日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC058] 知的好奇心と批判的思考態度との関連

齋藤央典 (慶應義塾大学)

キーワード:知的好奇心, 拡散的好奇心, 批判的思考態度

背景と目的
 動機づけ研究において,古くから知的好奇心に注目が置かれてきた。波多野・稲垣(1973)によれば,知的好奇心は拡散的好奇心と特殊的好奇心の大きく2つに分類することができる。拡散的好奇心は知りたいと思う対象が定まっていないのに対し,特殊的好奇心は知りたいと思う対象が定まっている点に特徴がある。
 また,我が国における批判的思考研究は近年増 加している(道田,2013a)。批判的思考には技能と態度の2つの側面が含まれていると多くの研究者は考えている(道田,2013b)。この批判的思考態度尺度で代表的なものとして平山・楠見(2004)が挙げられる。
 池田・安藤(2011)は,好奇心が批判的思考力における全ての因子を高めることを明らかにした。この尺度作成において,山田・伊田(2003)の「大学生の知的好奇心尺度」が参考にされていた。この山田・伊田(2003)の尺度は特殊的好奇心のみを前提として作成がなされている。
そこで本研究では,批判的思考態度と知的好奇
心とりわけ拡散的好奇心との関係性を明らかにすることを第1の目的とする。また,知的好奇心が批判的思考態度をどれだけ説明することができるのかについて明らかにすることを第2の目的とする。

方法
対象者 都内3大学(私立2,国立1)に在学している大学生129名(男性73名,女性54名,性別不明2名:平均年齢19.6歳:SD=1.4)を対象とした。有効回答率は100%であった。
尺度 知的好奇心尺度としてLitman&Spielberger (2003)を翻訳した尺度(22項目), 批判的思考態度尺度として平山・楠見(2004)の批判的思考態度尺度(33項目)を使用した。
調査時期と手続き 2014年4月に調査は実施された。教育心理学の授業では教材として授業内に,その他の授業では授業終了直後に一斉回答によって実施された。

結果
 知的好奇心尺度に関して因子分析(最尤法・Promax回転)を行った。その結果, 2因子が抽出された。因子負荷量0.4未満の項目を除き,第1因子を拡散的好奇心(ex.新しい考えや概念について考えることは楽しい)(13項目:α=0.866),第2因子を特殊的好奇心(ex.複雑な問題に関する解決策を見つけ出すことが好きだ)(6項目:α=0.785)と命名した。
 批判的思考態度尺度に関しても因子分析(最尤法・Promax回転)を行った。その結果,3因子が抽出された。因子負荷量0.35未満の項目を除き,先行研究を考慮した結果,第1因子を探究心(ex.いろいろな考え方の人と接して多くのことを学びたい)(8項目:α=0.819),第2因子を論理的思考への自覚(ex.複雑な問題について順序立てて考えることが得意だ)(9項目:α=0.817),第3因子を客観性(ex.いつも偏りのない判断をしようとする)(8項目:α=0.759)と命名した。それぞれの因子の項目平均値を算出し,相関分析を行った(Table1参照)。また,拡散的好奇心,特殊的好奇心を独立変数,批判的思考態度尺度から抽出された3因子を従属変数とし,重回帰分析(強制投入法)を行った(Table2参照)。
考察
 Table1より,拡散的好奇心と探究心との相関関係が0.747と非常に高いことから,知的好奇心尺度における拡散的好奇心のコンポーネントと批判的思考態度尺度における探究心のコンポーネントが非常に近似していることが明らかとなった。
 また,Table2より, 自由度調整済み決定係数が全ての従属変数において有意であった。さらに,拡散的好奇心から探究心,批判的思考態度全体に対する標準偏回帰係数が有意であり,特殊的好奇心から論理的思考への自覚,批判的思考態度全体に対する標準偏回帰係数が有意であった。これらのことから,拡散的好奇心が高まるとそれに伴い探究心や批判的思考態度全体が高まり,特殊的好奇心が高まるとそれに伴い論理的思考への自覚や批判的思考態度全体が高まることが明らかとなった。