The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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青年期の食

写真法から見える日常

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 401 (4階)

[JH02] 青年期の食

写真法から見える日常

外山紀子1, 長谷川智子2, 中島伸子3, 佐藤康一郎4, 岡田努5, 今田純雄6 (1.早稲田大学, 2.大正大学, 3.新潟大学, 4.専修大学, 5.金沢大学, 6.広島修道大学)

Keywords:食, 青年期, 写真法

【企画趣旨】

昼休みともなれば,学食には長蛇の列ができる。学生たちは定食から単品の麺類まで,さまざまなものを食べている。学食の喧騒を避け,買ってきた弁当を教室や中庭のベンチで広げる者もいる。興味に任せて何を食べているかとのぞいてみたら……肉まん,メロンパン,カップラーメン,栄養補助食品,蒸しパン,チョコレート菓子……「こんなもの,食べてるの?」と驚いた経験はないだろうか。いったい若者たちはいつ,何を,どのように食べているのだろう。
「私たちは食べたものでできている(You are what you eat)」ということばがあるように,食は私たちそのものである。私たちの身体だけでなく,私たちの精神もまた食からつくられている。食にはその人そのもの,その人の歴史,その人の家族,その人が置かれた状況など,ありとあらゆるものが詰め込まれている。食育基本法が制定されて以降,食育の重要性が叫ばれているが,食が大事だからといって食にだけ対処してもうまくいかないのは,その故である。
本シンポジウムでは,数日間,食べたものを全て写真に撮ってもらうという方法(写真法)から得られたデータを紹介する。写真から見えてくるものは,偏った栄養,間違ったダイエット,食の簡便化といった問題だけでなく,人間関係のありかた,家族の状況,文化的な伝承の強さ,社会的格差など多岐にわたる。食という窓から通して見える,現代日本の若者のリアルな日常に迫りたい。

【話題提供1】
今の自分と家族をつなぐ食
外山紀子(早稲田大学 人間科学学術院)

都内私立大学2校に在籍する大学生36名(男女約半々,一人暮らしと実家暮らし約半々)を対象として,連続する5日間,食べたものすべてを写真に記録してもらった。撮影時には,時刻・共食者・体調・気分・満足度などを記録してもらい(食事記録),撮影終了後には,子ども時代と現在の食状況を問う質問紙に回答を求めた。
結果は,以下の6点にまとめられる。(1)一人暮らしでも,実家暮らしでも,欠食回数に大きな相違はなかった。欠食理由には,「食欲がなかった」という身体的コンディションによるものから,「作っている時間がなかった」「食べるものがなかった」など生活状況によるもの,「夕飯に備えて食べることを控えた」「ダイエット」など意図的なものまであった。(2)食器を使わない食事(鍋やパックから直接に食べる)が増えているという指摘もあるが,本調査では,食器の代用品の使用はさほど多くなかった。ただし,主食と汁物が揃わない食事,揃っていても「左側に主食・右側に汁物」という標準的な形をとらない配膳は,一人暮らしでも実家暮らしでも,同程度に認められた。(3)菓子パンやカップラーメンで済ませる簡便な食事は昼食に多かったが,5日間をトータルしてみると,個人差もあるが,栄養バランスは悪いとはいえなかった。(4)一人暮らしでも実家暮らしでも,ひとりで食べる食事は朝昼晩の食事すべてについて40%を超えた。共食者のいる食事のほうが,品目が多い傾向があった。(5)食事で重視するものとしては「栄養バランス」という回答が多く,一人暮らしの場合に特に多かった(「値段の安さ」も)。(6)子ども時代の食については,「手作りのものが多かった」という回答が大半を占めた。一人暮らしの学生は,「自分で食事をつくるときに,家族のことを思い出す」「家ではどうやって作っていたのか,どんな味だったのか,思い出しながら作っている」など,食が今の自分と家族をつなぐ機能をもっていることがうかがえた。

