[PC013] ストリートダンスに対する大学生の評価
Keywords:ストリートダンス, ダンス必修化, 芸術表現教育
問題と目的
2012年の学習指導要領改訂により,中等学校体育においてダンス授業が必修化され(文部科学省,2008),ストリートダンスは,学校教育に広く導入された(中村,2009)。現場では,指導可能な教員の不足や指導方法の困難さなどの問題点が示されているが(e.g., 中村,2009),探索型学習の実施,コミュニケーション能力の育成,といったダンス運動の独自性(村田,2008)と合致した教育目標に賛同し,教員内では必修化に対する肯定的な意見が示されている(中村,2009)。生徒からも授業に対する好意的な意見が示された(広瀬,2004)。
これらはダンス授業について学校内部から是非を問うている。一方,社会におけるストリートダンスの位置づけに目を移すと,そもそもギャングや若者の抗争の代替として発展した経緯もあり(OHJI, 2000),クラブ文化と密接に関係したアンダーグラウンドな領域(Osumare, 2002)と捉えられてきた。だが,現在では若者文化の1つとして扱われ,企業の協賛する大会も行われるなど,その位置づけも徐々に変化してきている。そのような中,生涯に渡って活動に親しむ人間を育てる,という体育科の目標を達成するためには,指導内容を工夫し,学校内での評価を行うだけでは十分ではない。文化的背景や社会的評価を考慮し,授業実施後も長期間に渡ってダンス活動に親しむことが出来るような指導を目指すことが必要である。
以上の目標を視野に入れ,本研究ではまず,今後親や教員となって教育と密接に関わる世代である大学生が抱くストリートダンスへの印象やダンス授業への印象について質問紙調査を行った。
研究方法
自由記述による予備調査に基づき,質問紙(ストリートダンスへの印象27項目,ストリートダンスの授業への考え19項目,回答者の特性15項目の全61項目)を作成した。これを2012年6月○○日に,本学の教養学部に所属する学生に実施し,回答を得た。有効回答数は348名であった。
結果
まず特性に関して検討した。ストリートダンスの経験がある回答者は348名中8名(2.3%)とわずかで,実際に見た経験がある者も47名(13.5%)と少なかった。歴史的起源や大会等の知識を知っている者も各14名(4.0%),21名(6.0%)とわずかであり,また275名(79.0%)と多くの回答者が進んでストリートダンスに取り組もうとは思っていないと考えていた。全体としてストリートダンスに取り組み,親しみを感じている回答者はごくわずかであったと言える。
次に特性以外の46項目について探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,固有値の減衰状況を踏まえ,7因子解を採用した。因子負荷の低い項目等を除外し,再度因子分析を行い,結果を得た。因子負荷が高い項目を踏まえ,因子名は第1因子から「ストリートダンスへの肯定的評価」,「ダンサーの活発さ・熱心さの認識」,「路上での練習への肯定的評価」,「ストリートダンスの日本における普及の認識」,「ダンス授業における自主性・創造性の重要視」,「ダンス授業への肯定的評価」,「ストリートダンスにおける技術の重要視」と命名した。各因子の下位尺度得点の平均値を図1に黒線で示す。
第1因子(「ストリートダンスへの肯定的評価」)を回答者間の距離とし,ウォード法によるクラスター分析を行った。結果では大きく2つのクラスターに分類されたため,クラスター数を2として,各因子の下位尺度得点を比較した(図1)。第1因子得点の高いクラスター1,低いクラスター2間で,他の因子の得点にも大きな差が見られた。検定を行ったところ,全因子の得点において有意差が示された。
考察
本研究の結果として,以下の4点が示唆された。1)多くの大学生がストリートダンスを身近に感じ,親しんでいるとは言い難い,2)大学生は,ストリートダンスやダンサーに対しては,ある程度肯定的な評価を持っていたが,路上で練習するといったアンダーグラウンド性への批判は根強い,3)肯定的評価を持つ人と持たない人で大きく分かれる,4)肯定的評価を持たない人達は,アンダーグラウンド性についてより批判的であり,授業面に対しても肯定的評価を有していない。必修化されたとは言え,いまだに十分な社会的理解を得ているとは言い難く,生涯に渡り活動に親しむことの出来る指導を行うためには,これらの評価・現状を踏まえて指導内容を考案していくことが必要である。
