The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PA048] 身体論を用いた看護基礎技術習得のための自己学習支援教育ツールの開発

鮫島輝美1, 井川啓2 (1.京都光華女子大学, 2.京都光華女子大学短期大学部)

Keywords:看護技術, 自己学習支援, 教育ツールの開発

【背景】看護技術の習得は看護教育の中核である。看護教育は,実習中心の「職業訓練」から学問の体系化を目指した「高等教育」へと発展した。また看護技術教育も,看護手順の習得から,科学的根拠を明確化する教育へと変化している。その結果,学内実習時間は減少傾向にあり,臨床現場からは看護学生の技術能力の低下を指摘され続けている。学生の学びが進まない原因として,日常生活能力の低下や体験不足・不器用さが挙げられることも多い。そのため補助教材が多様化しており,教科書の付属品としてDVDなどの視覚教材も一般化しているが,十分な効果が得られているとは言い難い。また,「人による人に対する」看護技術の中で,身体性が議論されることがあまりなかった。吾妻(2001)は,「人による人に対する」技術には,〈相互身体的〉な関係が必要だと指摘している。〈相互身体的〉な関係とは,「お互いの身体を通じて知覚された体験が交換され,同一知覚となって体験されることによって相手の状況が分かること」であり,「このような看護者と患者との〈相互身体的〉な関わりを学ぶことを通じて,学生は看護の受け手である患者のみならず,学生自身が〈知覚されると同時に知覚されるもの〉として,私という看護者の身体性を確かなものとして実感できるように成長していく」のである(池川,1995)。
【目的】本研究は,看護技術の基盤概念を〈相互身体的〉な関わりとし,この〈相互身体的〉な関わりが起きる機序を精緻化した大澤の身体論(1990)を,技術習得の学習理論として「状況論」(香川,2008)を採用した。これらの理論を背景とし,基礎看護技術習得のための自己学習支援教育ツール開発を目的とした。具体的には,半強制的に〈相互身体的〉状況を作り出すことで,学習者の身体性を高め,看護技術習得を促進するために,学習者が複数の視点を能動的に変更できるタブレット用視覚教材(図1)を開発し,その有効性を検証することである。今回は,第1段階である「視覚教材の制作」について報告する。
【方法】教材作成にあたり,既存の教材との変更点は,撮影視点の複数性にある。本研究では,撮影の視点を4点,1)看護師役(当事者)の視点,2)3)共視関係にある視点(左,右)4)従来の視点,をおいた。1)は1人称,2)3)は2人称,4)は3人称の視点である。次に重要となったのが,学習者がこの4つの視点を能動的に変更できる点である。画面を4つに分割し,学習者が見たい場面を見たい方向から見る,という状態を作った。こうした状態を作り出すには,技術上の問題が2点あった。撮影用カメラや影が映り込まない工夫と,プログラム上の問題であった。1つ目の問題は,特殊な撮影スタジオを作成することで,また2つ目の問題は,Web方式を採用することで解決することができた。
【結果】当日は実際に作成した教材ビデオを見ていただく。本研究は,JSPS科研費,挑戦的萌芽研究 25670934の助成を受けたものである。

【引用文献】
吾妻知美(2001).基礎看護学実習における看護技術教育の方法論的考察 患者-学生の相互身体的な関わりを中心に- 日本赤十字看護大学紀要,15,11-22.
池川清子(1995).看護-生きられる世界の実践知- ゆみる出版
香川秀太(2008).状況論とは何か‐実践の解明と変革のアプローチ- INR日本版,138,19-29.
大澤真幸(1990).身体の比較社会学Ⅰ 勁草書房