The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PA036] 穏やかな達成を目指す目標としての習得回避目標

2つの達成目標尺度の比較

徳岡大1, 前田健一2 (1.広島大学, 2.岡山商科大学)

Keywords:習得回避目標, 達成目標, 中学生

問題
 学習の習熟を目指す習得目標を持つ人は,難しい課題に直面しても学習を続けることが報告されている(Diener & Dweck, 1978)。Elliot & McGregor(2001)は,達成動機における接近と回避を加え,習得目標を習得接近目標と習得回避目標に分けた。接近的な達成動機は動機づけを向上させることを,回避的な達成動機は失敗することを避けるために動機づけを低下させることを想定している。接近と回避の達成動機に基づくのであれば,習得接近目標は動機づけを向上させ,習得回避目標は動機づけを低下させると考えられる。本研究では,達成目標を測定する2つの尺度を用いて,習得接近目標および習得回避目標と動機づけの関連を検討する。
方法
 対象者 広島県内の1つの公立中学校の中学1年生から3年生に調査を実施した。以下に示す調査内容について,不誠実回答のない506名(1年生168名,2年生156名,3年生182名;女子239名,男子263名,不明4名)を分析対象とした。
 手続き 中学校の教員が学級単位で集団実施した。以下に示す教示によって,教示内容に最も近いと思う1つの教科について回答するように求めた。対象者が選択できる教科は,国語,数学,英語,理科,社会の5教科に限定した。教示は,学び続けたい,できれば学びたくないの継続意思に関する2種類と本気でやれば簡単,本気でやればなんとかできる,本気でやっても難しいの主観的難易度に関する3種類の教示を組み合わせた6パターンを無作為に割り当てた。
 調査内容 (1)達成目標:Modified Achievement Goal Questionnaire(MAGQ; Tokuoka & Maeda, 2013)とAchievement Goal Questionnaire-Revised(AGQ-R, Elliot & Murayama, 2008)を使用した。どちらの尺度も習得接近目標,習得回避目標,遂行接近目標,遂行回避目標について各3項目,合計12項目で構成される。(2)目指す成績:来年度その教科のテストで何点くらいを目指すか(100点満点)について回答を求めた。(3)学業従事:選択した教科の来年度の授業について,どのくらい熱心に学習するかについて回答を求めた。達成目標と学業従事は5段階評定による回答を求めた。
結果と考察
 質問紙の条件による目標の差はなかったため,以後の分析では,6パターンをまとめて分析することとした。
 MAGQの達成目標が目指す成績と学業従事に及ぼす影響 目指す成績を目的変数,MAGQの達成目標とその交互作用項を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。ステップ1では4つの達成目標を,ステップ2では6つの交互作用項を説明変数に加えた。その結果,習得接近目標(b = 2.66, p < .001)と遂行接近目標(b = 2.36, p < .05)は有意な正の影響を,習得回避目標(b = -3.42, p < .001)は有意な負の影響を示した。さらに,習得接近目標と習得回避目標の交互作用項(b = 2.31, p < .05)と習得接近目標と遂行回避目標の交互作用項(b = -2.70, p < .05)も有意な影響を示した。
 目的変数を学業従事に変え,同様に階層的重回帰分析を行った。その結果,習得接近目標(b = .56, p < .001)と遂行接近目標(b = .12, p < .05)は有意な正の影響を,習得回避目標(b = -.14, p < .01)は有意な負の影響を示した。さらに,遂行接近目標と習得回避目標の交互作用項(b = .23, p < .001)も有意な影響を示した。
 AGQ-Rの達成目標が目指す成績と学業従事に及ぼす影響 目指す成績を目的変数,AGQ-Rの達成目標とその交互作用項を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。ステップ1では4つの達成目標を,ステップ2では6つの交互作用項を説明変数に加えた。
 その結果,習得接近目標(b = 3.33, p < .001)と遂行接近目標(b = 3.94, p < .001)は有意な正の影響を示した。さらに,遂行接近目標と遂行回避目標の交互作用項(b = 2.23, p < .01)も有意な影響を示した。
 目的変数を学業従事に変え,同様に階層的重回帰分析を行った。その結果,習得接近目標(b = .56, p < .001)と習得回避目標(b = .12, p < .05)は有意な正の影響を示した。
 MAGQの習得回避目標は目指す成績や努力を低下させ,低い水準での達成を目指す目標であることが示唆される。接近と回避の達成動機づけに基づいた場合,MAGQの習得回避目標の方が適切に理論を反映した結果となったといえる。