The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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保育士・教員養成の現状と課題

教育実習生を受け入れる園・学校からの声

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 503 (5階)

[JH07] 保育士・教員養成の現状と課題

教育実習生を受け入れる園・学校からの声

石上浩美1, 矢野正2, 宮前桂子3, 山本淳子4, 澤田真弓5 (1.大手前大学, 2.城星学園小学校, 3.吹田市立豊津第二小学校, 4.大阪キリスト教短期大学, 5.兵庫大学)

Keywords:教育実習, 教員養成, 保育士養成

企画趣旨
 教育実習は,「学校現場での教育実践を通じて,学生自らが教職への適性や進路を考える貴重な機会」であるとともに,「課程認定大学と学校,教育委員会が共同して次世代の教員を育成する機会」である。また,小・中学校教員免許状を取得するためには,中・高等学校における実習以外に,介護等体験実習(社会福祉施設;5日間,特別支援学校;2日間,合計7日間)が義務づけられており,これらの単位を修得することが,教員免許状の授与条件となっている。
教育実習体験は,学生が実践現場を体験しながら,自分の教職適性や将来設計について考える機会でもあり,教員となるためには必要不可欠な体験である。しかしながら,養成校・大学教員の実習に対する認識と,実習生を受け入れる側の園・校の教員・保育士の実習に対する認識や指導方針は,必ずしも一致しているとは言えない。
そこで,本シンポジウムでは,1)保育士養成校教員による保育実習指導の課題,2)幼稚園教諭養成校教員による実習成績不振者に対する個別指導事例,3)小学校教頭による教育実習生に対する指導,の3つの話題提供の事例を基に,これからの保育士・教員養成のあるべき姿について,フロアを交えた議論から考えてみたい。

話題提供
保育実習生指導の課題―養成校と保育所から-
澤田 真弓
保育士資格取得のためには,保育所における実習と,その他の児童福祉施設における実習の両方を履修しなければならない。本発表では保育所実習に焦点を当て,養成校と受け入れ保育所,双方の立場から実習生指導の課題について考察したい。
 保育士養成は短期大学や専門学校が担うことも多く,2年制の場合,入学後約半年で最初の実習を経験することが少なくない。このために,養成校では入学直後から実習に向けた指導を行うことになる。必然的に短期間の指導になる上,受講する学生は保育に関する基礎知識を十分習得しているとは言いがたい。さらには,社会現場に参画するという実習そのものへの意識づけから行わなければないのが現状である。このような中では,学生に指導する内容の精選が求められよう。実習指導に限らず,養成校の全カリキュラムを包括的に検討し,教育内容を整理しながら,初めての実習までに最低限習得しておくべき知識や技術を明確にする必要がある。学生が実習を実りあるものとし,以後の学習に意欲的に取り組むためにも,実習前後の指導内容の精選が養成校に課せられた課題のひとつであると考える。一方、実習生を受け入れる保育所側は,10日前後の実習期間中に学生に経験してほしいことを見極める必要がある。現在,保育現場では職員の資質向上が大きな課題として挙げられている。また,ようやく資格を取得して保育現場に出ても,短期間で離職する職員がいることも事実である。実習生の中には「実習で子どもと関わり,癒されました」という短絡的な感想を持つ学生がいる。このような現状を踏まえつつ,実習の中で何を得てほしいのかを明確にして指導することが肝要であろう。保育内容を追究し,長く務め続ける職員を養成する意味においても,スタート地点に当たる保育所実習での体験が大きな意味を持つと考える。

