[JE03] 媒介分析とマルチレベルSEMとメタ分析についてじっくり聞く
Keywords:媒介分析, マルチレベルSEM, メタ分析
企画の趣旨
荘島宏二郎
近年,教育心理学研究において,媒介分析とマルチレベルSEMとメタ分析の存在感は増してきている。本シンポジウムでは,これら3手法について,実践的な意味で熟練している3人の話題提供者が心理研究の実例に沿ってじっくりと解説する。
媒介分析は,独立変数(教育的介入,ストレッサーなど)から従属変数(教育効果,認知変数,行動変数など)の影響力を推論するときに,その効果を間接的に媒介する変数の存在を確認し,またその媒介変数の影響力の強さを検証する方法である。単に独立変数と従属変数の関係を調べるのではない,より精緻な知見を得ることができる。
マルチレベルSEMとは,構造方程式モデリング(SEM)の文脈において,マルチレベル分析を行うものである。マルチレベル分析は,全体の標本からランダム抽出することが難しいときに,まず,市町村をランダム抽出し,つぎに学校をランダム抽出するような多段抽出デザインに対応した分析手法である。学校や学級単位で分析することが多い教育心理学研究において,教育心理学徒が習得することの必要性が高い手法である。
また,メタ分析とは,複数の先行研究において,類似の実験や調査において結果がばらついていたり,異なる結果が得られているときに,総合的な結果を合理的に導く技術である。メタ分析は,先行研究をどう読むかというスキルにも関連するので,大学院生が習得すべき技術としても優先度が高くなりつつある。
媒介分析と調整媒介分析
野崎優樹
媒介分析とは,影響を与える変数(独立変数)と,影響を受ける変数(従属変数)との間を,他の変数(媒介変数)が介在しているモデルを検討する分析である (Baron & Kenny, 1986)。たとえば,教育的介入により,学習に対する動機づけが高まり,その結果として学業成績が高まるといったモデルを検証する時のように,独立変数と従属変数間の心理的なプロセスを検討するのに有効な方法であり,広く用いられている分析手法である。
さらに,媒介分析で想定していた,独立変数→媒介変数→従属変数というモデルからもう一歩踏み込み,独立変数→媒介変数,媒介変数→従属変数の関連の仕方が,第4の変数の高低により変わるモデルも考えることができる。さきほどの例を基にすると,元々の学力の高低に応じて,教育的介入が学習に対する動機づけに及ぼす効果や,動機づけの変化が学業成績に及ぼす影響が変わるかもしれず,結果として全体の媒介効果も元々の学力の高低に応じて変わる可能性も考えられる。このように媒介効果が第4の変数に応じて変わる可能性を検証する手法が調整媒介分析 (Preacher et al., 2007) であり,近年,徐々に適用例が増えてきている分析手法である。
本発表では,大学入試期間に,回避的なストレス対処が,接近的なストレス対処や他者の助けを借りるストレス対処を促す形で,間接的に情動知能の成長感の高さに貢献する可能性を検討した研究(野崎・子安, 2013)を例に挙げ,媒介分析・調整媒介分析の実践例や関連する問題について議論したい。
教育心理学におけるマルチレベルSEMの適用
浅野良輔
教育心理学や社会心理学,産業・組織心理学の研究者は,個人―集団という階層データを扱わなければ,自らの問題意識や仮説を検証できない事態に直面する。例えば,「学級規範が生徒の成績に与える影響」について知りたい場合,A組の学級規範を測定するために,1人の生徒に対して調査や面接を行っただけでは不十分であり,A組に所属する生徒全員からデータを収集したほうがよいことは直感的に理解できる。学級規範は,個人1人ひとりの心のなかに内包された概念(個人レベルの現象)というより,学級全体に共有された概念(学級レベルの現象)と考えられるからである。
しかし,階層データに対して,分散分析や重回帰分析といった一般的な解析法を行うと,学級レベルの現象について過大な結論を導きかねない。複数の個人が同一の集団に所属することで互いに類似性が生じる階層データは,サンプルの独立性仮定に違反しているため,第1種の誤りを犯しやすいことが知られている。このように,理論的関心に基づいて収集されたはずの階層データそのものが,逆に研究者を悩ませてきたのである。
それでは,学級レベルの現象を検討したいという理論的関心と,サンプルの独立性仮定から逸脱しているという方法論的問題のジレンマは,どうすれば同時に解決されるのか。そのための手法が,マルチレベルSEMである。階層データの分析法といえば,階層線形モデルによる分析を真っ先に思い浮かべる方が多いと思われるが,近年,マルチレベルSEMを用いた研究もどんどん増えてきている。その理由としては,(a) マルチレベルSEMの発案者であるMuth?n夫妻が作成したSEM専用ソフトウェアMplusの性能が,以前よりも格段にアップしていることもあるが,それ以上に,(b) ある種のモデルや階層データに対して,マルチレベルSEMのほうが階層線形モデルよりもフィットしていたり優れていたりすることが挙げられる。
