The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PB002] PBIS(ポジティブ行動介入および支援)が学級全体の学習規律に及ぼす効果の検討

古市貴弘1, 西山久子2 (1.福岡教育大学大学院, 2.福岡教育大学)

Keywords:PBIS(ポジティブ行動介入および支援), コンサルテーション

問題と目的
Positive Behavior Interventions and Supports(ポジティブ行動介入および支援,以下PBISと記す)は,応用行動分析を基礎とし,適切な行動を価値づけ,支援する,予防的なアプローチであり,1997年以来,米国におけるポジティブな生徒指導の方途として,多くの学校で,全校をあげた取り組みが進められている(Sugai,2013)。しかし,我が国においては,応用行動分析を用いて個別支援を行った研究に比べて,PBISを体系的に活用した研究報告は少ない。
本研究では,学校教育で課題とされている規範意識の向上(文部科学省,2012)を目指し,小学校通常学級の授業において,担任が,実態把握を基盤としたPBISによる支援を行う。著者はその効果を検証する。
方法
1.時期
X年11月からX+1年1月(9週間)に行った。第1著者は,その間に17回訪問し,毎回2,3時間の授業観察を行った。放課後には,学級担任と,支援の提案や授業に関する約30分のコンサルテーションを行った。
2.参加者
1)対象学級:公立小学校3年生27名(男子15名,女子12名)の通常学級である。ASSESS(学校環境適応感尺度)では,対人的適応,学習的適応のどちらも要支援領域にはない。2学期から2~3名の児童が離席や私語などの行動を取り始め,まわりの児童も追随するようになった。
2)学級担任:20歳代の女性講師で,小学校と中学校で教職経験がある。
3)コンサルタント及び観察者:大学院で学校心理学について学ぶ,教職経験20年目を迎える教員(第1著者)が務めた。児童への支援の提案,授業づくりへの助言,授業における行動観察・記録を行った。
3.手続き
PBISにおける1次支援では,全ての児童を対象に,客観的なデータを基に組織的に継続的な介入を与え,学習規律の定着を目指す。
1)学級の問題傾向の把握:スクリーニングシート(以下Sシートと記述)を使い,学級全体の問題傾向を把握することを目標とした。担任のスクリーニングでは,行動上の気づきが高く,特に,「話の聞き方」,「学習準備・片付け」に問題があることを確認した。
2)コンサルテーションによる指導方針の決定:この段階では,Sシートから分かった子どもたちのニーズに合わせて,学級担任と相談しながら授業における行動目標や支援等を決定することを目指した。担任と著者のコンサルテーションにおいて,授業中における行動目標を,①人の話を最後まで聞く,②忘れ物をしないで勉強する,③授業中は座って学習する,④すばやく学習の準備をする,⑤丁寧な言葉で話す,の5つとした。そして,行動目標を未獲得の児童にはそれらの獲得を,既に獲得している児童にはそれらを意識的に実行させ,担任などから強化されることを目的としてチェックカードを導入した。
3)授業実践:本研究では,以下の点を支援の基盤とし,通常授業を行った。
〇先行刺激A(antecedent stimulus),行動B(behavior),後続刺激C(consequent stimulus)を意識して,子どもたちのポジティブな面を見出し支援する。
〇授業における行動目標を「チェックカード」によって意識化・強化する
4)コンサルテーションによる実践評価:PDCAサイクルを積み重ね,授業改善や支援方針を確認した。
結果
著者の観察記録から,目標行動の変化についてt検定を行った結果,①人の話を最後まで聞く(t(127)=2.25.p<.03),②忘れ物をしないで勉強する(t(160)=2.55.p<.01),③授業中は座って学習する(t(160)=2.66.p<.01),④すばやく学習の準備をする,⑤丁寧な言葉で話す(t(160)=2.50.p<.01),の5つの行動とも,学級全体で有意な回数の減少が見られた。なお,支援前とはベースライン期における4時間分の行動観察の一人あたりの平均回数(時間)を,支援後とはプローブ期における2時間分の行動観察の一人あたりの平均回数(時間)を意味する。
Sシートを使った担任による行動目標の変化でも,「丁寧な言葉で話す」以外の行動で,問題行動の減少を実感していることがわかった。
考察
学習規律の向上は,Sシートからクラスの問題傾向を把握し,チェックカードの導入によって目標行動が強化・意識化されたことと,ABCを意識した必然性のある学びを積み重ねたことによるものだと考えられる。しかし,本研究は,著者が観察者とコンサルタントを兼ね,1学級を対象とした実践であった。よって今後,複数のコンサルタントおよび学級への介入を行い,汎用性を精査する必要があると考える。