トラブルシューター活動における教育と司法の予防と更生支援アプローチを中心に

Sat. Nov 8, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 403 (4階)

[JD03] 罪に問われた障害のある青年に対するネットワーク型支援システムの構築と予防的アプローチ

トラブルシューター活動における教育と司法の予防と更生支援アプローチを中心に

堀江まゆみ1, 小倉正義2, 浦崎寛泰3, 及川博文4 (1.白梅学園大学, 2.鳴門教育大学, 3.PandA法律事務所, 4.NPO法人東京ソテリア)

Keywords:非行・触法, トラブルシューター, 予防・更生支援

はじめに
知的障害や発達障害のある人が,地域で暮らす中で地域社会との間でトラブルが生じたり,触法行為を犯し司法手続きに問われることは少なくない。これまでのトラブル・事件を通して繰り返し以下が指摘されてきている。①知的障害やアスペルガー症候群等の障害があるゆえに,トラブルに至った経過を十分理解されず,本人や家族が孤立し地域社会で一層暮らしにくくなること,②引きこもり等によりさらに教育や福祉の支援が届かず、発達支援や矯正の機会,家族支援サービス提供等が奪われること,③刑事・司法手続きで十分な理解がないまま悪質さが強調され,「求刑16年判決20年アスペルガー症候群事件問題」のように厳罰化の対応も生まれていること、④また,少年院や刑務所等の矯正施設では,知的障害・発達障害等の特性に合致した矯正プログラムも少なく,矯正効果が希薄なまま刑期を終え社会に復帰することになること,⑤地域社会でも触法障害者の支援が薄いため,地域社会内での支援体制や更生再犯防止アプローチが少なくさらに再犯リスクが高まる。
こうした悪循環の諸課題解決するために,本シンポの研究班では,知的障害・発達障害のある触法行為者の再犯防止支援に向け取り組み始めた。
第一に,地域でのトラブルを早期に解決し,障害特性に配慮した刑事手続きの支援や社会的受け皿準備等に寄与できる人材「トラブルシューター(TS)」養成を行い,地域および刑事手続きの「入り口支援」(主に、起訴前後)への活用を実践した。
TSとは,社会福祉をフィールドにして独自の専門性を発揮して,司法やメディアおよび支援体制を形成すべき地元の教育,福祉,医療などに携わる人々をコーディネートする新たな人材である。東京,大阪,徳島など全国で取り組みが始まった。
特に,東京エリアでは,起訴前の刑事手続きにおける「入口支援」の実践を9事例行い,司法と福祉・教育との連携,ネットワーク型支援の構築、更生支援計画の作成等の課題を明らかにした。これについて話題提供-1の浦崎が報告する。
支援対応の事例には知的障害・発達障害・精神障害の青年・成人が含まれている。知的障害・発達障害のある青年のトラブルと支援の課題に関しては話題提供-2の小倉が徳島エリアTSネットでの施設・保護観察所等の調査を通して報告する。精神障害の青年・成人のトラブル支援の課題に関しては、東京エリアで精神障害者福祉支援を実践してきている及川が報告する。
また第二の課題として、地域社会でのトラブル予防や更生支援のアプローチに関して話題提供-4の堀江が報告する。TSネットでは性犯罪加害再犯防止のために、イギリスで実践されている地域包括的治療支援システム「SOTSEC-ID」に取り組んでいる。本プログラムは地域の心理・教育・福祉の専門職チームによる継続的な支援体制に加え、認知行動療法、リスクマネジメント、リラプスプリベンション、グッドライブズモデル等の矯正プログラムから構成されている。昨年までにプログラム実施のための養成研修を45名の専門職が受講した。教育や予防的役割を考えたい。

話題提供-1
東京TSネットワークにおける刑事手続き入口支援と司法における課題 浦崎寛泰
東京エリア・トラブルシューター・ネットワーク(東京TSネット)は,障害により福祉的な支援が必要と思われる被疑者・被告人を支援するために,福祉専門職,弁護士,医師などが集まって立ち上げた任意団体である。個別ケースについて,刑事弁護人からの依頼に基づき,ネットワークの登録メンバーである福祉・教育の専門職を派遣し,被疑者・被告人や家族との面会,受け入れ先の調整,更生支援計画書の作成,情状証人としての出廷等の支援を行ってきた。2013年度は計9件のケース支援依頼があり,東京TSネットとして個別支援を行った。支援会議では支援依頼のあった個別ケースについて,できるだけ担当弁護人である弁護士に参加してもらい,事案について報告を受け,どのような支援が可能か,参加者で議論をした。被疑者・被告人や家族との面会など,具体的な支援が必要と判断すれば,ケースに応じて最もふさわしいと思われる支援員を派遣する。担当となった支援員は,担当弁護人と連絡を取りあって,本人や家族との面会,更生支援計画の作成,情状証人としての出廷など必要な支援を行った。 入口支援活動を通じては、①刑事事件になってからの連携では本人や家族の救済や更生に課題が多いこと、②加害事例であっても、多くが過去の発達期にいじめ体験や被害体験に会い、本人と家族が自尊感情の低下を引き起こしており教育での課題が多いにあること、③刑事事件の手続きで初めて,司法と教育・福祉・医療が連携する場合が多いが初動に時間がかかること、が課題であった。さらに教育機関を含めた早期の救済システムが必要であり、警察での保護など「平時」のネットワークづくりをどう進めるかを提起する。

