[PC019] フィードバックを得る手続きと達成目標が内発的動機づけに及ぼす効果
Keywords:内発的動機づけ, フィードバック, 達成目標
問題と目的
学業場面において,学習者の内発的動機づけを高めることは重要な課題である。本研究では,学習者がフィードバックを受け取るために何らかの手続きを行なう側面に注目し,内発的動機づけに及ぼす効果を検討する。また,その効果は学習者の持つ個人特性により異なると考え達成目標(Elliot & McGregor, 2001)に注目する。綾田(2014)ではマナー学習を題材に個別実験を行なったが,その他の学習内容においても,また個別実験と異なり他者と共に学習を行なう集団場面であっても手続きの複雑さの効果が見られるのだろうか。本研究では色彩心理学を学習課題とし,大学講義時間内に集団実験を実施した。
方法
対象者
大学1年生38名(男性34名,女性3名,不明1名)。
手続き
内発的動機づけ(事前)を測定する。学習課題の実施。課題は筆者の作成したもので群ごとにフィードバックを得る方法を操作した冊子状の教材である。群ごとに異なる形でフィードバックを受ける。内発的動機づけ(事後)と達成目標を測定する。
質問紙
内発的動機づけ(事前,事後) 岡田・中谷(2006)を修正して用いた。10項目5件法。
達成目標 藤田(2010)を修正して用いた。16項目5件法
結果
事後内発的動機づけ得点を基準変数,手続き,事前内発的動機づけ得点,達成目標を説明変数として重回帰分析を行なった。
事後内発的動機づけ得点=α+β1×事前内発的動機づけ得点+β2×手続き+β3×目標+β4×手続き×目標
特性変数に熟達回避目標を取り入れたモデルにのみ,手続きと目標の交互作用が有意な傾向であった(β=-.30, p<.10)。熟達回避目標の主効果は有
意であった(β=.44, p<.05)。交互作用が有意であったので,Jaccard & Turrisi (2003)に従って,手続き複雑群における熟達回避目標の主効果を検討した。熟達回避目標の主効果は有意ではなかった(β=.06, n.s.)。
考察
熟達回避目標を高く持つ学習者は,手続きが簡単であれば内発的動機づけが高まった(Figure1)。藤田(2010)によると,失敗への危惧は熟達回避目標に正の影響を与えている。つまり学習者が熟達回避目標を高く持つ背景には、失敗への危惧があると考えられる。今回行なった実験では,手続きを簡単にすることで課題に対する失敗への危惧をやわらげ,内発的動機づけを高めたと考えられる。しかし熟達回避目標を扱った研究は少ない(光浪, 2010)ため、さらなる検討が必要である。
本実験の結果は,これまで適応や内発的動機づけとの関連が見られず,外的調整や非動機づけとの関連(藤田, 2009)が報告されていた熟達回避目標を持つ学習者の内発的動機づけを,フィードバックを得る手続きの操作によって高められる可能性を示唆するものであった。しかし,綾田(2014)の結果とは一致しなかった。このことから手続きの複雑さの効果は安定したものではなく,課題の特質や課題に取り組む状況などを考慮したうえで捉えるべきであるといえる。
学業場面において,学習者の内発的動機づけを高めることは重要な課題である。本研究では,学習者がフィードバックを受け取るために何らかの手続きを行なう側面に注目し,内発的動機づけに及ぼす効果を検討する。また,その効果は学習者の持つ個人特性により異なると考え達成目標(Elliot & McGregor, 2001)に注目する。綾田(2014)ではマナー学習を題材に個別実験を行なったが,その他の学習内容においても,また個別実験と異なり他者と共に学習を行なう集団場面であっても手続きの複雑さの効果が見られるのだろうか。本研究では色彩心理学を学習課題とし,大学講義時間内に集団実験を実施した。
方法
対象者
大学1年生38名(男性34名,女性3名,不明1名)。
手続き
内発的動機づけ(事前)を測定する。学習課題の実施。課題は筆者の作成したもので群ごとにフィードバックを得る方法を操作した冊子状の教材である。群ごとに異なる形でフィードバックを受ける。内発的動機づけ(事後)と達成目標を測定する。
質問紙
内発的動機づけ(事前,事後) 岡田・中谷(2006)を修正して用いた。10項目5件法。
達成目標 藤田(2010)を修正して用いた。16項目5件法
結果
事後内発的動機づけ得点を基準変数,手続き,事前内発的動機づけ得点,達成目標を説明変数として重回帰分析を行なった。
事後内発的動機づけ得点=α+β1×事前内発的動機づけ得点+β2×手続き+β3×目標+β4×手続き×目標
特性変数に熟達回避目標を取り入れたモデルにのみ,手続きと目標の交互作用が有意な傾向であった(β=-.30, p<.10)。熟達回避目標の主効果は有
意であった(β=.44, p<.05)。交互作用が有意であったので,Jaccard & Turrisi (2003)に従って,手続き複雑群における熟達回避目標の主効果を検討した。熟達回避目標の主効果は有意ではなかった(β=.06, n.s.)。
考察
熟達回避目標を高く持つ学習者は,手続きが簡単であれば内発的動機づけが高まった(Figure1)。藤田(2010)によると,失敗への危惧は熟達回避目標に正の影響を与えている。つまり学習者が熟達回避目標を高く持つ背景には、失敗への危惧があると考えられる。今回行なった実験では,手続きを簡単にすることで課題に対する失敗への危惧をやわらげ,内発的動機づけを高めたと考えられる。しかし熟達回避目標を扱った研究は少ない(光浪, 2010)ため、さらなる検討が必要である。
本実験の結果は,これまで適応や内発的動機づけとの関連が見られず,外的調整や非動機づけとの関連(藤田, 2009)が報告されていた熟達回避目標を持つ学習者の内発的動機づけを,フィードバックを得る手続きの操作によって高められる可能性を示唆するものであった。しかし,綾田(2014)の結果とは一致しなかった。このことから手続きの複雑さの効果は安定したものではなく,課題の特質や課題に取り組む状況などを考慮したうえで捉えるべきであるといえる。