【話題提供2】
食から見える大学生のリアルな生活
佐藤康一郎(専修大学 経営学部)
2009年に本学に在籍する大学生20名(男/女各10名・自宅通学/自宅外通学各10名)を対象として,連続する7日間,口にしたものすべてを写真に記録した。撮影時には,記録をとってもらい(これによりWho・When・Where・Whatの4つのWを把握),後日,全員に1時間ほどのインタビューを実施し,食生活についての考えや調査時の状況(Why・How・How Much)について尋ねた。
20名というサンプルは小さいが,20しかないサンプルから特徴ある食生活が確認できた。その中から特徴的な事例をいくつか取り上げる。
結果として,①朝食の欠食率の高さ,②規則正しい食生活によって自己管理をしている学生の少なさ,③自宅生でも一家団欒の時間は減少していること,④ご飯とパン,ご飯と清涼飲料水といったユニークな組み合わせが多いこと,⑤食事メニューのバランスは気にしているが,行動が伴わないこと,⑥学年が上がるごとに生活の規則正しさがなくなることなどがわかった。
2014年6月に本年度の調査を実施したので,その成果も当日発表したい。
本学には,複数のコンビニエンスストアがあり,専修大学生のインフラストラクチャとなっていっている。1980年代後半以降の生まれの彼らは,コンビニエンスストアが急成長したころに生まれた「コンビニネイティブ世代」である。
したがって,コンビニエンスストアの惣菜類も幼少のころから接することができたし,おにぎりもおでんも思い出の味は母の味ばかりではない。実際,コンビニエンスストアのおにぎりやフライドチキンなどは写真にもよく登場する。
また,コンビニエンスストアを利用して昼食を安く抑える一方で,挽きたてのコーヒーをしばしば購入するし,コーヒーショップチェーンが販売していたフラペチーノ(610円+消費税)も購入する。アフリカの子どもたちに給食を食べさせたいということで「TABLE FOR TWO」 の活動にも関心を持ち参加している。
お金を持っているから食費をかける、あるいはお金を持っていないからかけない、ということはない。欲しければ買うし、欲しくなければ買わない。食べたければ食べるし、食べたくなければ食べない。これが彼らの行動様式である。

【話題提供3】
中学生と大学生の食卓状況からみえるもの
長谷川智子(大正大学 人間学部)

栄養学における写真法を用いた研究は,食事の画像から食事材料の種類と重量をより正確に推定して,精度の高い栄養分析を行うことを目的としたものが多い.しかしながら,写真法は,現代の食生活を映し出すさまざまな情報が入っており,多様な活用ができる.長谷川・武見・中西・田崎(2013)は,日常生活のなかでの食生活全体を分析する手法を考案した.本話題提供では,中学生20名,大学生20名を対象とした1週間のうちの非連続の3日間(内1日は休日)の食事の写真について,集団データの分析と個別事例(長谷川ら,2013)を中心に報告する.
集団データでは,食事の写真にみられる自宅の食卓状況を分析した.従来であれば食器を用いる状況において,ペーパーやラップ,調理器具や購入時のパックを代用していた者,あるいは食事としての料理の構成や料理と飲料のバランスが適切ではない(例:ご飯・刺身・イチゴオレなど)者は,そのような特徴がみられない食事をとっている者よりも,中学生,大学生ともに自宅においての中食(調理済み食品やテイクアウト食品)の摂食が多く,食の簡便化がみられていた.また,このような食の簡便化は,調理経験が未熟な者が料理の購入や食事の準備をしていることに起因しており,そのことが従来の日本型の食事を変化させているものと考えられる.
個別事例では,主に中学生に特徴的なケースがみられた.例えば,夜の11時過ぎに一人でコンビニ弁当を食べた男子は,「父母が不在で,コンビニ弁当を置いていってくれた」と述べていた.3日間の食事のうち朝食を2回欠食した女子は,全7食の食事のうち6食は1つの料理のみから構成されており,エネルギーを得るための食事としての精彩を欠いていた.その女子からみた母親の食事への態度は,「食事に対してあまり関心がない.きょうだいは自室で一人で食事することも多いが,そのことについても特に何も言わない」と語った.
当日は,さまざまな食事の写真を取り上げ,青年期の若者とその家族における「食事」の位置づけや家族のあり方についても議論していきたい.