[PB049] 『気になる場面』に対する保育者の認識と省察
Keywords:保育, 省察, 気になる子
【問題と目的】
保育現場において,明白な障害の有無にかかわらず,「気になる子」に対する保育が保育者の大きな課題となっていることはいうまでもない。これまで保育現場における「気になる子」の研究から,「気になる子」の行動特徴は勿論のこと,その対応や保育者の意識変容まで,多くのことが明らかにされてきた。しかし,保育者にとって「気になる子」のいる『気になる場面』とはいかなる場面なのか,『気になる場面』そのものに焦点をあてた研究はまだまだ不足しているように思われる。多くの研究が,保育者への認識調査から,「気になる子」の行動特徴として,こだわりや集団参加の困難をあげている。保育者がこのような行動特徴を持つ「気になる子」のいる場面を,保育場面としてどのように認識し,近い将来の保育の改善に向けて何を省察するのかをあらためて検討する必要があると考えられる。そこで,本研究では保育者の『気になる場面』に対する認識を検討するとともに,その場面に対してどのような省察を行なうのかを探索的に検討する。
【方 法】
<調査協力者> 隔月で実施されるK市の保育事例検討会(メンバー数20名程度)に参加している保育者(経験年数19年以上)に協力を依頼した。
<事例収集の手続き> 「保育の中で気になる子のいる場面」についての事例を保育事例検討会に持参するよう依頼し収集した。なお,事例における子どもの対象年齢・性別は問わないこと,事例記入用紙には①具体的な場面・会話,②場面・会話から自分が感じること,③分析・省察,の3項目を記入すること,を依頼した。
<分析手続き> 事例記入用紙の項目ごとに,共通点の多い事例をカテゴリー分類した。なお,カテゴリー分類は2名で実施し,2者間で一致しなかった事例に関してはその後の分析から除外した。
【結果と考察】
<『気になる場面』として示された事例> カテゴリー分類の結果,対人葛藤場面15事例(3歳未満2事例,3歳以上13事例),個人的葛藤場面15事例(3歳未満6事例,3歳以上9事例),計30事例の『気になる場面』が抽出された。また,対人葛藤場面は,「物の取り合い場面(4事例)」「過剰な関わり場面(5事例)」「被害者場面(6事例)」に,個人的葛藤場面は,「こだわり場面(2事例)」「意外な言動場面(3事例)」「情動不安定場面(10事例)」にそれぞれ分類された。
これらの結果から,保育者が『気になる場面』を事例として示す際,概ねこれまで多くの研究で示されてきた「気になる子」の行動特徴を記す傾向はあるものの,「気になる子」の行動特徴として示されやすいとされてきた「(対人場面以外での)こだわり」はそれほど事例として取り上げられないことが示唆された。また,30事例の半数である15事例が個人的葛藤場面であったにも関わらず,30事例のうち24事例において,事例の最後に周囲の子どもたちの様子が記されていた。以上のことから,「気になる子」の特徴を示す際とは異なり,『気になる場面』を示す際には,「気になる子」個人の様子よりも,周囲の子どもたちとの関わりが気になるものとして多く示されることが伺われた。
<場面への感想と省察> 場面から感じること・省察について示された内容をカテゴリー分類したところ,場面から感じることについては「気になる子自身に関すること(22事例)」「気になる子と周囲との関わりに関すること(8事例)」であったのに対し,省察では「気になる子自身に関すること(7事例)」「気になる子と周囲との関わりに関すること(23事例)」であった。
このことから,保育者は日常の保育現場において,『気になる場面』に対する最初の感想は「気になる子」自身への困り感であるものの,省察から新たな保育を見出す際には気になる子と他の子どもたちが関わりながら活動することに対して振り返りを行ない,集団的関わりの中から育ちあうことを求め考察を記す傾向があることが示唆された。
以上のことから,保育者は,「気になる子」のいる『気になる場面』を認識し省察する際,「気になる子」自身の特徴や対応よりも,「気になる子」を含む集団づくりを意識していることが考えられた。
今後,あらためて保育本来の集団体験に注目し,「気になる子」を個人的に焦点化するだけでなく,関わり合い場面に対して保育者が何を省察し,「気になる子」を含む集団づくりとして保育を考えていくのかを詳細に検討していく必要があるだろう。*各操作的定義については発表時に提示予定