〈練習実習〉による実習成績不振学生の個別指導の試み              山本 淳子
本学の幼稚園実習のシステムについて紹介したい。本学入学後4月から7月までの前期の幼稚園実習事前指導の授業では講義や演習と並行して,学内付属幼稚園において4回の観察実習(ミラー室よりの観察,うち1日は保育参加)が行われる。この時期は授業と観察実習を通して,実習に必要な子どもの発達理解,挨拶や提出期限の順守など社会人としての態度の育成,保育の記録の作成,保育用語の確認等,実習に必要な保育に関する知識や方法などを積み重ねながら育成している。このような準備を経て学外幼稚園に依頼し教育実習(1)(2)に参加する。9月の4日間の教育実習(1)では園の様子に慣れ保育者の仕事を把握,1月,3週間の教育実習(2)では,責任実習や部分実習指導に取り組む。教育実習(2)終了後,学外の実習先から返送された評価表の成績をもとに一人ひとりの個人面談を行い,事後指導につなげている。面談によって本人の自己評価を聞き取り,最終的に幼稚園教育実習の合否を決定するシステムである。評価については実習内容の観点別評価であり,本学の合格基準以上の評価を得ることを求めるが最終的に当該園の実習担当者所見や本人との面談結果によって合否を判定している。
しかしながら本人の一生を左右する幼稚園教諭免許状取得について,合否の判定は慎重になされなければならない。中には実習成績の不振から,不合格判定となる学生が存在する。しかし可能性を秘めた学生であるにも関わらず,実習において本人が力を発揮できなかった原因は様々に考えられる。このような状況を踏まえて,本学では教育実習成績不振学生について,付属の2幼稚園に協力を依頼し,本学独自の〈練習実習〉の設定をしている。〈練習実習〉では個々の実習課題を踏まえて担当教員が個別指導を行うことで,本人の実習における課題の克服,すなわち保育力の育成が最大の目的である。また複数の指導者の評価を資料とすることによって,教育実習の合否判定の最適正化を図るとともに,本人が進路選択について熟考する機会になることも願っている。本発表では〈練習実習〉に向き合った学生の事例を紹介する。事例を通して幼稚園教諭を志望する学生を保育者養成の立場からどのように導いていくべきかという点についてご意見をいただければ幸いである。

小学校における教育実習生の指導―学級崩壊を起こさない力量を身につける実習を目指してー                   
宮前 桂子
毎年,卒業生を中心として3名前後の教育実習生を受け入れている。小学校の教員を目指す学生は4週間,栄養教諭を目指す学生は1週間である。教頭である私は,実習生の対応の窓口になることが多いが,実習を依頼する電話をかけてきたにも関わらず,「『実習をしなさい』と大学に言われたから電話をしています」と言って黙ってしまう学生もあり,主体的に教育実習に取り組もうと思っているのかと心配になることがある。
 教育実習生を受け入れることは,多忙な現場の教員にとって「実習生の指導」という仕事が増えることを意味する。多忙な中でも子どもたちの成長に関わる教員という仕事を目指す学生のために,また,次世代の教員の育成のためにと教育実習生を受け入れているのが現状である。
 従来,実習生は授業を参観したり学級経営などについて話を聞いたりした後,自分で学習指導案を作成し,研究授業を行って実習期間を終えていた。このような実習を受けて,初任者として赴任してきた新任教員が,私の勤務校ではこの4年間で7人になる。そのうち2名は,1年目で学級崩壊をおこし,また1名は1学期で自己都合のため退職している。従来の,ややもすると受身な実習では,教壇にたつ力量が十分に育成できていないのではないかという反省のもと,実習生には授業をする前に子どもたちに「聞く・話す」の指導を行うことや生徒指導の実際を体験し,自分ならどう対応するのかを考えさせるように変更した。たとえば,子どもにとってけんかは日常茶飯事であるが,けんかにどう対処し,その保護者にどのように伝えたらいいのかを考えさせるといった指導も行っている。今の保護者は,初任者にも20年の経験をもつ教員にも同じ力量を求め,不十分だと思うと「苦情」という形で初任者の教員に跳ね返ってくる。保護者対応の力量も教壇に立ったその時から必要となる。教員としての力量の育成には,大学などの教員養成機関との連携が一層重要となってくる。生活科や総合の時間についての知識不足を始め,現場で重視されている「問題解決学習」や「伝え合いの授業」についても知らないまま,生徒指導力,学級経営力,コミュニケーション力に課題を抱えて現場に実習にやってくる学生を,限られた期間の中でどう指導するのかという試行錯誤が続いている。