本発表ではまず,マルチレベルSEMの概要とともに,教育心理学研究におけるその意義や発展可能性について検討する。その上で,マルチレベルSEMを使った研究の手順を具体的に解説しながら,データを収集したり分析結果を解釈したりする際の注意点についても議論したい。
研究レビューの方法としてのメタ分析
岡田 涼
心理学研究において,同一テーマに関して研究間で結果が一致しないことは多い。変数Xと変数Yについて,ある研究では「関連あり」とされる一方で,別の研究では「関連なし」とされることがある。特に,統計的仮説検定のみから結果を解釈しようとした場合には,こういった知見の不一致による混乱が生じやすいと思われる。
研究結果の不一致という問題に対して,大きな力を発揮する方法にメタ分析がある。メタ分析は,複数の研究結果を数量的な点から統合する方法であり,近年では研究レビューの代表的な方法になりつつある。メタ分析においては,統計的仮説検定の結果よりも効果量に注目することが多い。また,個々の研究結果をサンプリングの結果として考え,複数の研究結果を統合して母集団レベルでの変数間の関連を明らかにしようとする。
欧米では,様々な心理学の分野において,メタ分析が広く用いられるようになっており,Psychological Bulletin等の主要なレビュー論文誌においても,多くのメタ分析研究が発表されている。また,一般向けの心理学の教科書についても,メタ分析の結果をもとに記述されることが多くなってきているという指摘もある(Hunter & Schmidt, 2000)。日本では,現時点でメタ分析を用いた論文の数は必ずしも多くないものの,近年いくつかの報告がなされるようになってきている。
メタ分析の役割は,研究知見を系統的にレビューし,結果を数量的に統合するところにある。一方で,効果量を重視する点や個々の研究をサンプルとして考えるという点で,研究に対する見方や捉え方を転換させるという役割も有している。Cumming(2012)は,研究結果に対する考え方として,二分法的思考,推定的思考,メタ分析的思考の3つを区分し,複数の研究知見をメタ分析的な視点から捉えることの重要性を指摘している。
本発表では,いくつかのメタ分析の実践例を紹介する。メタ分析の歴史や統計分析の詳細については,既存の良書(南風原, 1990; 山田・井上, 2012)を参照していただくとして,ここでは1ユーザーとして試行錯誤的にメタ分析に取り組んだ事例を紹介する。その過程をたどりながら,メタ分析的な視点での研究の捉え方について考えたい。
荘島宏二郎
近年,教育心理学研究において,媒介分析とマルチレベルSEMとメタ分析の存在感は増してきている。本シンポジウムでは,これら3手法について,実践的な意味で熟練している3人の話題提供者が心理研究の実例に沿ってじっくりと解説する。
媒介分析は,独立変数(教育的介入,ストレッサーなど)から従属変数(教育効果,認知変数,行動変数など)の影響力を推論するときに,その効果を間接的に媒介する変数の存在を確認し,またその媒介変数の影響力の強さを検証する方法である。単に独立変数と従属変数の関係を調べるのではない,より精緻な知見を得ることができる。
マルチレベルSEMとは,構造方程式モデリング(SEM)の文脈において,マルチレベル分析を行うものである。マルチレベル分析は,全体の標本からランダム抽出することが難しいときに,まず,市町村をランダム抽出し,つぎに学校をランダム抽出するような多段抽出デザインに対応した分析手法である。学校や学級単位で分析することが多い教育心理学研究において,教育心理学徒が習得することの必要性が高い手法である。
また,メタ分析とは,複数の先行研究において,類似の実験や調査において結果がばらついていたり,異なる結果が得られているときに,総合的な結果を合理的に導く技術である。メタ分析は,先行研究をどう読むかというスキルにも関連するので,大学院生が習得すべき技術としても優先度が高くなりつつある。
媒介分析と調整媒介分析
野崎優樹
媒介分析とは,影響を与える変数(独立変数)と,影響を受ける変数(従属変数)との間を,他の変数(媒介変数)が介在しているモデルを検討する分析である (Baron & Kenny, 1986)。たとえば,教育的介入により,学習に対する動機づけが高まり,その結果として学業成績が高まるといったモデルを検証する時のように,独立変数と従属変数間の心理的なプロセスを検討するのに有効な方法であり,広く用いられている分析手法である。
さらに,媒介分析で想定していた,独立変数→媒介変数→従属変数というモデルからもう一歩踏み込み,独立変数→媒介変数,媒介変数→従属変数の関連の仕方が,第4の変数の高低により変わるモデルも考えることができる。さきほどの例を基にすると,元々の学力の高低に応じて,教育的介入が学習に対する動機づけに及ぼす効果や,動機づけの変化が学業成績に及ぼす影響が変わるかもしれず,結果として全体の媒介効果も元々の学力の高低に応じて変わる可能性も考えられる。このように媒介効果が第4の変数に応じて変わる可能性を検証する手法が調整媒介分析 (Preacher et al., 2007) であり,近年,徐々に適用例が増えてきている分析手法である。
