The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PB036] 国内の心理尺度作成論文における信頼性係数の報告状況

2001‐2012年度までに公刊された心研・教心研・社心研・実社心研・パソ研を対象に

高本真寛 (日本学術振興会)

Keywords:心理尺度, 信頼性

本発表は,国内の心理尺度の作成論文における信頼性係数の報告内容に関する動向をまとめることを目的とした。
現在の心理学領域における構成概念の測定に関して,必要以上の心理尺度が存在するために,“測定尺度の乱立”や“構成概念の乱立”といった表現を用いて批判されることがある(南風原,2012;石丸,2011)。このような指摘に関連して,国外では心理尺度を開発した論文を対象に,どのような信頼性係数によって信頼性を報告しているか(Hogan et al., 2000)や,どのようにして妥当性を検証しているか(Newton & Shaw, 2013)を概観した論文があり,心理尺度の開発を目的とした研究の動向が把握できる。
例えば,Hogan et al.(2000)によると,66.5%の論文はα係数によって信頼性を推定していた。しかし,α係数は信頼性を点推定する際にバイアスが入りやすく(Maydeu-Olivares et al., 2007),測定誤差間に共分散がある場合に信頼性を過大推定する(Shevlin et al., 2000)。また,Revelle & Zinbarg(2009)は,シミュレーション分析を通してα係数が必ずしも信頼性係数として有効な指標とならないことを示した。そのため,現在では,α係数が信頼性係数として最良の指標であると考えられておらず(Cronbach & Shavelson, 2004; Zinbarg et al., 2005),ω係数(McDonald, 1978; 1999)が信頼性の推定において有効な指標となると指摘されている(Revelle & Zinbarg, 2009; Zinbarg et al., 2005)。
他方,国内では,Hogan et al.(2000)やNewton & Shaw(2013)が行ったように,心理尺度の作成論文に関する体系的なレビューが行われておらず,国内の研究動向を正確に把握することは適わない。そこで,本発表では,国内における心理尺度の作成論文の公刊数および該当論文において報告された信頼性係数の動向についてまとめる。
方法
対象雑誌
心理学領域における査読論文のうち2001 ~ 2012年度までに公刊された,“心理学研究”“教育心理学研究”“社会心理学研究”“実験社会心理学研究”“パーソナリティ研究”の5誌を対象とした。
選定基準
論文タイトル中に以下の三つの条件のうち最低一つを満たすことを要件とした。(a)尺度の開発・妥当性検討を表す内容を含むこと。(b)国外の尺度を邦訳していること。(c)尺度の標準化に準ずる内容を含むこと。
結果と考察
上記の三つの条件に該当する論文のうち,論文内容から一般的な心理尺度として見なすことができないと判断した論文を除外した。その結果,2001年度から2012年度までに,年間6本から18本,合計159本にのぼる論文が公刊されていた(推移の詳細は発表当日に示す)。
続いて,上記の159本の論文を対象に,論文内で報告された信頼性係数を調査した。その結果,信頼性係数の報告件数はα係数が146本,再テスト信頼性が66本,IRTが4本,ω係数が3本,一般化可能性理論が1本,折半法が1本であった。以上の結果から,国内においても,信頼性の推定にα係数が広く用いられていることが分かる。
他方,α係数を報告した146本の論文のうち,31本(21.2%)の論文では,多因子構造をもつ尺度に対して尺度全体の項目を用いてα係数を算出していた。α係数によって信頼性を推定する際には,弱平行測定の前提が必要であり,尺度の多次元性はこの前提条件を満たさない。また,項目数の増加は,項目間の相関係数の大きさに関わらず高いα係数を算出する(Cronbach, 1951)。そのため,上記の方法によって報告されるα係数の数値は,それ自体に重要な情報をもつとは言えないだろう。
以上の点をまとめると,国内においても,未だ信頼性の推定にα係数を利用していることが大勢であり,一部の論文では,信頼性の評価に注意が必要であると言える。なお,α係数を信頼性係数として報告する際には,信頼区間の報告(Iacobucci & Duhachek, 2003; Maydeu-Olivares et al., 2007)や弱平行測定の条件からどの程度逸脱しているかを,確認的因子分析によって評価することの必要性(Shevlin et al., 2000)が指摘されている。したがって,今後,信頼性を推定する際には,α係数だけでなく上記の統計量を併記する,もしくはω係数を用いることが望まれる。