The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PA031] 課題の取り組みに及ぼす難易度情報提示の影響

学習動機づけの個人差からの検討

市村賢士郎1, 楠見孝1 (京都大学)

Keywords:課題困難度, 学習動機づけ, 課題努力

目 的
これまで,課題困難度が課題の取り組みに及ぼす影響について,結果期待や達成動機づけとの関連から検討されてきた(Capa et al., 2008; Silvia et al., 2010)。しかし,実際の課題困難度だけでなく,課題困難度の事前認識の影響も考えられる。
本研究では,正答が不可能な課題を用いて,提示する難易度情報の違いによる課題の取り組み時間の差から,課題困難度の事前認識の影響を検討する。また,学習動機づけとの関連から難易度情報提示の効果の個人差を検討する。
方 法
実験参加者 大学生・大学院生38名(男性24名,女性14名)が実験に参加した。
実験課題 ひらがな5文字のアナグラム課題を用いた。課題難易度は易しい14問・難しい14問・不可能4問の3種類を用意した。予備調査(N=10)で難易度を5段階評定し,その平均値を基に易しい(1.36-1.73)と難しい(2.90-3.00)問題を選定した。
手続き (1)特性レベルの動機づけとして,達成動機づけ・学習自己効力感・自己決定理論に基づく動機づけを質問紙で測定した。(2)課題説明後,領域レベルの動機づけとして,達成価値・結果期待を測定した。(3)課題前半は,易しいと難しい問題をランダムに8問ずつ出題した。問題の上にその難易度を「易しい」と「難しい」で表示した。後半は易しいと難しい問題6問ずつに加え,不可能問題4問を出題した。不可能問題には「易しい」と「難しい」いずれかの難易度がランダムに2問ずつ表示された。各問題は正答するかパスすることで次に進めるようになっていた。不可能問題の取り組み時間と,易しい・難しい問題の正答数を記録した。(4)状態レベルの動機づけとして,内発的動機づけを測定した。
結果
表示難易度(易しい・難しい)を独立変数,不可能問題の取り組み時間を対数変換した値を従属変数とした1要因の分散分析の結果,表示難易度が「易しい」ときに,「難しい」ときと比べ有意に取り組み時間が長かった(Ms=192.8, 175.8, F(37) = 4.1, p < .05, ηp2 = .10)(図1)。
同じく不可能問題の取り組み時間について,正答数または各動機づけの尺度得点の中央値で参加者を高群・低群に分け,正答数・動機づけ2(高群・
低群)×表示難易度2(易しい・難しい)による2要因の分散分析を行なったところ,正答数については主効果がみられ,正答数高群で低群よりも取り組み時間が有意に長かった(Ms = 250.8, 111.7, F(36) = 31.4, p < .001, ηp2 = .47)。交互作用は有意でなかった(図2)。各動機づけについてはいずれも主効果や交互作用はみられなかった(Fs < 2.8)。
そこで,「難しい」と表示された不可能問題と「易しい」と表示された不可能問題の取り組み時間の差分を算出し,各尺度得点との相関係数を出したところ,結果期待および内発的動機づけと高い正の相関を示していた(rS(36) = .35, .29)
考 察
1要因の分散分析の結果から,実際の難易度が同じでも,難易度情報による困難度の事前認識が課題の取り組みに影響することが示された。
2要因の分散分析の結果から,問題を多く解いてきた経験が,その後の困難な課題の取り組みを動機づける可能性を示唆している。今後はこの点をさらに検討していく必要がある。
相関分析の結果から,やればできるという期待や課題を楽しむ動機づけをもつ人は困難の事前認識を克服しやすい可能性が考えられる。一方,Capa et al. (2008)やSilvia et al. (2010)でみられたような交互作用効果は確認できなかった。今後さらにサンプル数を増やし, より詳細に動機づけとの関連を検討する必要がある。