話題提供-2
発達障害のある青年の社会的トラブル実態と教育における予防的アプローチ 小倉正義
発達障害や知的障害のある方が巻き込まれやすいと考えられるトラブルについて,自閉症スペクトラムの青年の事例を中心に報告する。①特にトラブルが生じる原因や教育歴、家庭や地域社会での関わりなどの環境因子等を分析しながら今後の課題について検討する。自閉症スペクトラムの青年の中には言語的な能力が高くても,うまくトラブル事態や経過について、警察や他者に適切に語ることができず誤解を招いたりトラブルに巻き込まれ、さらに誤解を受ける場合がある。このように障害特性をふまえて原因を考えることが発達障害や知的障害のある方のトラブルを減らし,具体的な対応を考える際に非常に役立つと思われる。②また報告では徳島で実施した施設の実態調査と支援ニーズ調査,保護観察所への聴き取り調査の結果を交えて、発達障害や知的障害のある青年が刑事事件に巻き込まれた際にどのような支援が必要なのか,再犯を予防するための介入を考える際にはどのような視点が必要なのかについて,教育現場や福祉現場からの事例を交えて議論する。

話題提供-3
触法の関わった精神障害者の地域支援、および精神障害者裁判事例とその後の更生支援アプローチ 及川博文
触法や地域でのトラブル事例には精神障害のある青年・成人が関わる場合が少なくない。本報告では精神障害のある青年や成人の触法事例を中心に報告する。報告者は東京エリアで精神障害者の地域支援を実践してきている。精神障害に関しては、福祉サービスの不十分さや社会的無理解のために地域で暮らすこと自体に困難さが多く、日々の実践においても多様な支援課題と向き合っている。本報告では、①まず東京での支援実践を通して、教育や福祉、地域社会で精神障害者が置かれている現状や課題について指摘する。特に、教育関係者が理解すべき支援課題について触れていく。②次に、東京TSネット活動で関わった精神障害者の裁判事例から支援や教育の課題を報告する。事例では刑事手続きの初期に弁護士からの依頼から対応が始まり、接見や関係機関との支援会議等を得て、裁判所へ更生支援のための計画書を提出した。重要となった視点を主に報告する。③これらを通して、罪に問われた、あるいは社会的トラブルに巻き込まれた精神障害の青年たちを福祉や教育が排除せず支援し続けるための体制や理解について議論したい。

話題提供-4
地域社会内における再犯防止のアプローチ-知的障害を抱えた性犯罪行為者への地域包括支援モデル(SOTSEC-IDモデル) 堀江まゆみ
触法行為に関わってしまった知的障害・発達障害のある人が、刑事手続きからダイバージョンしたあと、あるいは矯正施設から出て地域で暮らし続けるために、現在、社会内訓練事業や再犯防止のアプローチが実践され検討されてきている。日本国内において実施されている性暴力加害者処遇プログラムの多くはその内容が障害特性に十分配慮したものとなっていないこと、地域における性暴力加害行為に至った障害者への対応体制の整備が十分でないこと、という2つの問題がある。そこで本報告ではイギリスのSOTSEC-IDモデル(性犯罪加害再犯防止のための地域包括的プログラム)と今後の日本での実践について提起したい。
SOTSEC-IDの目的は、①知的障害のある性暴力加害行為者への処遇に携わる臨床家が直面する処遇、倫理的な課題について、討論・意見交換をするための場を提供すること、②SOTSEC-IDモデルについての適切な研修と情報提供を行うこと、③認知行動療法、リスクアセスメント、リラプスプリベンション、グッドライブズモデル等により構成されている。④知的障害のある性暴力加害行為者へのグループによる認知行動療法の効果性を検証するためのデータを収集すること、である。
現在、SOTSEC-IDの日本版実施マニュアルの検討を進めており、2014年度はモデル地区として2,3地区で実践する。モデル地区としては、①現在、地域の関係機関とのネットワークが基盤としてあること、②福祉的支援、および認知行動療法等の専門的スタッフが連携可能なこと、③性犯罪加害再犯防止のニーズのある本人が3~6人いること、などから選定し実施する。そのうえで本モデルの効果測定を行い、知的障害のある本人および発達障害のある本人に向けた障害特性に合わせたプログラムをさらに構築することをめざしていく。

本研究は2013年度「共生社会を創る愛の基金」の助成を受けて実施した。