2012年の学習指導要領改訂により,中等学校体育においてダンス授業が必修化され(文部科学省,2008),ストリートダンスは,学校教育に広く導入された(中村,2009)。現場では,指導可能な教員の不足や指導方法の困難さなどの問題点が示されているが(e.g., 中村,2009),探索型学習の実施,コミュニケーション能力の育成,といったダンス運動の独自性(村田,2008)と合致した教育目標に賛同し,教員内では必修化に対する肯定的な意見が示されている(中村,2009)。生徒からも授業に対する好意的な意見が示された(広瀬,2004)。
これらはダンス授業について学校内部から是非を問うている。一方,社会におけるストリートダンスの位置づけに目を移すと,そもそもギャングや若者の抗争の代替として発展した経緯もあり(OHJI, 2000),クラブ文化と密接に関係したアンダーグラウンドな領域(Osumare, 2002)と捉えられてきた。だが,現在では若者文化の1つとして扱われ,企業の協賛する大会も行われるなど,その位置づけも徐々に変化してきている。そのような中,生涯に渡って活動に親しむ人間を育てる,という体育科の目標を達成するためには,指導内容を工夫し,学校内での評価を行うだけでは十分ではない。文化的背景や社会的評価を考慮し,授業実施後も長期間に渡ってダンス活動に親しむことが出来るような指導を目指すことが必要である。
以上の目標を視野に入れ,本研究ではまず,今後親や教員となって教育と密接に関わる世代である大学生が抱くストリートダンスへの印象やダンス授業への印象について質問紙調査を行った。
研究方法
自由記述による予備調査に基づき,質問紙(ストリートダンスへの印象27項目,ストリートダンスの授業への考え19項目,回答者の特性15項目の全61項目)を作成した。これを2012年6月○○日に,本学の教養学部に所属する学生に実施し,回答を得た。有効回答数は348名であった。
結果
まず特性に関して検討した。ストリートダンスの経験がある回答者は348名中8名(2.3%)とわずかで,実際に見た経験がある者も47名(13.5%)と少なかった。歴史的起源や大会等の知識を知っている者も各14名(4.0%),21名(6.0%)とわずかであり,また275名(79.0%)と多くの回答者が進んでストリートダンスに取り組もうとは思っていないと考えていた。全体としてストリートダンスに取り組み,親しみを感じている回答者はごくわずかであったと言える。
次に特性以外の46項目について探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,固有値の減衰状況を踏まえ,7因子解を採用した。因子負荷の低い項目等を除外し,再度因子分析を行い,結果を得た。因子負荷が高い項目を踏まえ,因子名は第1因子から「ストリートダンスへの肯定的評価」,「ダンサーの活発さ・熱心さの認識」,「路上での練習への肯定的評価」,「ストリートダンスの日本における普及の認識」,「ダンス授業における自主性・創造性の重要視」,「ダンス授業への肯定的評価」,「ストリートダンスにおける技術の重要視」と命名した。各因子の下位尺度得点の平均値を図1に黒線で示す。
第1因子(「ストリートダンスへの肯定的評価」)を回答者間の距離とし,ウォード法によるクラスター分析を行った。結果では大きく2つのクラスターに分類されたため,クラスター数を2として,各因子の下位尺度得点を比較した(図1)。第1因子得点の高いクラスター1,低いクラスター2間で,他の因子の得点にも大きな差が見られた。検定を行ったところ,全因子の得点において有意差が示された。
考察
本研究の結果として,以下の4点が示唆された。1)多くの大学生がストリートダンスを身近に感じ,親しんでいるとは言い難い,2)大学生は,ストリートダンスやダンサーに対しては,ある程度肯定的な評価を持っていたが,路上で練習するといったアンダーグラウンド性への批判は根強い,3)肯定的評価を持つ人と持たない人で大きく分かれる,4)肯定的評価を持たない人達は,アンダーグラウンド性についてより批判的であり,授業面に対しても肯定的評価を有していない。必修化されたとは言え,いまだに十分な社会的理解を得ているとは言い難く,生涯に渡り活動に親しむことの出来る指導を行うためには,これらの評価・現状を踏まえて指導内容を考案していくことが必要である。