日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC009] JFL環境下の日本語学習に関わる情意的要因の関連

習熟度との観点から

石橋玲子 (昭和女子大学)

キーワード:日本語学習, 情意的要因, 習熟度

1.問題と目的:
外国語学習の学習者に内在する要因には、認知的要因、情意的要因があるが、従来情意的要因はその定義と測定の困難さから重要性が指摘されていながらも研究はあまりなされていない(Swain, 2013)。日本語教育では、石橋(2013)が外国語学習環境下の中上級学習者を対象に情意的要因の実態、要因間の関連をみている。しかし、外国語の学習では特に学習初めの初級は中上級と異なる情意的要因が関連することが考えられるが、学習者の習熟度の違いによる情意的要因の関連は検討されていない。そこで、本研究では初級の学習者を対象に日本語学習に関わる情意的要因を調査し、中上級学習者の結果と比較、特に初級学習者の情意的要因に配慮した学習者主体の教室活動への示唆を行う。
2.方法:
調査協力者:タイの大学で日本語を学習している初級学習者56名。初級の認定は日本語能力検定試験のN3、または3級に合格していないこと。
調査票:石橋(2013)の調査票を使用。質問紙はタイ語併記。質問項目は教室不安(5項目)、リスクテイキング(6項目)、授業での社交性(5項目)、動機の強さ(7項目)、授業への態度(4項目)、日本語での自尊感情(8項目)、成績への関心(2項目)の合計37項目。各質問に6件法で回答を得る。調査時期は2013年7月から10月。
3.結果と考察:
表1に初級学習者の情意的要因別の平均点、標準偏差、中上級の結果(石橋、2013)及びt検定の結果を示す。表1の結果から、初級の学習者は中上級の学習者に比べて、授業への態度、日本語での自尊感情が0.1%水準で、動機の強さが1%水準で、成績への関心が5%水準で有意に高い数値を示しており、一方中上級の学習者は、リスクテイキングが5%水準で、教室不安が有意傾向で高いことが判明した。これは日本語の習熟度が上がると、
初級で高かった情意的要因の日本語での自尊感情や、授業への態度や動機が低下することを示している。次に、情意的要因間の相関を習熟度により比較すると、初級では、授業の社交性と教室不安には相関が弱く(r=-.03)、動機の強さと教室不安(r=-.41)は負の相関が強いことが判明した。また、中上級と比べて、初級では動機の強さと日本語での自尊感情の正の相関が強く(r=.58)、動機の強さとリスクテイキング間の相関も強い(r=.33)ことが判明した。このことから、本研究の初級の学習者は動機が強く、授業での社交性があり、教室不安との関連がないこと、また、動機の強さと自尊感情の関連が強く、授業での活動にリスクを感じることなく試みようとする姿勢が示唆される。以上より、日本語学習には強い動機があり授業への態度も積極的で、自尊感情が高い初級の学習者には、学習者の情意的要因を生かし、動機の強さの継続、自尊感情を尊重する教室活動が望まれる。