The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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学校教育における読解力と幼児教育のインターラクション

読解力を育む「学びのしかけ」とは

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 402 (4階)

[JF03] 学校教育における読解力と幼児教育のインターラクション

読解力を育む「学びのしかけ」とは

伊藤順子1, 湯澤美紀2, 滝口圭子3, 倉盛美穂子4, 山崎晃5, 岩立志津夫6 (1.宮城教育大学, 2.ノートルダム清心女子大学, 3.金沢大学, 4.鈴峯女子短期大学, 5.明治学院大学, 6.日本女子大学)

Keywords:読解力, 学び, 幼小接続

[企画趣旨]
近年,就学前教育機関での教育・保育はいかにあるべきか(OECD, 2012),そして,それをどのように小学校につなげるかという「幼小接続」が検討されている。こうした議論の背景には「小1プロブレム」があり,この問題を解決するために,全国で実践研究が活発になってきている。しかしながら,必ずしも期待した成果はあがっていない(無藤, 2012)。その要因の1つとして,各教育機関,研究分野で研究方法や分析法が異なる傾向にあり,実践者と研究者の互恵的な研究成果共有が難しいという点がある。
こうした課題を踏まえ,昨年度は,児童期以降の「読解力」と幼児教育の質との関連について,読むことに対しての動機づけ生成プロセスに視点をあて意見交換を行った。その中で,幼児教育と学校教育のギャップが指摘され,「音声言語」中心の幼児教育vs「書記言語」中心の学校教育,「発達支援」の幼児教育vs「学習指導」の学校教育という現状に対して,保育・教育現場での実際の子どもの姿から,学びの視点や動機づけを読み取り,発達の連続性を踏まえた「学びのしかけ」を再考する重要性が示唆された。
そこで,本シンポジウムでは,発達と学習を切り離すことなく,社会的な活動としてとらえるという本総会のテーマを踏まえ,読解力を育む「学びのしかけ」について考えていきたい。これまで,「読解力」に関して認知的側面を中心に基礎研究が積み重ねられているが,研究成果をいかに実践にいかしていくことができるかといった点については,さほど丁寧に議論されてこなかったように思われる。本シンポジウムでは,子どもと共に「読解力」の学びの場を創りあげるために,心理学研究から何が提言できるか,領域横断的に話題提供いただく。読解力を育む「学びのしかけ」についての議論から,「幼小接続」への新たな視点を提言できれば幸いである。

現場から読解を読み解く
:幼児教育という現場,小学校教育という現場
滝口 圭子(金沢大学)
全国の保育,教育現場及び関連研究機関において,有効な幼小接続を目指す理論整理及び実践の提案が続けられている。概して,保育所・幼稚園から小学校へという環境移行の支援に際しては,主に生活科を中心として,先駆的且つ教科横断的な実践の蓄積がなされつつある。そうした現状の中,本シンポジウムの話題提供では,読解という特定の認知活動に焦点を当て,幼児教育の場と小学校教育の場におけるその意味を問いたいと考えている。
具体的には,幼児教育の場における読み聞かせ実践と,小学校教育の場における国語教育実践に焦点を当て,幼児教育と小学校教育のそれぞれの場おいて,読解がどのようにとらえられ,また実践においてどのように位置づけられているのかを整理したい。2つの現場での読解を取り巻く実践を整理し,比較するという作業を通して,「読解力」を育む学びのしかけを考案していく際の基礎資料の提供を目指す。

研究の成果をいかに解釈すべきか
:ある実験の結果から絵本を取り囲む環境構成への示唆
湯澤 美紀(ノートルダム清心女子大学)
これまで,幼児を対象とした研究は様々な心理学的知見を積み上げてきた。しかしながら,そこで得られた知見をいかに保育の場に活かしていくことができるかといったことについては,十分に議論されてこなかった。エビデンスにもとづいた,子どもの育ちにとってふさわしい保育環境とは何か?本シンポジウムでは,特に読解力に焦点をあてながら,幼児の絵本の理解に関する実験結果をもとに,保育の中の「学びのしかけ」のありかたについて考えていく。
具体的には,実験課題を用いて,幼児の絵本についての物語理解を,ワーキングメモリの観点から明らかにした。結果,絵本の理解課題に関しては,視空間性ワーキングメモリが関与していた。しかし,子どもが絵本を物語る課題を用いた場合には,言語性ワーキングメモリの関与が示された。これらの結果を「学びのしかけ」として活かしていくためには,単純に結果と活動を結びつけるのではなく,子どもにとっての絵本の本来的な意味を問い,幼児期の子どもの発達にふさわしい言語環境を再考する必要がある。一つの心理学実験の成果を保育の文脈の中で解釈していきたい。

読解力の基礎となる力とは?
:保育者・教員養成に関する知見をもとに
倉盛 美穂子(鈴峯女子短期大学)
読解力育成に本や絵本が教材となることが多い。幼児教育の特質が,生活や遊びの中で様々な物事を理解する,いわば総合学習である事を考えると,幼児期に読み書きを先取りすることは重要ではない。読解とは提示された内容を通じて物事を理解し考える活動であるため,幼児期の学びの特質である遊びを教材としながら,提示された情報を理解する力を育むことが学校教育における読解力の土台作りとなると思われる。
保育者には,「保育課程・保育内容への理解」「指導法の修得」「子ども理解の深化」が求められており,特に,子ども達にとって様々なことを学ぶ教材である遊びを教材として活用できるスキルが醸成されていることが必要である。保育者は,5領域(健康・言葉・環境・人間関係・表現)を総合的に組み込んだ遊びを展開しているが,学校教育時期の読解力の基礎となる遊びは何なのか,現在明確な答えはでていない。そこで本話題提供は,保育者・教員の専門性や保育者・教員養成に関する知見をベースに,幼児期に育てたい読解力の基礎とは何かを考えたい。