本発表では,大学入試期間に,回避的なストレス対処が,接近的なストレス対処や他者の助けを借りるストレス対処を促す形で,間接的に情動知能の成長感の高さに貢献する可能性を検討した研究(野崎・子安, 2013)を例に挙げ,媒介分析・調整媒介分析の実践例や関連する問題について議論したい。
教育心理学におけるマルチレベルSEMの適用
浅野良輔
教育心理学や社会心理学,産業・組織心理学の研究者は,個人―集団という階層データを扱わなければ,自らの問題意識や仮説を検証できない事態に直面する。例えば,「学級規範が生徒の成績に与える影響」について知りたい場合,A組の学級規範を測定するために,1人の生徒に対して調査や面接を行っただけでは不十分であり,A組に所属する生徒全員からデータを収集したほうがよいことは直感的に理解できる。学級規範は,個人1人ひとりの心のなかに内包された概念(個人レベルの現象)というより,学級全体に共有された概念(学級レベルの現象)と考えられるからである。
しかし,階層データに対して,分散分析や重回帰分析といった一般的な解析法を行うと,学級レベルの現象について過大な結論を導きかねない。複数の個人が同一の集団に所属することで互いに類似性が生じる階層データは,サンプルの独立性仮定に違反しているため,第1種の誤りを犯しやすいことが知られている。このように,理論的関心に基づいて収集されたはずの階層データそのものが,逆に研究者を悩ませてきたのである。
それでは,学級レベルの現象を検討したいという理論的関心と,サンプルの独立性仮定から逸脱しているという方法論的問題のジレンマは,どうすれば同時に解決されるのか。そのための手法が,マルチレベルSEMである。階層データの分析法といえば,階層線形モデルによる分析を真っ先に思い浮かべる方が多いと思われるが,近年,マルチレベルSEMを用いた研究もどんどん増えてきている。その理由としては,(a) マルチレベルSEMの発案者であるMuth?n夫妻が作成したSEM専用ソフトウェアMplusの性能が,以前よりも格段にアップしていることもあるが,それ以上に,(b) ある種のモデルや階層データに対して,マルチレベルSEMのほうが階層線形モデルよりもフィットしていたり優れていたりすることが挙げられる。
本発表ではまず,マルチレベルSEMの概要とともに,教育心理学研究におけるその意義や発展可能性について検討する。その上で,マルチレベルSEMを使った研究の手順を具体的に解説しながら,データを収集したり分析結果を解釈したりする際の注意点についても議論したい。
研究レビューの方法としてのメタ分析
岡田 涼
心理学研究において,同一テーマに関して研究間で結果が一致しないことは多い。変数Xと変数Yについて,ある研究では「関連あり」とされる一方で,別の研究では「関連なし」とされることがある。特に,統計的仮説検定のみから結果を解釈しようとした場合には,こういった知見の不一致による混乱が生じやすいと思われる。
研究結果の不一致という問題に対して,大きな力を発揮する方法にメタ分析がある。メタ分析は,複数の研究結果を数量的な点から統合する方法であり,近年では研究レビューの代表的な方法になりつつある。メタ分析においては,統計的仮説検定の結果よりも効果量に注目することが多い。また,個々の研究結果をサンプリングの結果として考え,複数の研究結果を統合して母集団レベルでの変数間の関連を明らかにしようとする。
欧米では,様々な心理学の分野において,メタ分析が広く用いられるようになっており,Psychological Bulletin等の主要なレビュー論文誌においても,多くのメタ分析研究が発表されている。また,一般向けの心理学の教科書についても,メタ分析の結果をもとに記述されることが多くなってきているという指摘もある(Hunter & Schmidt, 2000)。日本では,現時点でメタ分析を用いた論文の数は必ずしも多くないものの,近年いくつかの報告がなされるようになってきている。
メタ分析の役割は,研究知見を系統的にレビューし,結果を数量的に統合するところにある。一方で,効果量を重視する点や個々の研究をサンプルとして考えるという点で,研究に対する見方や捉え方を転換させるという役割も有している。Cumming(2012)は,研究結果に対する考え方として,二分法的思考,推定的思考,メタ分析的思考の3つを区分し,複数の研究知見をメタ分析的な視点から捉えることの重要性を指摘している。
本発表では,いくつかのメタ分析の実践例を紹介する。メタ分析の歴史や統計分析の詳細については,既存の良書(南風原, 1990; 山田・井上, 2012)を参照していただくとして,ここでは1ユーザーとして試行錯誤的にメタ分析に取り組んだ事例を紹介する。その過程をたどりながら,メタ分析的な視点での研究の捉え方について考えたい。