[PC042] 協調的な学びを取り入れた授業の実践を支える教師の信念
Keywords:教師の信念, 協調的な学び, 算数
問題と目的
21世紀を生きるために必要な知識・技能の教育と評価を推進する動き(ATC21S)に呼応して,学校の授業は変化の要請にさらされている。学校教育において協調的な言語使用や問題解決の力を育成するために,教師が協調的な学びを取り入れた授業を柔軟かつ効果的に行えることが求められている。そこで本研究は,こうした変化を求められた際に,教師が経験する信念のコンフリクトや再構成の抑制・促進要因を明らかにすることを目的とし,協調的な学びを取り入れた授業の実践経験が比較的豊富である教員を対象として,授業実践と信念の関係を検討することとした。
方法
対象
小学校6年生を担当する30代の男性教員と,勤務校の6年生2学級。2学級のうち一方は同教員が担任を務める学級であった。教員は中学数学科の教員を経て教職大学院に進学し,修了後,現在の小学校に着任して2年目が経過していた。この2年間に4年生,6年生を順に担当し,学習者同士の協調的な学びを重視する知識構成型ジグソー法(CoREF, 2013)を用いた授業を年間10以上実践していた。
手続き
(1)計画 著者らが,単元「割合を使って」(啓林館6年下)の仕事算を題材とし,知識構成型ジグソー法を用いた45分の算数授業案を作成した。教員を対象に授業案に対する意見,および協調的な学びを取り入れた授業の実践経験に関する事前インタビューを実施しICレコーダで記録した。
(2)実践 1月下旬に2日間にわたり,授業を実践した。1日目に教員が担任ではない学級,2日目に教員が担任を務める学級で実施した。教室前方・後方にDVカメラを設置し,教員と児童全体,黒板を記録した。またグループでの話し合いを録画・録音した。著者らは授業を観察し,授業中,必要に応じて教員とコミュニケーションをとった。1日目の結果を踏まえ,課題に修正を加えた上で2日目の実践を行った。
(3)フォローアップ 児童に対し約1か月後に回顧テスト,約1か月半後に転移テストを実施した。教員に対し約4カ月に,1月の実践およびその他の授業実践について事後インタビューを実施し,ICレコーダで記録した。
分析方法
事前,事後インタビューおよび実践時の教師の言動を分析した。協調的な学びを取り入れた授業の実践経験の少ない教員が経験する困難として報告された「時間超過」,「発言者の偏り」への懸念(河崎, 2012, 2013)に着目した。
結果と考察
事前インタビュー時に教員に難易度の異なる課題の候補を示すと,児童間に思考の多様性が生まれやすいこと重視して意見を述べた。
実践時,1日目は最後に教員が解説し,45分内に授業を終えたが,2日目は途中で計画を変更して約70分授業を行い,解説は行わなかった。
事後インタビューから,1日目は担任でない学級を対象としたため解説を行ったとの説明があり,2日目の授業の進め方が教員の信念により即したものであったと示唆された。2日目のような「時間超過」は,本実践時以外にも必要に応じて選択すると肯定的な見解が示された。
授業を行う上で困難を感じる点として「発言者の偏り」への言及はなく,「思考の固着による発言の停滞」を挙げ,これに対して必要なグループに教師が問いかけ活動時間を延長したり,グループ間の交流を挟んで再度グループで話し合わせるよう取り組んでいると回答した。このように働きかけや待つことを行う一方で,教師が期待する通り進まないことを前提と捉えており,これを不安に思えば教師の解説が増え,児童同士の対話の時間を圧迫し,その授業内にできたことに満足し,結果として理解を保障しないという認識が示された。
以上,協調的な学びを取り入れた授業の実践経験が比較的豊富な教員は,経験の少ない教員が懸念する「時間超過」「発言の偏り」に対して異なる認識を示し,背後に,1授業内にできることを超えて学習者一人ひとりに理解を保障することが重要であり,そのために学習者間の思考の多様性と対話が必要であるとの信念の存在が示唆された。こうした信念の構成を支える経験や知識を解明し,教員の成長を支援することが今後の課題である。
