The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC035] 概念モデルにおける具体的情報の学習妨害効果

工藤与志文 (東北大学)

Keywords:概念モデル, 具体的情報, 学習妨害効果

【問題】
工藤(2013)は,フックの法則を例に,学習者が形成する法則的知識(ルール)の表象の抽象度および知識表象の操作可能性と抽象度の関連を検討した。その結果,①知識表象の抽象度が低い場合には,「変数値の具体化操作」が抑制される,②知識表象の抽象度が高い場合には,「変数値操作」が抑制されるといった結果が得られた。これらの結果は,抽象度が高い知識表象の形成が望ましいと一概には言えないことを示しており,むしろ抽象度の低い場合の方が有利な知識操作もあることを示している。以上のことから,高い抽象性と豊かな具体性を共存させた教示情報が最も有効であることが予想できる。本研究では,上記の性質を備えた教示情報として,概念モデルの有効性を検討した。
【方法】
実験参加者:国立大学教員養成系学部生142名
実験の概要:3種の実験用冊子を配布し,回答をもとめた。冊子の構成は①フックの法則についての質問②中学教科書の「フックの法則」説明部分③解説「フックの法則はつるまきばね以外に成り立つか」④評価課題,である。
実験操作は③の解説部分で行った。③ではフックの法則の一般性を説明している。ばねモデル群用冊子では,ばねモデルを提示し,弾性を「ばねっぽさ」と説明した。粒子モデル群用冊子では「粒子モデル」を提示した。ルール群用冊子では概念モデルは提示せず,ルールの説明のみとした。
ばねモデル:原子・分子を表す粒子どうしがばねでつながれた形で固体を表現。弾性変形を原子間のばねの伸びで表現する。
粒子モデル:原子・分子を表す粒子の積み重ねで固体を表現。弾性変形を粒子間の間隔の拡大で表現する。
評価課題:3種の物質(鋼鉄製ばね,大理石,プラスチック)と4種の事態(のびA,のびB,ちぢみ,もどり)を組み合わせた12の測定実験についてフックの法則の実験になっているか問う。
【結果】
事前の質問から,フックの法則に関する知識状態にばらつきがあることがわかったので,妥当な説明が可能であった40名を「説明可能群」,それ以外の102名を「説明不能群」として分けて分析する。説明可能群は高校物理におけるフックの法則の学習経験を有するものと推測できる。
3種の物質ごとの平均得点(4点満点)を示す。

説明不能群では,概念モデル提示の効果はみられず,先行研究同様,説明に用いた「ばね」以外の物質,特に「大理石」についてフックの法則の実験と認めない傾向が見られた。説明可能群でも同様の傾向が見られたが,粒子モデル群とルール群では,物質ごとの違いは緩和されている。これに対し,ばねモデル群では「ばね」の得点に比して,「プラスチック」「大理石」で低下する傾向がみられ,説明不能群の得点パターンと類似していた。このように,説明可能群において,ばねモデル提示が学習を妨害することが確認された。
【考察】
説明不能群の結果から,概念モデルはフックの法則の初学者にとって,思考の道具に成り得なかったことがわかる。また説明可能群においてばねモデルの学習妨害効果が生じた原因については,学習者の知識と具体的情報との統合の失敗が考えられる。説明可能群は,高校物理で学んだ抽象的知識(数式等)と概念モデルの持つ具体的情報を統一的に理解することができず,具体的情報がかえって知識操作を妨げる結果となったのかもしれない。教示情報における抽象性と具体性の共存は困難な課題であることがうかがえる。