The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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障害の重い子どもが取り組む学習とは(続)

その多面性について

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 405 (4階)

[JH09] 障害の重い子どもが取り組む学習とは(続)

その多面性について

土谷良巳1, 中村保和2, 菅井裕行3, 岡澤慎一4, 笹原未来5 (1.上越教育大学, 2.群馬大学, 3.宮城教育大学, 4.宇都宮大学, 5.福井大学)

Keywords:重度障害, 重複障害, 学習

<企画趣旨> 土谷良巳
昨年度に引き続き、この自主シンポジウムを企画した。その趣旨は前回とほぼ同様である。
このシンポジウムで対象とするのは重度の知的障害に加えて、他の重い障害を併せ有しており、child with profound and multiple disabilitiesと表記される子どもである。教育課程上は自立活動を主とする指導が取り組まれている。自立活動は障害による生活及び学習上の困難を克服・改善することを目指すが、障害の多様化、重複化がいっそう進む状況において、障害がきわめて重い子どもが取り組む学習について論じられることは乏しく、また実際に取り組まれている学習活動の実践についてはほとんど明らかとなっていない。
山梨県立盲学校での盲ろう教育を源流として、障害の重い子どもの学習が「初期学習とその教材開発」として取り組まれてきた系譜がある。しかし、それぞれの実践の場で蓄積された実践記録、教材は一部を除いて散逸してしまっている。その背景に近年における、著しい障害の重度化、重複化を見ることができる。
障害の重度化が進むなかで、学校教育の場では、医療的ケアにとどまらず、日常生活に関する様々な身辺処理活動に多くの時間が費やされている。また、多動あるいは他害、自傷など様々な行動上の困難への対処に追わる現実もある。さらに、自己決定、自己実現を目指す観点からコミュニケーション、とくに子どもの意思の表出に重点をおいた教育活動を重視した取り組みがなされるようになってきている。そのどれもが丁寧に進めようとすればするほど時間を要する教育活動であり、また優先されることから、学習活動に本格的に取り組む時間を確保することが難しくなっているのが現状である。このような状況において、障害の重い子どもの学習は、生活に関する諸活動を支えるスキルの学習が主流となっている。
では障害の重い子どもの学習は、スキル学習、いわば「I can」に特化した学習に尽きるのであろうか。また、超重症児に代表されるように、障害の重度化、重複化が著しくなってきている現代においては、これまで取り組まれてきた初期学習の概念を超えた新たな観点から学習活動を模索する必要があるではないだろうか。それはどのように位置づけられるものであろうか。
以上のような観点から、前回は以下の話題提供をもとに自主シンポジウムを実施した。
1)肢体不自由・知的障害を伴う盲ろう児との初期学習(菅井裕行):共同活動が成立し、共通するサインが形成され、探索活動が促進され、コミュニケーションの進展に伴って空間の整理と選択行動の明確化が見られるようになったなかで、学習導入時の課題や教材の工夫点を整理することにより、「初期学習」の意義について検討した。
2)身体の動きが極めて制限される超重症児の知的行動の様相(岡澤慎一):舌の動きで操作するスイッチを用いた活動が、舌先の2つのスイッチに対して選択的に接近し、さらにモニター上の変化や係わり手が発する信号に対応して舌先の動きを調整することが見られてきた取り組みのなかで、対象児の学習について検討した。
3)視覚障害のある超重症児の「分かること」「できること」を超えて(土谷良巳):ライトが点灯した左右いずれかの位置を捉え、延期時間にはその位置を保持し、延期時間の後に(点灯して消えた)ライトの位置に対応させて左右いずれかのスイッチを頬で押し、(同じ)ライトを再び点灯させる課題から対象児の学習について検討した。
