[PB068] ネガティブ情動の喚起時における児童の切り替え能力の発達
Keywords:小学生, 実行機能, 情動
【 目 的 】
情動はヒトの認知能力や行動に影響を与える(e.g. Damasio, 1999)。子ども期においても,たとえば,ネガティブな情動の強さは適応や学業の不良さと関連し(Eisenberg et al., 2001, 2005),不安情動は固執傾向を促進する(Pnevmatikos & Trikkaliotis, 2013)。
子どもの生活の中で,ネガティブな情動が生じる場面は少なくないが,その情動状態での子どもの認知・行動の発達はあまり知られていない。そこで本研究では,ネガティブ情動が喚起された場合とそうでない場合でのWisconsin Card Sorting Test(WCST)の遂行を比較することにより,情動喚起時の児童の切り替え能力の発達を検討する。
【 方 法 】
参加児: 1年生22名(女12;M=86.95ヶ月,SD=3.46),3年生28名(女13;M=109.96ヶ月,SD=4.57),5年生24名(女13;M=134.46ヶ月,SD=3.58)の計74名。
課題・装置・材料: WCSTのPC用ソフト(WCST-KFS:小林, 2003)を,タブレットPCにインストールして用いた。また,ネガティブ情動を喚起するための刺激として,中澤(2010)のMISCを改変した映像(5分35秒)を用いた。
手続き: 参加児を情動喚起群(50名)・統制群(24名)に振り分け,各参加児に2回の面接を実施した(面接の間隔=平均3.2日)。1回目は,いずれの群でもWCSTのやり方を説明した後,そのままWCSTを行った。2回目は,群によって異なる手順でWCSTを実施した。情動喚起群では,最初の説明に続き,ネガティブ情動を喚起する映像をタブレットPCで視聴させた後,WCSTを行った。統制群では1回目と同様の手順でWCSTを行った。
得点化: WCSTの遂行に関して,本研究ではCAとPENの2つの指標を算出した。CAは,「分類ルールを推測し,カードを正しく分類できた回数」である。PENは,「分類ルールが変更した後,前の分類ルールに従って分類した回数」,つまり固執傾向の指標である。
【 結 果 】
学年・群別のCA,PENの平均をTable 1に示す。WCSTの遂行の学年・群による変化を検討するため, CAとPENそれぞれに関して学年(1,3,5年生)×群(情動喚起群,統制群)×ブロック(1回目,2回目)の分散分析を行った。
CAに関して,学年の主効果(F(2, 68)=12.32, p<.01)が有意で,1年生より3年生および5年生でCAが高かった(ps<.01)。また,群×ブロックの交互作用(F(1, 68)=4.22, p<.05)が有意であったので,単純主効果の検定を行った。群別に各ブロックのCAを比較したところ,統制群では1回目より2回目でCAが高かった(F(1, 68)=4.41, p<.05)。ブロック別に各群のCAを比較したところ,2回目では情動喚起群より統制群でCAが高かった(F(1, 68)=4.59, p<.05)。
PENに関して,ブロックの主効果(F(1, 68)=6.94, p<.05)が有意で,1回目より2回目でPENが低かった。また,群×ブロックの交互作用(F(1, 68)=6.91, p<.05)が有意であったので,単純主効果の検定を行った。群別に各ブロックのPENを比較したところ,統制群では1回目より2回目でPENが低かった(F(1, 68)=10.32, p<.01)。ブロック別に各群のPENを比較したところ,2回目では情動喚起群より統制群でPENが低かった(F(1, 68)=6.37, p<.05)。
【 考 察 】
ネガティブ゙情動が喚起されている状態では,児童の全般的な認知能力が低下し,固執傾向が増大する可能性が示された。ネガティブ情動は日常生活時だけでなく,非常事態時(e.g. 震災,火災)に特に生じる。教師は児童におけるネガティブ情動が認知に及ぼす影響を知った上で,非常時の行動等を指導する必要があろう。
情動はヒトの認知能力や行動に影響を与える(e.g. Damasio, 1999)。子ども期においても,たとえば,ネガティブな情動の強さは適応や学業の不良さと関連し(Eisenberg et al., 2001, 2005),不安情動は固執傾向を促進する(Pnevmatikos & Trikkaliotis, 2013)。
子どもの生活の中で,ネガティブな情動が生じる場面は少なくないが,その情動状態での子どもの認知・行動の発達はあまり知られていない。そこで本研究では,ネガティブ情動が喚起された場合とそうでない場合でのWisconsin Card Sorting Test(WCST)の遂行を比較することにより,情動喚起時の児童の切り替え能力の発達を検討する。
【 方 法 】
参加児: 1年生22名(女12;M=86.95ヶ月,SD=3.46),3年生28名(女13;M=109.96ヶ月,SD=4.57),5年生24名(女13;M=134.46ヶ月,SD=3.58)の計74名。
課題・装置・材料: WCSTのPC用ソフト(WCST-KFS:小林, 2003)を,タブレットPCにインストールして用いた。また,ネガティブ情動を喚起するための刺激として,中澤(2010)のMISCを改変した映像(5分35秒)を用いた。
手続き: 参加児を情動喚起群(50名)・統制群(24名)に振り分け,各参加児に2回の面接を実施した(面接の間隔=平均3.2日)。1回目は,いずれの群でもWCSTのやり方を説明した後,そのままWCSTを行った。2回目は,群によって異なる手順でWCSTを実施した。情動喚起群では,最初の説明に続き,ネガティブ情動を喚起する映像をタブレットPCで視聴させた後,WCSTを行った。統制群では1回目と同様の手順でWCSTを行った。
得点化: WCSTの遂行に関して,本研究ではCAとPENの2つの指標を算出した。CAは,「分類ルールを推測し,カードを正しく分類できた回数」である。PENは,「分類ルールが変更した後,前の分類ルールに従って分類した回数」,つまり固執傾向の指標である。
【 結 果 】
学年・群別のCA,PENの平均をTable 1に示す。WCSTの遂行の学年・群による変化を検討するため, CAとPENそれぞれに関して学年(1,3,5年生)×群(情動喚起群,統制群)×ブロック(1回目,2回目)の分散分析を行った。
CAに関して,学年の主効果(F(2, 68)=12.32, p<.01)が有意で,1年生より3年生および5年生でCAが高かった(ps<.01)。また,群×ブロックの交互作用(F(1, 68)=4.22, p<.05)が有意であったので,単純主効果の検定を行った。群別に各ブロックのCAを比較したところ,統制群では1回目より2回目でCAが高かった(F(1, 68)=4.41, p<.05)。ブロック別に各群のCAを比較したところ,2回目では情動喚起群より統制群でCAが高かった(F(1, 68)=4.59, p<.05)。
PENに関して,ブロックの主効果(F(1, 68)=6.94, p<.05)が有意で,1回目より2回目でPENが低かった。また,群×ブロックの交互作用(F(1, 68)=6.91, p<.05)が有意であったので,単純主効果の検定を行った。群別に各ブロックのPENを比較したところ,統制群では1回目より2回目でPENが低かった(F(1, 68)=10.32, p<.01)。ブロック別に各群のPENを比較したところ,2回目では情動喚起群より統制群でPENが低かった(F(1, 68)=6.37, p<.05)。
【 考 察 】
ネガティブ゙情動が喚起されている状態では,児童の全般的な認知能力が低下し,固執傾向が増大する可能性が示された。ネガティブ情動は日常生活時だけでなく,非常事態時(e.g. 震災,火災)に特に生じる。教師は児童におけるネガティブ情動が認知に及ぼす影響を知った上で,非常時の行動等を指導する必要があろう。