[PC015] タイピング技能獲得プロセス
ローマ字とモーラの関係について
Keywords:タイピング, モーラ, チャンキング
欧米に比べ、日本でタッチタイプ(ブラインドタッチ)できる者は非常に少ない。最近、熟練タイピストの二重化された階層的コントロール理論について盛んに研究されてきた。Yamaguchi & Logan (2014) は、熟練した英語タイピストにおいてチャンキングが多くの文字とキーストロークの処理に重要な役割を果たしているということを示している。本研究では、日本人学生に新規のキー配列のタイピング技能を習得させることによって、ローマ字入力タイピングの技能獲得プロセスにおける、日本語のモーラに基づくチャンキングの効果を調べた。
方法
実験参加者 日本人の大学生12名であった。実験参加者は全員ローマ字入力法で日本語を入力し、熟達したタイピストでないと自己報告した。
刺激と装置 短期間でタイピング技能を習得させるため、8つのキーのみから成る新規のキー配列のキーボードを新しく作った。それぞれのキーには、4つの子音と4つの母音をランダムに割り当てた。キーには文字のラベルはなかった。刺激は2文字のひらがなから成る熟知度の高い単語を8種類用いた。実験参加者は、これらの単語について4つのキーストローク(子音、母音、子音、母音の順)で入力することが求められた(図1)。
手続き 実験参加者は、はじめに新規のキー配列を覚えることが求められた。続いて、タイピング技能の習得場面では、画面に提示された2文字のひらがな単語に対してローマ字入力法を用いて、できるだけ速く正確に入力することが求められた。各試行は500 ms間の凝視クロスで始まり、500 ms間のブランクの後、ひらがな単語が提示された。被験者には、キー入力ごとに正誤のフィードバックが与えられた。参加者は、防音室の通常の蛍光灯の下で個別に64試行からなる8つのブロックを受けた。
結果
各条件のキー入力時間の中央値について分析を行った。試行ブロックとキー入力順序を変数として二要因反復測定分散分析を実施した。試行ブロックの有意な主効果があった、F(7, 77) = 32.4, p < .001。試行ブロックを経るにつれてキー入力速度が速くなり、学習効果を示した。キー入力順序の有意な主効果があった、F(3, 33) = 135, p < .001。第3キー入力の子音条件で母音のキー入力時間よりも遅かった。第1キー入力が遅いことは知られている。試行ブロックとキー入力順序に交互作用があった、F(21, 231) = 11.3, p < .001。第3キー入力の子音と第2, 4キー入力の母音のキー入力時間差がブロックを経ると小さくなったとはいえ、その効果は最後の第8ブロックまで残った(図2)。
考察
タイピング技能の習得初期では、日本語の階層的な構造に基づいてひらがな単語をひらがな(子音と母音のペア)に分割して入力していた。学習が進むとこの効果が小さくなったとはいえ、実験の最後まで頑健であった。英語のタイピングと比較して、日本語のモーラが子音と母音のペアの効果を強くしており、日本語ローマ字入力の困難性を示しているのかもしれない。
参考文献
Yamaguchi, M., & Logan, G. D. (2014). Pushing typists back on the learning curve: Revealing chunking in skilled typewriting. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 40, 592?612.
本研究は以下の論文に発表している(オープンアクセス)。
Ashitaka, Y. & Shimada, H. (online first). Acquisition process of typing skill using hierarchical materials in the Japanese language. Attention, Perception, & Psychophysics. doi: 10.3758/s13414-014-0693-4
本研究は、基盤研究 (C) 研究課題番号: 25380928 平成25年度から平成27年度 研究代表者: 嶋田博行 の支援を一部受けた。
方法
実験参加者 日本人の大学生12名であった。実験参加者は全員ローマ字入力法で日本語を入力し、熟達したタイピストでないと自己報告した。
刺激と装置 短期間でタイピング技能を習得させるため、8つのキーのみから成る新規のキー配列のキーボードを新しく作った。それぞれのキーには、4つの子音と4つの母音をランダムに割り当てた。キーには文字のラベルはなかった。刺激は2文字のひらがなから成る熟知度の高い単語を8種類用いた。実験参加者は、これらの単語について4つのキーストローク(子音、母音、子音、母音の順)で入力することが求められた(図1)。
手続き 実験参加者は、はじめに新規のキー配列を覚えることが求められた。続いて、タイピング技能の習得場面では、画面に提示された2文字のひらがな単語に対してローマ字入力法を用いて、できるだけ速く正確に入力することが求められた。各試行は500 ms間の凝視クロスで始まり、500 ms間のブランクの後、ひらがな単語が提示された。被験者には、キー入力ごとに正誤のフィードバックが与えられた。参加者は、防音室の通常の蛍光灯の下で個別に64試行からなる8つのブロックを受けた。
結果
各条件のキー入力時間の中央値について分析を行った。試行ブロックとキー入力順序を変数として二要因反復測定分散分析を実施した。試行ブロックの有意な主効果があった、F(7, 77) = 32.4, p < .001。試行ブロックを経るにつれてキー入力速度が速くなり、学習効果を示した。キー入力順序の有意な主効果があった、F(3, 33) = 135, p < .001。第3キー入力の子音条件で母音のキー入力時間よりも遅かった。第1キー入力が遅いことは知られている。試行ブロックとキー入力順序に交互作用があった、F(21, 231) = 11.3, p < .001。第3キー入力の子音と第2, 4キー入力の母音のキー入力時間差がブロックを経ると小さくなったとはいえ、その効果は最後の第8ブロックまで残った(図2)。
考察
タイピング技能の習得初期では、日本語の階層的な構造に基づいてひらがな単語をひらがな(子音と母音のペア)に分割して入力していた。学習が進むとこの効果が小さくなったとはいえ、実験の最後まで頑健であった。英語のタイピングと比較して、日本語のモーラが子音と母音のペアの効果を強くしており、日本語ローマ字入力の困難性を示しているのかもしれない。
参考文献
Yamaguchi, M., & Logan, G. D. (2014). Pushing typists back on the learning curve: Revealing chunking in skilled typewriting. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 40, 592?612.
本研究は以下の論文に発表している(オープンアクセス)。
Ashitaka, Y. & Shimada, H. (online first). Acquisition process of typing skill using hierarchical materials in the Japanese language. Attention, Perception, & Psychophysics. doi: 10.3758/s13414-014-0693-4
本研究は、基盤研究 (C) 研究課題番号: 25380928 平成25年度から平成27年度 研究代表者: 嶋田博行 の支援を一部受けた。