[PB070] 英独仏の国語教科書に描かれた親子間の葛藤処理方略
Keywords:葛藤処理方略, 国語教科書, 親子間関係
目的
本発表では,次世代に伝達する価値観の中でも,イギリスとフランス,ドイツの親子間の葛藤処理方略に焦点を当てて,親子間で葛藤が生じた際に,どのような方法で解決することが3ヶ国の子どもたちに期待されているかについて明らかにする。子どもの社会化に影響を与える小学校教科書の内容分析をすることによって,現代のイギリス,フランス,ドイツの大人が望ましいと考える親子間の葛藤処理について検討した。
方法
本発表では,イギリスとフランス,ドイツにおいて,それぞれの国語を母語としている小学校1~3年生(6~9歳)用の国語教科書を分析材料としている。なお,イギリスの国語教科書は2010年に刊行されたもので,フランスとドイツの国語教科書は2000年に刊行されたものである。分析にあたって,一つの作品内で起因者や受け手が,父母,息子と娘というように複数存在する場合には,種類,対処行動ともに複数単位として算出している。起因者や受け手が複数の場合には,葛藤内容が同じであっても複数単位として算出している。これらの細則に従いながら,葛藤の起因者の種類(父親,母親,息子,娘)と内容,受け手の種類(父親,母親,息子,娘)と対処行動,最終的な葛藤解決方法を分析し,イギリスとフランス,ドイツの3国間における親子間の葛藤解決処理方略についての比較分析を行った。分析対象作品数は,イギリス28作品,フランス79作品,ドイツ39作品であった。
結果と考察
1.葛藤の起因者の種類と内容
第一に,イギリスとフランス,ドイツの各作品において葛藤の原因となっているのは,親と子どものどちらなのかについて検討した。イギリスでは28作品中,37件が起因者として算出された。親は11件(29.73%),子どもは26件(70.27%)であった。親の中では父親7件,母親4件,また子どもの中では息子14件,娘12件であった。フランスでは79作品中,87件が起因者として算出された。親は26件(29.89%),子どもは61件(70.11%)であった。親の中では父親8件,母親18件,また子どもの中では息子47件,娘14件であった。ドイツでは39作品中,42件が起因者として算出された。親は9件(21.43%),子どもは33件(78.57%)であった。親の中では父親4件,母親5件,また子どもの中では息子11件,娘22件であった。3ヶ国の教科書における共通点として親よりも子どもが起因者として描かれる例がより多く見られた。子どもの実態に合わせ,子ども自身を葛藤の起因者として描写した可能性がある。
第二に,葛藤が引き起こされる要因となった状態や内容について検討した。親が起因者の場合,英仏独それぞれの教科書において,子どもの希望に沿わない行動が葛藤の主な起因内容となっているという共通点が認められた。また,子どもが起因者の場合,英仏独それぞれの教科書において,親の意に沿わない行動が主な起因内容であり,親に対して自らの考えを主張することが肯定的に捉えられているということが考えられる。一方で,フランスの教科書では,子どもの生活習慣やマナー,性格も葛藤の起因内容として認められた。
2.受け手の種類と対処行動の内容
親が受け手の場合,英仏独それぞれの教科書において,「注意」「要求の拒否」「怒り」といった直接的な対決姿勢をとる親が多いことが明らかにされた。
子どもが受け手の場合,イギリスの教科書において,「不承知の表明」と「不承知だが表明はしない」という行動が同程度認められた。フランスの教科書において,「不承知の表明」が最も多く認められた対処行動であった。そして,ドイツの教科書において,「不承知だが表明はしない」と「受け入れ」「親の意見に従う」という対処行動が多く見られた。ヨーロッパという文脈を共有していても,社会的に許容される子どもの対処行動が異なることが考えられる。
3.最終的な葛藤解決方法
イギリスの教科書では,「外部介入や物事の捉え方の変容による葛藤解決」が多く認められた。その一方で,仏独の教科書では,「直接対決による子どもの主張貫徹」「未解決」が主な解決方法であった。最終的な葛藤解決に関しても,英独仏で求められるスタイルが異なることが考えられる。
