The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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子どもたち自身による,ネット・スマホ問題対策の可能性と評価について

関西スマートフォン・サミット

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 401 (4階)

[JG02] 子どもたち自身による,ネット・スマホ問題対策の可能性と評価について

関西スマートフォン・サミット

竹内和雄1, 戸田有一2, 太田はるよ3, 若畑将彦4, 柳田竜一5, 本田英理6, 宮田里枝7, 柚木さおり8 (1.兵庫県立大学, 2.大阪教育大学, 3.猪名川町, 4.県立姫路別所高校, 5.神戸市教育委員会, 6.兵庫県警察, 7.和歌山県教育委員会, 8.大阪府青少年課)

Keywords:スマートフォン, ネット問題, 評価

企画趣旨 「ネット炎上」「スマホ依存」「LINEでのケンカ」などの言葉が,昨今,頻繁にメディアに登場する。スマートフォン所持率は高校生82.8%,中学生47.4%,小学生13.6%(総務省, 2014)で,急速な普及ゆえに,学校現場での対応は泥縄の状況である。
これまでの携帯電話問題対策は,基本的にはフィルタリングの設定を呼びかけることが中心であったが,スマートフォンの普及に伴い,フィルタリングの設定率が急激に下がり,さらに,フィルタリングが効かない音楽プレーヤー等からの接続も増えたため,新しい対応策が求められている。
ネットいじめ対策も含め,各地で主に大人主体の取り組みがなされているが,スマートフォンの使い方には子どもたちの方が熟達しており,対策の知恵ももっている。そこで,子どもたちの出番である。今回は,関西各地で子どもたち自身によるスマートフォン対策を支援している発表者が集まる。いずれも実践の構築と模索が先行し,学術的に充分なレベルの評価は今後の課題である。
本シンポジウムでは,まず取り組みの詳細を出し合い,実践のモデルと志向性を確認する。そのうえでフロアーと共に今後の方向性について活発な議論を展開したい。特に,各実践に適合した評価方法を検討し,発表者と評価をする研究者のコーディネートまでできればと期待している。

兵庫県の中高生のスマートフォン対策
「猪名川スマホサミット」 太田 はるよ
猪名川町では,平成25年から中高校生自身がスマートフォンの使い方を考える取り組みを町全体で支援している。平成25年10月に町の高校生が話し合って,「スマホを使っている人は,長く使っていて睡眠不足」「知らない人との出会いは危険」などの問題意識のもと,12月に町内すべての中高等学校(計1358人)でアンケートを実施した。
平成26年1月,アンケート結果をもとに「猪名川スマホサミット」を開催し,町長,教育長,総務省等,大人が見守る中,自分たちのスマホ使用について話し合い,ルールを考えた。好評だが,具体的な成果がわからないことがネックになっており,評価方法について議論したい。
「姫路市の高校生徒会の取り組み」若畑 将彦
兵庫県姫路市での取り組みを紹介する。
姫路飾西高校生徒会が平成25年7月に姫路・福崎地区の23高校1987人対象に自作のアンケート調査を行った。危険な出会い,スマホ依存等の課題が明らかになったので,平成26年度も継続して子どもたち自身の問題意識での調査を行う。
姫路別所高校生徒会は,平成25年度に高校生がスマートフォン問題に対する啓発ビデオを自作し,全校生徒で学び,平成26年度は「スマートフォン使用ガイドライン作成」に取り組んでいる。その一方で,高校生たちは,同じ敷地内で学ぶ姫路特別支援学校分教室の生徒と共に学ぶ機会を持ったり,近隣の小中学生への啓発活動に取り組んだりしたいと考えるようになってきている。
スマートフォンの問題は教師からは見えにくいので,生徒たち自身で対策を考えて学ぶ効果を実感している。成果指標がほしいところだが,特に教える側に回ったときの効果について知りたい。

神戸市立全小学校でのスマートフォン対策
「神戸市,全小学校での取り組み」柳田 竜一
昨年度あたりから小学生の携帯電話やスマートフォンの所持が急増している。それに伴い,ネット上やソーシャルメディア上でのトラブルやいじめ,人権侵害も増えてきている。そこで,神戸市では「ネットいじめ防止プログラム」を策定した。その内容は,小学校高学年への「インターネット安全教室」の実施,保護者・教職員向けの「ネットいじめ防止啓発研修」の実施,「ネットいじめ防止教材・指導事例集」の作成である。「インターネット安全教室」では,前半に兵庫県立大学の大学生等が講師を務め,実際に起こっている事例を基に出前授業を行う。後半は各学級担任が,子どもたち自身で,スマートフォン等と上手に付き合うためのルール等について考えさせる授業を行う。
各学校での取組は好評であるが,2つの課題が見えてきている。1つ目は問題のさらなる低年齢化。当初は啓発対象を中学入学前の小6と考えていたが,実際授業を行うと小4・5も授業に参加したいとの要望が多い。対応を考えたい。2つ目は問題の変化の速さ。教材を常に最新の状況に合わせて迅速に配布する工夫が必要である。大学や関係機関,民間企業等との連携が必須である。