保育現場において,明白な障害の有無にかかわらず,「気になる子」に対する保育が保育者の大きな課題となっていることはいうまでもない。これまで保育現場における「気になる子」の研究から,「気になる子」の行動特徴は勿論のこと,その対応や保育者の意識変容まで,多くのことが明らかにされてきた。しかし,保育者にとって「気になる子」のいる『気になる場面』とはいかなる場面なのか,『気になる場面』そのものに焦点をあてた研究はまだまだ不足しているように思われる。多くの研究が,保育者への認識調査から,「気になる子」の行動特徴として,こだわりや集団参加の困難をあげている。保育者がこのような行動特徴を持つ「気になる子」のいる場面を,保育場面としてどのように認識し,近い将来の保育の改善に向けて何を省察するのかをあらためて検討する必要があると考えられる。そこで,本研究では保育者の『気になる場面』に対する認識を検討するとともに,その場面に対してどのような省察を行なうのかを探索的に検討する。
【方 法】
<調査協力者> 隔月で実施されるK市の保育事例検討会(メンバー数20名程度)に参加している保育者(経験年数19年以上)に協力を依頼した。
<事例収集の手続き> 「保育の中で気になる子のいる場面」についての事例を保育事例検討会に持参するよう依頼し収集した。なお,事例における子どもの対象年齢・性別は問わないこと,事例記入用紙には①具体的な場面・会話,②場面・会話から自分が感じること,③分析・省察,の3項目を記入すること,を依頼した。
<分析手続き> 事例記入用紙の項目ごとに,共通点の多い事例をカテゴリー分類した。なお,カテゴリー分類は2名で実施し,2者間で一致しなかった事例に関してはその後の分析から除外した。
【結果と考察】
<『気になる場面』として示された事例> カテゴリー分類の結果,対人葛藤場面15事例(3歳未満2事例,3歳以上13事例),個人的葛藤場面15事例(3歳未満6事例,3歳以上9事例),計30事例の『気になる場面』が抽出された。また,対人葛藤場面は,「物の取り合い場面(4事例)」「過剰な関わり場面(5事例)」「被害者場面(6事例)」に,個人的葛藤場面は,「こだわり場面(2事例)」「意外な言動場面(3事例)」「情動不安定場面(10事例)」にそれぞれ分類された。
これらの結果から,保育者が『気になる場面』を事例として示す際,概ねこれまで多くの研究で示されてきた「気になる子」の行動特徴を記す傾向はあるものの,「気になる子」の行動特徴として示されやすいとされてきた「(対人場面以外での)こだわり」はそれほど事例として取り上げられないことが示唆された。また,30事例の半数である15事例が個人的葛藤場面であったにも関わらず,30事例のうち24事例において,事例の最後に周囲の子どもたちの様子が記されていた。以上のことから,「気になる子」の特徴を示す際とは異なり,『気になる場面』を示す際には,「気になる子」個人の様子よりも,周囲の子どもたちとの関わりが気になるものとして多く示されることが伺われた。
<場面への感想と省察> 場面から感じること・省察について示された内容をカテゴリー分類したところ,場面から感じることについては「気になる子自身に関すること(22事例)」「気になる子と周囲との関わりに関すること(8事例)」であったのに対し,省察では「気になる子自身に関すること(7事例)」「気になる子と周囲との関わりに関すること(23事例)」であった。
このことから,保育者は日常の保育現場において,『気になる場面』に対する最初の感想は「気になる子」自身への困り感であるものの,省察から新たな保育を見出す際には気になる子と他の子どもたちが関わりながら活動することに対して振り返りを行ない,集団的関わりの中から育ちあうことを求め考察を記す傾向があることが示唆された。
以上のことから,保育者は,「気になる子」のいる『気になる場面』を認識し省察する際,「気になる子」自身の特徴や対応よりも,「気になる子」を含む集団づくりを意識していることが考えられた。
今後,あらためて保育本来の集団体験に注目し,「気になる子」を個人的に焦点化するだけでなく,関わり合い場面に対して保育者が何を省察し,「気になる子」を含む集団づくりとして保育を考えていくのかを詳細に検討していく必要があるだろう。*各操作的定義については発表時に提示予定