この自主シンポジウムでは、さらに実践事例を加え、障害の重い子どもが取り組む学習について、その多面性の観点から整理をおこなうとともに、展望を切り開くことを目的としている。
<話題提供>
エマヌエル症候群児おける課題状況の意義 菅井裕行
対象児は11/22混合トリソミー(エマヌエル症候群)の診断を受けておりABR検査で95dB以上, 2歳時に視覚障害も指摘されたが、その後視力は回復した。まず, 視線,表情,あるいは身体の動きを,子どもの情動や意思の指標(信号)として丁寧に拾い上げ,応答することとした.具体的には,わずかな視線に対しても接近性の行動発現と仮定し,対象物を近づけたり対象物の方向へと移動させるなどである。当初は明確な受容や拒否が見られない状態であったが,その表情に受容の可否を読みとって働きかけを継続する中で発現が顕著になっていった.特に縞視標に対する視覚的接近や柔らかなゴム素材玩具(スポンジ様持ち手やフラッシュウニボール)への接近が見られた.さらに,振動刺激に連結させたAACを取り入れることとした.これらの事物との交渉にあたっては、いくつかの課題状況を設定して取り組んだ。本報告では、提示した課題状況とその際の行動展開を整理し、微細な行動変化を発信として読み取り,これに丁寧に応答していくという係わりの方略の重要性と、触覚系を重視した課題状況の効果、および十分な時間と子どものペースを尊重した事物との交渉場面という課題状況が持つ意義を関係性(三項関係)成立の観点から考察する。
超重症児における意図的表出と対応する信号系活動促進の試み 岡澤慎一
表情は豊かで随意的な眼や口唇の動きが見出されるが、重度の筋疾患があり、指先を含めて四肢の動きは極めて見出し難いほどに身体の動きが制限される対象児について、昨年度の本シンポジウムにおける話題提供以降の経過を報告する。対象児(15歳7カ月)は常時人工呼吸器を使用し、不明瞭であるが発声がある。しかし、係わり手からの問い掛けに対して、応答的で意図的かつ明確な表出は見出し難く、発信の意味内容を確定するには相当の難しさがある。係わり合いは、対象児が舌の動きで操作するスイッチを用いた活動を中心に展開された。現在までに、舌先と下唇付近に設定された2つのスイッチに対して選択的に舌先や下唇の動きで接近し、その動きを状況に応じて調節することが比較的安定してみられている。その後、パソコン上でスキャンするカーソルを1スイッチで選択することで取り組む見本合わせ(充実図形)や孤立項選択(線図形やヒラガナ文字)、2スイッチに分化・対応させたライトやVOCAあるいはパソコンを利用して取り組む見本合わせ(事象と音声など)などの状況を設定している。こうした状況へ対処する対象児の方略を検討することから、対象児が学んだことおよび状況設定の意義について検討したい。
脳萎縮を伴うSMAⅠ型児の「概念世界」をどう捉えるか 土谷良巳
小学校特別支援学級に在籍し、ほとんどの学習を通常学級の授業で進めている対象児が、「何を,どのように<知っている>か」についてアプローチした実践について報告する。対象児は進行性の重度の筋疾患で、人工呼吸器を装用している超重症児である。随意的な動きは表情筋の一部に限られるとみられる。生後8か月時から、低酸素性脳症の後遺症である脳全体の萎縮が認められる。通常級での授業においては、周囲の子どもたちやその活動へ視線を向け、関心を表している。ハンド・アンダー・ハンドによる楽器操作を好む。文字盤、及びスイッチ操作等による発信は困難であり、発声は極めて希であることから、表情、眼球の動きから、周囲はその「意思」を読み取っている。5歳からの継続的な係わり合いのなかで、選択状況において、9歳前後から徐々に左右に分化した眼球の動きが安定してきた。そこで、選択状況による「要求発信」に加えて、対象児が周囲の世界をどのように捉え、何を、どのように<知っている>のか、ひいては対象児の概念世界を共有するべく、いくつかの課題状況を提示した。この自主シンポジウムでは、1)家族の構成員の理解、2)自己の所有物の理解、について取り組んだ実践に関して報告し、極めて障害の重い子どもの学びの成立について検討する。
<指定討論> 中村保和・笹原未来
障害の重い子どもたちの学習について、初期学習の概念を踏まえつつ、その多面性という観点から「学習を捉える」新たな視点や学習のあり方、その意義、課題等について討論する。