21世紀を生きるために必要な知識・技能の教育と評価を推進する動き(ATC21S)に呼応して,学校の授業は変化の要請にさらされている。学校教育において協調的な言語使用や問題解決の力を育成するために,教師が協調的な学びを取り入れた授業を柔軟かつ効果的に行えることが求められている。そこで本研究は,こうした変化を求められた際に,教師が経験する信念のコンフリクトや再構成の抑制・促進要因を明らかにすることを目的とし,協調的な学びを取り入れた授業の実践経験が比較的豊富である教員を対象として,授業実践と信念の関係を検討することとした。
方法
対象
小学校6年生を担当する30代の男性教員と,勤務校の6年生2学級。2学級のうち一方は同教員が担任を務める学級であった。教員は中学数学科の教員を経て教職大学院に進学し,修了後,現在の小学校に着任して2年目が経過していた。この2年間に4年生,6年生を順に担当し,学習者同士の協調的な学びを重視する知識構成型ジグソー法(CoREF, 2013)を用いた授業を年間10以上実践していた。
手続き
(1)計画 著者らが,単元「割合を使って」(啓林館6年下)の仕事算を題材とし,知識構成型ジグソー法を用いた45分の算数授業案を作成した。教員を対象に授業案に対する意見,および協調的な学びを取り入れた授業の実践経験に関する事前インタビューを実施しICレコーダで記録した。
(2)実践 1月下旬に2日間にわたり,授業を実践した。1日目に教員が担任ではない学級,2日目に教員が担任を務める学級で実施した。教室前方・後方にDVカメラを設置し,教員と児童全体,黒板を記録した。またグループでの話し合いを録画・録音した。著者らは授業を観察し,授業中,必要に応じて教員とコミュニケーションをとった。1日目の結果を踏まえ,課題に修正を加えた上で2日目の実践を行った。
(3)フォローアップ 児童に対し約1か月後に回顧テスト,約1か月半後に転移テストを実施した。教員に対し約4カ月に,1月の実践およびその他の授業実践について事後インタビューを実施し,ICレコーダで記録した。
分析方法
事前,事後インタビューおよび実践時の教師の言動を分析した。協調的な学びを取り入れた授業の実践経験の少ない教員が経験する困難として報告された「時間超過」,「発言者の偏り」への懸念(河崎, 2012, 2013)に着目した。
結果と考察
事前インタビュー時に教員に難易度の異なる課題の候補を示すと,児童間に思考の多様性が生まれやすいこと重視して意見を述べた。
実践時,1日目は最後に教員が解説し,45分内に授業を終えたが,2日目は途中で計画を変更して約70分授業を行い,解説は行わなかった。
事後インタビューから,1日目は担任でない学級を対象としたため解説を行ったとの説明があり,2日目の授業の進め方が教員の信念により即したものであったと示唆された。2日目のような「時間超過」は,本実践時以外にも必要に応じて選択すると肯定的な見解が示された。
授業を行う上で困難を感じる点として「発言者の偏り」への言及はなく,「思考の固着による発言の停滞」を挙げ,これに対して必要なグループに教師が問いかけ活動時間を延長したり,グループ間の交流を挟んで再度グループで話し合わせるよう取り組んでいると回答した。このように働きかけや待つことを行う一方で,教師が期待する通り進まないことを前提と捉えており,これを不安に思えば教師の解説が増え,児童同士の対話の時間を圧迫し,その授業内にできたことに満足し,結果として理解を保障しないという認識が示された。
以上,協調的な学びを取り入れた授業の実践経験が比較的豊富な教員は,経験の少ない教員が懸念する「時間超過」「発言の偏り」に対して異なる認識を示し,背後に,1授業内にできることを超えて学習者一人ひとりに理解を保障することが重要であり,そのために学習者間の思考の多様性と対話が必要であるとの信念の存在が示唆された。こうした信念の構成を支える経験や知識を解明し,教員の成長を支援することが今後の課題である。