[PC027] 英語のルール学習における母語の自覚化の様相
Keywords:ルール学習, 英語, 母語
問題と目的
人文科学領域の学習場面でも,学習者が自成させている理論(以下,素朴理論と呼ぶ)が干渉を及ぼすことが教育心理学研究で論じられている。本研究は,母語に関連する素朴理論からの干渉とその抑制を含む「英語の応答に関する認知プロセス」解明のために行われたインタビューの結果に基づくものである。吉國(2013)の発表(以下,前発表)では,英語の語用論的ルールの教授場面において,母語-第二言語視点切り替え方略と,工藤(2010)を参考に「関係操作的思考」を促した問題解決と併せて,英語応答の際に動作も伴って自身が伝えたい意志を再確認する工夫を取り入れた影響を調べた。しかし,ルール教授後にも,異なる場面で一貫してルールを正しく適用できた者の割合は高くなかった。また,英語のルール学習と日本語の相対化の側面についてのみ注目して考察がなされた。本研究では前発表の工夫に加え,意思表示カードに「英語で応答者の動作を記入してもらう工夫」を取り入れた読み物を作成し,英語のルール適用への影響を検討する。さらに英語のルール学習と日本語の自覚化の側面との関係についても新たに調べることを目的とする。
方法
実験は事前調査→読み物読解→事後調査の順に行われた。3名の大学院生及び2名の学部学生,計5名に対する個別インタビューを実施した。実施説明書に基づく事前説明を行い,全参加者から同意書にサインを得た。5名のうち4名は,同内容の調査に「回答したことも概要を聞いたこともない」と述べ,1名は「回答したことはないが概要を聞いたことはある」と述べた。実験は2013年9月~2014年3月に実施した。事前調査の概要は,英文法の面白さ,応答課題(抜粋版),会話場面課題1及び2,英語のきまりや文化への興味,日本語のきまりや文化への興味の評定であった。読み物は「英語と日本語の応答方法のちがいについて(7頁)」の冊子であった。前発表までの工夫に加え,意思表示カードの裏に「英語で応答者の動作(I doまたはI don’t)を記入してもらう工夫」も取り入れられていた。事後調査では,事前の内容に加え,読み物内容の再認課題,日本語相対化の評定課題,日本語自覚化の説明課題(日本語で「ええ」「いいえ」と応答する際に気をつける点を説明してもらう課題),感想を尋ねた。
結果と考察
(1)読み物で教示されたきまりへの確信度は,全員が80%以上と高く,読み物への興味深さも全員が5段階評定で4以上と高かった。(2)事後の読み物内容の再認課題には,5名全員が全小問に正答できていた。(3)英文法への興味に関する評定平均の値が事前2.6→事後4.0と高まる方向へ変化していた。(4)英語の語用論的ルールの適用については,事前では複数場面に一貫して正しくルールが適用できた者は1名のみだった。母語に関連する素朴理論からの干渉が推察された。事後では,5名中4名が,3場面中2場面以上で一貫してルールを正しく適用できるようになっていた。(5)日本語の自覚化については,英語圏応答者の視点から日本語圏応答者の視点へとスムーズに切り替えて説明がなされていると推測できる反応(例:行かない前提で聞かれているから,・・「いいえ」って言う)が見られた。他方,英語圏応答者の視点から日本語圏応答者の視点へとはじめはうまく切り替わらず,日本語の使い方の説明過程で混乱が生じたが,その後に視点を切り替えられたと推測できる反応(例:行かないという意志表示をするのであれば「いいえ」を伝えて,あれっ,ここはおかしい・・。)も見られた。*本研究は科研費23530856の助成を受けた。
人文科学領域の学習場面でも,学習者が自成させている理論(以下,素朴理論と呼ぶ)が干渉を及ぼすことが教育心理学研究で論じられている。本研究は,母語に関連する素朴理論からの干渉とその抑制を含む「英語の応答に関する認知プロセス」解明のために行われたインタビューの結果に基づくものである。吉國(2013)の発表(以下,前発表)では,英語の語用論的ルールの教授場面において,母語-第二言語視点切り替え方略と,工藤(2010)を参考に「関係操作的思考」を促した問題解決と併せて,英語応答の際に動作も伴って自身が伝えたい意志を再確認する工夫を取り入れた影響を調べた。しかし,ルール教授後にも,異なる場面で一貫してルールを正しく適用できた者の割合は高くなかった。また,英語のルール学習と日本語の相対化の側面についてのみ注目して考察がなされた。本研究では前発表の工夫に加え,意思表示カードに「英語で応答者の動作を記入してもらう工夫」を取り入れた読み物を作成し,英語のルール適用への影響を検討する。さらに英語のルール学習と日本語の自覚化の側面との関係についても新たに調べることを目的とする。
方法
実験は事前調査→読み物読解→事後調査の順に行われた。3名の大学院生及び2名の学部学生,計5名に対する個別インタビューを実施した。実施説明書に基づく事前説明を行い,全参加者から同意書にサインを得た。5名のうち4名は,同内容の調査に「回答したことも概要を聞いたこともない」と述べ,1名は「回答したことはないが概要を聞いたことはある」と述べた。実験は2013年9月~2014年3月に実施した。事前調査の概要は,英文法の面白さ,応答課題(抜粋版),会話場面課題1及び2,英語のきまりや文化への興味,日本語のきまりや文化への興味の評定であった。読み物は「英語と日本語の応答方法のちがいについて(7頁)」の冊子であった。前発表までの工夫に加え,意思表示カードの裏に「英語で応答者の動作(I doまたはI don’t)を記入してもらう工夫」も取り入れられていた。事後調査では,事前の内容に加え,読み物内容の再認課題,日本語相対化の評定課題,日本語自覚化の説明課題(日本語で「ええ」「いいえ」と応答する際に気をつける点を説明してもらう課題),感想を尋ねた。
結果と考察
(1)読み物で教示されたきまりへの確信度は,全員が80%以上と高く,読み物への興味深さも全員が5段階評定で4以上と高かった。(2)事後の読み物内容の再認課題には,5名全員が全小問に正答できていた。(3)英文法への興味に関する評定平均の値が事前2.6→事後4.0と高まる方向へ変化していた。(4)英語の語用論的ルールの適用については,事前では複数場面に一貫して正しくルールが適用できた者は1名のみだった。母語に関連する素朴理論からの干渉が推察された。事後では,5名中4名が,3場面中2場面以上で一貫してルールを正しく適用できるようになっていた。(5)日本語の自覚化については,英語圏応答者の視点から日本語圏応答者の視点へとスムーズに切り替えて説明がなされていると推測できる反応(例:行かない前提で聞かれているから,・・「いいえ」って言う)が見られた。他方,英語圏応答者の視点から日本語圏応答者の視点へとはじめはうまく切り替わらず,日本語の使い方の説明過程で混乱が生じたが,その後に視点を切り替えられたと推測できる反応(例:行かないという意志表示をするのであれば「いいえ」を伝えて,あれっ,ここはおかしい・・。)も見られた。*本研究は科研費23530856の助成を受けた。