本発表では,次世代に伝達する価値観の中でも,イギリスとフランス,ドイツの親子間の葛藤処理方略に焦点を当てて,親子間で葛藤が生じた際に,どのような方法で解決することが3ヶ国の子どもたちに期待されているかについて明らかにする。子どもの社会化に影響を与える小学校教科書の内容分析をすることによって,現代のイギリス,フランス,ドイツの大人が望ましいと考える親子間の葛藤処理について検討した。
方法
本発表では,イギリスとフランス,ドイツにおいて,それぞれの国語を母語としている小学校1~3年生(6~9歳)用の国語教科書を分析材料としている。なお,イギリスの国語教科書は2010年に刊行されたもので,フランスとドイツの国語教科書は2000年に刊行されたものである。分析にあたって,一つの作品内で起因者や受け手が,父母,息子と娘というように複数存在する場合には,種類,対処行動ともに複数単位として算出している。起因者や受け手が複数の場合には,葛藤内容が同じであっても複数単位として算出している。これらの細則に従いながら,葛藤の起因者の種類(父親,母親,息子,娘)と内容,受け手の種類(父親,母親,息子,娘)と対処行動,最終的な葛藤解決方法を分析し,イギリスとフランス,ドイツの3国間における親子間の葛藤解決処理方略についての比較分析を行った。分析対象作品数は,イギリス28作品,フランス79作品,ドイツ39作品であった。
結果と考察
1.葛藤の起因者の種類と内容
第一に,イギリスとフランス,ドイツの各作品において葛藤の原因となっているのは,親と子どものどちらなのかについて検討した。イギリスでは28作品中,37件が起因者として算出された。親は11件(29.73%),子どもは26件(70.27%)であった。親の中では父親7件,母親4件,また子どもの中では息子14件,娘12件であった。フランスでは79作品中,87件が起因者として算出された。親は26件(29.89%),子どもは61件(70.11%)であった。親の中では父親8件,母親18件,また子どもの中では息子47件,娘14件であった。ドイツでは39作品中,42件が起因者として算出された。親は9件(21.43%),子どもは33件(78.57%)であった。親の中では父親4件,母親5件,また子どもの中では息子11件,娘22件であった。3ヶ国の教科書における共通点として親よりも子どもが起因者として描かれる例がより多く見られた。子どもの実態に合わせ,子ども自身を葛藤の起因者として描写した可能性がある。
第二に,葛藤が引き起こされる要因となった状態や内容について検討した。親が起因者の場合,英仏独それぞれの教科書において,子どもの希望に沿わない行動が葛藤の主な起因内容となっているという共通点が認められた。また,子どもが起因者の場合,英仏独それぞれの教科書において,親の意に沿わない行動が主な起因内容であり,親に対して自らの考えを主張することが肯定的に捉えられているということが考えられる。一方で,フランスの教科書では,子どもの生活習慣やマナー,性格も葛藤の起因内容として認められた。
2.受け手の種類と対処行動の内容
親が受け手の場合,英仏独それぞれの教科書において,「注意」「要求の拒否」「怒り」といった直接的な対決姿勢をとる親が多いことが明らかにされた。
子どもが受け手の場合,イギリスの教科書において,「不承知の表明」と「不承知だが表明はしない」という行動が同程度認められた。フランスの教科書において,「不承知の表明」が最も多く認められた対処行動であった。そして,ドイツの教科書において,「不承知だが表明はしない」と「受け入れ」「親の意見に従う」という対処行動が多く見られた。ヨーロッパという文脈を共有していても,社会的に許容される子どもの対処行動が異なることが考えられる。
3.最終的な葛藤解決方法
イギリスの教科書では,「外部介入や物事の捉え方の変容による葛藤解決」が多く認められた。その一方で,仏独の教科書では,「直接対決による子どもの主張貫徹」「未解決」が主な解決方法であった。最終的な葛藤解決に関しても,英独仏で求められるスタイルが異なることが考えられる。