[PA034] 高校「倫理」教科書からの思想形成過程の学習と支援 (2)
受給した有効性は引き継がれるか?
Keywords:見出し, 構造把握, 学習支援
目的
高校「倫理」教科書に書かれた思想形成過程の学習支援を検討した山本・織田 (2014) は,高校生と大学生とでは,支援の有効性の受給の仕方が異なることを示した。この発表を受けて支援の有効性が教科書学習にまで引き継がれるかを検討した。
方法
参加者と材料:山本・織田(2014)を参照。
手続き:高校生と大学生に,文配列課題を実施し,その後,理解度評定を挟んで,再生課題と再構成課題を順に実施した。理解度評定として,「倫理」の学習目標に基づいて,「思想形成過程の理解度」に加えて,「日本人 (あるいは人間) としての在り方や生き方を考えていく手がかりとしての理解度」(以下,「日本人」と「人間」に関する理解度と略) であった。7段階で評価させた (6点満点)。
結果と考察
1) 教科書の理解度に対する有効性
まず,「思想形成過程の理解度」について,標識化(2)×構造同定(2)×発達(2) の分散分析の結果,Figure 1のように交互作用が見受けられるようにも見えるが,標識化の主効果が有意傾向で(F(1,232)=2.87, p<.10),構造同定の主効果が有意であった (F(1,232)=10.75, p<.01)。
次に,「日本人」と「人間」に関する理解度を同様に分析したところ,どちらも構造同定(F(1,232)=7.94, p<.01; F(1,232)=14.90, p<.01) と発達(F(1,232)=4.37, p<.05; F(1,232)=5.15, p<.05) の主効果が有意だった。
以上から,標識化の有効性は思想形成過程の理解度に及ぶことが示された。
2) 教科書学習に対する有効性
まず,全IDユニット数 (26個) に基づき,各参加者の再生率を求めた (2名の評定者の一致率は52.6%,相関係数はr=.93,不一致は合議で解消)。標識化(2)×構造同定(2) ×発達(2)の分散分析では,2次の交互作用が有意となった (F(1,232)=7.17, p<.01, Figure 2)。年齢ごとの分析では,高校生で有意な効果は認められなかったが,大学生では標識化と構造同定の交互作用が有意だった(F(1, 116)=7.11, p<.01)。単純主効果の検定では,上位群で標識化の単純主効果が有意で(F(1,348)=6.83, p<.01),標識化無群で構造同定の単純主効果が有意だった(F(1,116)=7.17, p<.01)。
次に,再構成課題で連得点を求め,分散分析を行ったが,高校生も大学生も有意で無かった。
以上から再生率の結果を踏まえると,大学生では標識化が無い時に認められた下位群と上位群の差が標識化による支援を受けて解消された。一方で,山本・織田 (2014) で認められた,高校生の上位群での向上が認められなかった。
3) 総合考察
まず,理解度に対する標識化の有効性についてである。大学生における思想形成過程の理解度では,Figure 1を見る限り山本・織田 (2014) の概要把握と同様の結果が見られることから,有効性が引き継がれているように見える。また,高校生でも概要把握過程で見受けられた有効性が思想形成過程の理解度にまで引き継がれているように考えられる。ただし,上記の結果は,思想形成過程の理解度についてであり,「日本人 (あるいは人間) としての在り方や生き方を考えていく手がかりとしての理解度」では認められなかった。
次に,教材学習に対する有効性については,複雑な結果となり,山本・織田 (2014) の結果が見受けられなかった。特に,高校生に絞れば,再生率でも再構成連得点でも下位群は言うまでもなく,上位群にも有効性が認められていない。今後は有効性の受給過程に関するモデルを構築し,詳細に検証する必要があろう。
付記 平成23~25年度科研費の助成を受けた。
高校「倫理」教科書に書かれた思想形成過程の学習支援を検討した山本・織田 (2014) は,高校生と大学生とでは,支援の有効性の受給の仕方が異なることを示した。この発表を受けて支援の有効性が教科書学習にまで引き継がれるかを検討した。
方法
参加者と材料:山本・織田(2014)を参照。
手続き:高校生と大学生に,文配列課題を実施し,その後,理解度評定を挟んで,再生課題と再構成課題を順に実施した。理解度評定として,「倫理」の学習目標に基づいて,「思想形成過程の理解度」に加えて,「日本人 (あるいは人間) としての在り方や生き方を考えていく手がかりとしての理解度」(以下,「日本人」と「人間」に関する理解度と略) であった。7段階で評価させた (6点満点)。
結果と考察
1) 教科書の理解度に対する有効性
まず,「思想形成過程の理解度」について,標識化(2)×構造同定(2)×発達(2) の分散分析の結果,Figure 1のように交互作用が見受けられるようにも見えるが,標識化の主効果が有意傾向で(F(1,232)=2.87, p<.10),構造同定の主効果が有意であった (F(1,232)=10.75, p<.01)。
次に,「日本人」と「人間」に関する理解度を同様に分析したところ,どちらも構造同定(F(1,232)=7.94, p<.01; F(1,232)=14.90, p<.01) と発達(F(1,232)=4.37, p<.05; F(1,232)=5.15, p<.05) の主効果が有意だった。
以上から,標識化の有効性は思想形成過程の理解度に及ぶことが示された。
2) 教科書学習に対する有効性
まず,全IDユニット数 (26個) に基づき,各参加者の再生率を求めた (2名の評定者の一致率は52.6%,相関係数はr=.93,不一致は合議で解消)。標識化(2)×構造同定(2) ×発達(2)の分散分析では,2次の交互作用が有意となった (F(1,232)=7.17, p<.01, Figure 2)。年齢ごとの分析では,高校生で有意な効果は認められなかったが,大学生では標識化と構造同定の交互作用が有意だった(F(1, 116)=7.11, p<.01)。単純主効果の検定では,上位群で標識化の単純主効果が有意で(F(1,348)=6.83, p<.01),標識化無群で構造同定の単純主効果が有意だった(F(1,116)=7.17, p<.01)。
次に,再構成課題で連得点を求め,分散分析を行ったが,高校生も大学生も有意で無かった。
以上から再生率の結果を踏まえると,大学生では標識化が無い時に認められた下位群と上位群の差が標識化による支援を受けて解消された。一方で,山本・織田 (2014) で認められた,高校生の上位群での向上が認められなかった。
3) 総合考察
まず,理解度に対する標識化の有効性についてである。大学生における思想形成過程の理解度では,Figure 1を見る限り山本・織田 (2014) の概要把握と同様の結果が見られることから,有効性が引き継がれているように見える。また,高校生でも概要把握過程で見受けられた有効性が思想形成過程の理解度にまで引き継がれているように考えられる。ただし,上記の結果は,思想形成過程の理解度についてであり,「日本人 (あるいは人間) としての在り方や生き方を考えていく手がかりとしての理解度」では認められなかった。
次に,教材学習に対する有効性については,複雑な結果となり,山本・織田 (2014) の結果が見受けられなかった。特に,高校生に絞れば,再生率でも再構成連得点でも下位群は言うまでもなく,上位群にも有効性が認められていない。今後は有効性の受給過程に関するモデルを構築し,詳細に検証する必要があろう。
付記 平成23~25年度科研費の助成を受けた。