「サイバー犯罪対策課の支援」 本田 英理
兵庫県警察ではサイバー犯罪対策課を設置し,サイバー犯罪の取締や被害防止等を目的とした広報啓発活動を行っている。その一環として,神戸市のスマートフォン対策の授業には,警察官が同行し,小学生の前で話をしている。
子どもたちがスマートフォン等で困ったときに一人で悩むことがないように,相談先の一つとして,兵庫県警察サイバー犯罪対策課を知ってもらうことから始めている。

和歌山県中学生サミットの取り組み 宮田 里枝
和歌山県は,平成24年度から3年計画で「いじめ対策総合推進事業」を行っており,「児童会・生徒会活動の活性化」「ピア・サポート活動の推進」に取り組んでいる。
平成25年度から,県全域の中学生を集めて「和歌山県中学生サミット」を開催し,いじめ等,自分たちの問題に自分たちで対応方法を考えるきっかけを提供している。平成25年度の話し合いのテーマは「ケータイ・ネットいじめ」で,最終的に,「スマートフォンをプラスに使うための三ヶ条」にまとめ共有した。「書き込む前に深呼吸」「ケータイに恋しない」など,中学生らしい言葉が数多くみられ,各校の取り組みにつなげた。参加者からは「話し合いって,こんなに楽しいんだと思えるようになった」「自分の意見をみんなに伝えるのがとくいになった」「最初は緊張したけれど,自分の意見を言っていくことによって打ち解けることができた」等の感想が集まっている。また,平成25年度は,参加者への効果測定のために12項目からなる「生徒会活動への意欲等アンケート」を実施した。「話し合い」「学級会」「所属意識」の3項目で実施前後に有意な差があり,実施後に高くなっていた。県下の中学校の生徒会執行部が集まって自分たちの問題を話し合うことで,参加者自身の意欲等が高まることがある程度わかってきた。
今後は,この取り組みを県下の中学生全体に波及させることが課題であり,それに伴う評価のあり方を考えていきたい。

大阪府のスマートフォン対策 柚木さおり
大阪府では教育委員会が事務局を務める「大阪の子どもを守るサイバーネットワーク」を構築する等,多様な取組みをしてきた。各市町村でも携帯電話使用等の啓発活動を行ったり,市単位の生徒会で話し合ったりしてきた。
さらに,平成26年度からは,文部科学省の委託を受けて,フィルタリングの更なる普及啓発と青少年のネット・リテラシー向上のため,「大阪の子どもを守るネット対策事業」に取り組んでいる。
大阪府政策企画部青少年地域安全室青少年課が事務局となり,行政(総務省近畿通信局,大阪府消費生活センター),各教育委員会,大阪府警察,各PTA,メディア関連団体(携帯電話事業者等),多くの大人が関わって子どもたちのネット使用について多角的に議論し,対策を講じている。
その一環で,平成26年12月に,大阪の子どもたち自身がスマートフォンについて考える「大阪スマホサミット」を開催する。そのために,①子どもたち自身で自分たちのスマートフォン使用について考える,②スマートフォン使用についての使用ガイドラインを自分たちで作成する,③話し合い,活動成果を発表する,という3段階を想定している。子どもたちだけの力では難しい面もあるので,必要に応じて,大人が手助けすることになっているが,どのあたりまでの大人の介入が必要かについて検討しているところである。

指定討論 各実践は各発表者を中心に教育委員会や警察等の専門家と竹内先生が子どもたちを支援し,画一的なトップダウンではなく,子どもたちと話し合いながらボトムアップで展開するインタースクール実践(Kanetsuna & Toda, in print: ISPと略す)である。同じISPであっても校種間に年齢差のあるタテのISPと,同じ校種が集まるヨコのISPがある。各実践の校種とISPの種類とその特徴は,以下のようになるだろう。

校種 ISP 実践の特徴
猪名川町 中高 タテ 中高生が小学生に
姫路市 高 ヨコ 特支・小中等タテもあり
神戸市 大小 タテ プログラム+プロジェクト
和歌山県 中 ヨコ 生徒会から全中学生に
大阪府 中高 ヨコ 社会教育団体が全体に

これらは,英国のシェフィールド・プロジェクトなどと同様のプロジェクト指向の実践(戸田, 2013)であるが,オーストリアのヴィスク同様,プログラムとプロジェクトを組み合わせた実践もある。すでに実践がスタートしている場合も,今後実践が拡大する可能性がある場合もあり,評価は難しい。誰の何を評価すべきなのかも異なるが,実践ごとの評価と,多くの実践を同時に評価する相互対照群モデルによる評価(戸田・宮前, 2009)の両方の実施が望ましい。このような実践に関心があり評価研究に取り組んでくださる方々の協力をいただき,総合的な評価をコーディネートできたらと願っている。

【本シンポジウムは科学研究費補助金基盤研究(C)「スマートフォンを入口とするネットトラブルの3カ国比較と体験型予防プログラム開発」(課題番号26381280・研究代表者 竹内和雄)による研究活動の一環です】